反抗戦線!
「失礼しま……。」
ノックもせずに扉を開けて入ると、そこには重苦しい空気が流れていた。
2人の治癒師らしき人が、ベッドに倒れこむ赤い戦士に光を注ぎ、ベッドの脇には項垂れるアレクが地面を見つめて固まっている。
文官はパニックのように慌てふためき、ボクが入室したことに誰一人気づきもしなかった。
ああ、倒れているあの人がリンクだ。
何も言わずにベッドに近づくと、治癒師の2人が気づき視線だけ一瞬送ってくるが、気にもせずにそのまま治癒を続けている。
この世界には魔法がある。
魔法の治癒能力というのは、科学の世界を生きてきた記憶があるボクからしたら奇跡なんていう言葉じゃ足りない程の力だ。
命さえあれば致命傷だって治すことができるし、怪我の治療が一瞬で終わるなんて未だに理解できない。
その魔法を持ってして、今目の前にいる王子の傷は治る気配を見せていなかった。
きっとこの治癒師の2人は王国が管理している上級職のはず。
その2人の力を持ってしても、流れ出す血が止まらず、白かったはずのベッドは赤黒く染められていた。地面に滴る血もあわせたら、流れ出している血の量は尋常ではない。
多分、治癒師の1人もしくは2人とも造血魔法でどうにか命を永らえているのだろう。
傷を塞がないのは、塞げないのか、それとも他の意図があるのか。
ボクに治癒の知識はないので、何が起きているのかはわからなかった。
自分でもびっくりするほど冷静に頭が働く。
「ねぇ、何があったの?」
……誰一人口を開かない。
まぁここにいる治癒師や文官っぽい人達はボクのことなんて知らないだろうから、突然入ってきた一般人に答える義務なんてないだろうしね。
リンク本人は意識がないのだから答えられなくても当たり前だけど……。
ただアレクも何も言ってくれないって……。
リンクの状況に絶望しているのはわかるけど、アレクはボクがシルに仕えてこの戦場にいることくらいわかっていてもおかしくはないわけで。
なのに何も答えてくれないなんて。
寂しさよりも、憤りを感じてしまう。
どんな状況なのか、誰も答えてくれないのだから知りようもない。
だから、アレクがなぜあそこまでふさぎ込んでるのかなんてわからないよ?
わからないけど、格好よくない。
不甲斐ないとか、みっともないなんて言わない。
慕っていた兄があんな状況になれば、ボクだって絶望するだろう。
あれがボクの可愛い弟や妹だったら?
ボクなんか、この世界なんてどうだっていいって思ってしまうかもしれない。
でもアレクはこの国の王子で、男の子なんだよ?
格好よくはないよね。すごいイライラする。
「ねぇ!」
ドォン!!!
アレクの項垂れる肩を掴みあげようとしたら、外からものすごい衝撃が伝わり、アレク共々尻餅をついてしまった。
「いったぁ……。な、何?」
治癒師の2人が慌てふためきながらリンクを抑えている。
止まることのない血が、所々についていた血で赤かったくらいの治癒師2人を真っ赤に染め上げた。
窓の外を覗くと、突破されていた砦の入口に砂埃が立っていた。
「聞きなさいっっ!!!」
戦場を両断するかのような声。
「私がこの場を塞ぎます! 城壁防衛配備兵は砦前の救援にまわれっ!! 城壁配備兵は指示があるまで滞空戦闘を続けよ! 状況を把握している者はすぐに私の元へ報告に来なさいっ!!」
透き通るような独特な声。
戦場の爆音の中でも聞こえてくる声量。
この国の兵士であれば全員が知っているのだろう。
劣勢だった砦内の兵士が、一気に士気を取り戻していく。
各地で怒号があがる。
流れ入ってきていたモンスターの群れがぴたっと止まった。
さらに防壁裏に配備されていたものの、指示がでないのでどうしていいのかわからず、援軍に向かえなかった配備兵が隊列を成して砦へと援軍に押し寄せてきた。
この程度で形勢が逆転するほど、この戦況は拮抗しているものではなかったが、明らかにここが正念場だろう。
ボクも割る必要もない窓を怒り任せに割り、窓の縁に乗り出す。
振り返ると、何もしていない文官と治癒師の2人がぎょっとしているのに、アレクはこちらを向こうともしない。
失望と侮蔑の目を向け一歩を踏み出した。
ぅ。……窓を割ったせいでリンクの容態が悪化しちゃったらどうしよ。
そしたら王子殺しの罪とかになるのかな……?
怖くなったので、そっと扉を設置盾で塞いでおいた。
なんともみっともないけど、責任とか取れないしね。
そのまま空へと一歩を踏み出す。
向かうはティオナさんの下。
混乱しているこの戦況で、俯瞰的に戦場を把握しているのはボク以外にいないだろうから。
後、ティオナさんのいる場所。
最前線も最前線すぎて、あそこまで報告にいける兵士なんてそこまでいないだろうし。
モンスターの群れを一直線になぎ倒しながら門の前で迎え撃っているであろうティオナさんの下へ向かう。
兵士が回りにいない方が、気を使う必要もないので戦いやすいのだ。
流れ込んでくるモンスターが止まり、城壁内に侵入していたモンスターも士気を盛り返した各地の兵士から押し返されパニック状態になっている。
この状況であれば1人で進軍しても問題はないだろう。
「ティオナさんっ!」
予想通り大した抵抗も受けずに、一直線に門の下まで駆け抜けられた。
ものすごい暴風に砂が舞い、顔に当たっていたい。
「むっ! 貴女は……。」
「レティーシアです!」
「そうだ、レティーシアちゃん! 貴女もこちらに来ていたのね!」
「はい! ボクがわかる限りの戦況をお伝えします!」
「ありがたいわ! お願い!!」
止まないモンスターの猛追に、遠距離から浴びせられる魔法と矢や石の数々をものともせずにはじき返しながら話までしている。
この人が1人戦場に立っただけで戦況が変わるんだからすごい。
「まず城壁内は一気に盛り返し始めました! 城壁内に侵入していたモンスターの制圧は時間の問題かと。ただ、対空戦闘は未だに互角ですが、敵の数が多すぎます。シルたちの援軍が到着する頃には壊滅してしまう可能性も……十分にありえるかもしれません。」
「……司令部は何をしているの?指示が一切飛んでいないじゃない。砦の中の様子は見た?」
「は、はい……。リンク様が重症を負われ、それによって混乱しているようで……。」
突然ものすごい殺気が辺りを支配した。
思わず一歩引いてしまう。
「……ごめん。ラインハート公爵様は? 見かけなかった?」
「ご、ごめんなさい。顔がわからなくって……。」
「ううん……。じゃあラインハート公爵夫人は? 姫を大人にして、髪の色を金髪に染めたような女性よ。胸が姫よりも大きいからすぐにわかるはずよ。公爵様と一緒にいるはずだから夫人がいれば公爵様もいるはずなんだけど……。」
シルよりも胸が大きい!? そんな人見たことないよ……。
ってことはあの部屋にはいなかったはずだ。
「いえ、リンク様達がいた部屋には見かけませんでした!」
「そう……それはおかしいわね。アレクは何をしているの?」
「……そ、それがその……。リンク様の容態に気を落としているようで話もままならなくて……。」
「はぁぁぁぁ!?」
「えっと……その……。」
「ヴィンフリーーーーデ!!」
ティオナさんの声が戦場に響き渡る。
ものすごい勢いで金色の光がこちらに向かってきた。
まぁどう見てもヴィンフリーデさんですね。
「っと! やっと追いついたな。どうしたティオナ。」
「ここをお願い! 一匹たりとも門を通しちゃダメよ!」
「ああ、わかっている。状況は?」
「この子に聞いて! リンク達は砦のどこにいるの!?」
「あ、えっとあそこの壊れた窓の部屋に……。」
どうやらティオナさんはアレク達のところに行くらしい。
設置盾は解除しておかないとまずそうね。
そう思い解除した瞬間に、ティオナさんが一直線に向かって行った。
そのまま窓枠ごとぶっ飛ばしながら部屋に突っ込んで行った。
あ、ボクが割った証拠が隠滅された!
……ていうか、あれじゃあ窓の破片がリンク様に降り注ぐんじゃ?
だ、大丈夫かな……? リンク様……。
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