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ティオナの心。

「把握した! すまないがレティーシア殿もティオナの後に付いていってやってくれないか?」


ボクがわかる限りの状況をヴィンフリーデさんにも伝えると、先ほどの部屋に戻るように言われた。ボクがここにいても戦力にならないので、一つ頷いてから言われた通り部屋に戻る。


空に足場を作り戻っていくと、また戦況が違って見えた。

兵士一人一人の顔に生気が戻り輝いているのだ。


ティオナさんが戻った事を声で知り、そのティオナさんがヴィンフリーデさんを大声で呼んだことにより、ヴィンフリーデさんが戻った事も伝わったからだろう。


もう明らかに城壁内は殲滅戦になっており、侵入したモンスターが追いやられている。


そこだけ見れば押し返したようにみえなくもないが、実際は陥落寸前な事に変わりはない。

もう負ける直前だったものが、少し負けるまでの時間が長くなっただけの事。



城壁門はヴィンフリーデさんが代わりを果たしているが、門としての機能はもう死んでいるし、どちらにせよこのままでは城壁防衛をしている兵士の魔力切れと弾切れが起きるだろう。


そうなれば門塀問わずモンスターが流れ込んできてしまう。


その状況ではいくらヴィンフリーデさんやティオナさんがいても抑えることはできないだろうし、体格のお陰で侵攻できず、外で足踏みしている大型危険種が流れ込んできたら、それでお終いだ。この防衛線は放棄せざるを得ないだろう。


そんな絶望的な状況の中、()()()()()()()()()()()()窓の近くまで来ると大きな音が聞こえた。何かがぶつかった音だろうか。


中を覗くと、棚の下に倒れこんだアレクの姿が見える。

顔は殴られたのか腫れあがり、その表情は恐怖にゆがんでいる。


「報告をしろ。」


静かなティオナさんの声が、余計に恐ろしく聞こえた。

震え上がった文官がぽつりぽつりと説明を始めた。


「は、はいっ!」

「なぜリンクがここまでの重症を負っている。治らないのは何故だ?」


「はい! 開戦当初は想定通り、篭城戦にて戦線を維持。我々も広場本部にて指揮を執っていたのですが、開戦数時間後でしょうか……。突如空を覆うほどの巨大な敵航空戦力現れまして……。」


「それで?」

「は、はいっ……! そ、その航空戦力はこの砦よりも遥かに大きく、我が軍に配備された戦術兵、ラインハート直属軍、ラインハート公爵様に、公爵夫人全員での対処に当たることになりまして……。そこにリンク王子も参加されていたのですが、僅かずつ押されていき、ついには正門をその超大型航空モンスターの砲撃にて破られてしまいまして、一気に形勢が悪化。」


震える文官の説明は続く。


「さらにその砲撃が本部へと向いた際にリンク様が身を挺して本部を守ってくださったのです。ただ……モンスターが放つ物理魔術ということで……。」

「呪いか。」


「はい。傷を塞ぐ事ができず、今も治癒師が2人で命を永らえる処置で精一杯の状況に。この呪いを解呪できる解呪士もここにはおりませんでした……。」

「指揮はどうした? なぜ本部の機能が止まっている?」


「は、はい……。その超大型モンスターなのですが、大群用に設置してあった転送罠に嵌めることにより、遥か遠方未開拓地へと転送する事ができたのですが……その際にラインハート家ご頭首とそのご夫人、さらには他の戦術兵も全員転送されてしまい、本部に残ったのは我らと負傷されたリンク様にアレク様だけとなってしまったのです……。」


「……お前は文官だろう? 戦略会議の内容は把握していないのか?」

「い、いえ……私はその……比較的新米なものでして、戦略会議には出ておらず……。アレク様も自分が本部から援護射撃を行っていたせいで本部が狙われたことでリンク様が負傷されたのだと塞いでしまいまして……。」


「ちっ……どいつもこいつも使えん奴らばかりか。この状況でまだ15,6歳の王子が指揮もとれなければ動けない無能どもがっ!!! っ……違うな。有能な人間ができる事をしすぎて後進が育っていないのか。私のせいでもあるな……。」

「そ、そのような事は決して……。」


「アレク!」

「は、はいっ!」


そっと窓の外から眺めていたけど、アレクってばティオナさんには返事できるじゃん。

ちょっとイラっとしたし。


「お前もこの国の王子が一人。この状況とはいえ項垂れているだけでは済まないことくらいわかるな?」

「は、はい……すみません。姉さん。」


……え?


「私はもう嫁いで家を出た身。この国はお前たち兄弟2人がその身を以って繁栄させていかなくてはいけない。」


……ええ!!?? 嘘ぉ……。


「はい……。」

「まだリンクは死んでもいないぞ。お前は今、何をすべきだ。」


「わっわかりました。砦内の者を集め情報を。その後作戦を建て直し出来る限り戦況を長引かせて見ます。」

「ああ。援軍には我らの騎士隊も向かっている。それだけでこの状況は打開できんだろうが、ここで少しでも被害を食い止めておかなくてはならん。」


「はい……。」

「わかったらすぐに行動!」


「は、はい!」

「はい!」


あたふたしていた文官の人と、アレクが飛び上がり一斉に部屋を出て行った。

それにしてもティオナさんが第一王女様だったなんて……!!

なるほど、ヴィンフリーデさんが隊長なのに、姫騎士隊の人達がやけにティオナさんの命令もよく聞くなぁとは思っていたけど、そういうのもあったのね。

まぁ実力的に認められているって言う面も、もちろんあるんだろうけど。


確かに前にどこかでシルに、リンク様とアレクには姉がいるって聞いていたけど、確か名前が違ったような気がするんだよね?

だって、その話をしていた時に王家の人の名前はなんでそんなに長いんだろうって話をしたんだもの。流石にティオナって言う名前が長いだなんて思うわけないし。


確かフリスリュミエー……


あっ。


うっわぁ……フラ先生がモロに”フリス”って呼んでたわぁ……。


まぁそれだけで気づくわけないけどさぁ。

ってか先生ってば、王女様ですら呼び捨てなんかい!


あーその時に名前変えたって言ってたわぁ……。


わかるかいっ。そんなの。


「ん? レティーシアちゃん? どうしたの?」

「あ、はい。ヴィンフリーデさんにティオナさんのところに付いて行ってあげてって言われて……。」


「あいつめ……。」

「ティオナさんて王女様だったんですか?」


「あら? 気づいてなかったの? あ、そうか。レティーシアちゃんは平民の子でしたっけ。それじゃ顔も知ってるわけないわよね。」

「は、はい……。ごめんなさい。」


「そんなものよね。それに私、もう王女じゃないわ。」

「そ、そうなんですか……。」


さっきまでと打って変わって雰囲気が変わったティオナさんが、リンク様の下へ静かに寄り、手を握った。あれが素顔なのだろう。とても優しい姉の顔をしている。


「頑張りなさいよ、リンク。アレクは優しすぎるし、貴方はガサツすぎるんだから。あんた達兄弟はどっちが欠けてもだめなのよ。」


静かに時が流れる。

今外で戦争が行われているなんて思えないくらいに。




……うん?

呪いって魔法だよね?


「あの、ティオナさん。」

「あ、ごめんね。私もすぐ戦場に戻らないと。」


「あ、いえ違うんです。もしかしたらボク、リンク様の呪いとか解けるかも? ちょっとやってみていいですか?」

「え? ……ええ、もちろん。いいわよ? 試せる事は全部試しておくに越した事はないのですから。」


治癒師の2人は少し怪訝な顔をしているが、ティオナさんに反対するまでのことではないのだろう。そもそも試せる事は試しておくに越したことはない。その通りなのだから。


いや、だってボクの固有魔法クリアは、魔法を消せるんだから。

呪いを消す事だってできるでしょ。


「”クリア”」


リンク様に取り巻いている魔法効果に向けて、魔法を発動すると、予想通り魔法効果が消え去った。その瞬間に一気にリンク様の傷がなくなり、顔色が戻る。


「え!? 貴女一体いくつの固有魔法を持っているの……? 次元魔法といい魔法を奪う魔法といい……。はぁぁ……確かにこりゃ姫があんなに目の色を変えてまで欲しがるわけねぇ。」


治癒師の2人が突然終わった治癒に驚いている。

ふふん! ちょっと鼻が高くなっちゃうのはしょうがないよね?


まぁ、そんなことよりもボクとしては、元王女が公爵令嬢を姫と呼ぶ事にすごい今更ながら違和感を感じるんですけどね……。


「なぁに? 私は姫の事を尊敬してるから姫って呼ぶのよ。いいじゃない。」


あ、そうか。この人も賢王の一族だ。

ボクの心を読まれるのね。

そう考えたら、この人は黒髪に黒い瞳。

賢王の一族は、賢王の特徴を色濃く残す人ほど能力が高く現れるって前に誰かが言ってたっけ。


世界で空を自由に飛べる人間はこの人だけ。


なるほど。納得の高性能だね……。




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