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惨状と絶望。

「その状況では……もっても3時間……といったところでしょうね」


ボクがモンスターパレードの惨状をシルに話すと、シルの出した答えは”約3時間後にグルーネの軍が壊滅するだろう”と言うものだった。

正直、黒幕の悪魔は山脈軍側にいることはわかっていたわけだし、兵数比で言えばこちらの方が山脈防衛軍よりも遥かに多かっただけに、もっと勝ちに傾いているものだとボクは思っていた。


けど、現状は違った。

勝ちに傾くどころか、かなりの敗色濃厚。


敗因は、エースユニットの不在っていうのはもちろんあるだろう。

シルの姫騎士隊というのは、モンスターパレード戦での切り札のような存在。今までは毎年いた、戦況を変えうる力のある戦術兵が12人揃って山脈防衛に当たってしまっている。

そして主要冒険者クランが山脈防衛軍側に参加してしまっていた事も大きな要因と言えそうだ。


そんなエースユニットがグルーネ側にいない中で、想定よりも遥かに大型危険種の数が多いようなのだ。山脈軍程の危険種ではないにせよ、一般兵が相手にするには難しすぎる相手。


それでもこちらは抑えられるはずだったのだ。


何年もの間侵攻を妨げてきた大きな砦に、数々の迎撃装置。

数の有利はないものの、城壁に設置されている潤沢に揃った兵器に魔道装置。

数日間だけでもよかったのだ。篭城できていれば、山脈防衛軍側が勝利を収めてさえくれれば、援軍がきてくれるはず。

それを待てばよかっただけなのに、既に城壁の中にはモンスターが流れ込んでしまっている。


さらに、砦の上からモンスターの群れを見れば大きなモンスターが目に付くくらいには大量にいる。そんな大きなモンスターが一定間隔ずつ配備され、そのモンスターを基点に通常モンスターに攻め入られているのだ。




シルと姫騎士隊が到着できるのは、速度からすると急いでも後1時間はかかるだろう。その後の援軍本体が追いついてくるのは、3時間しか持たないと予想される現状では難しいか。


「王子や国軍は? どれくらいの数が残っていたのかわかる?」

「……ううん。ごめん。」


「そう……。まぁそれを貴女に見てくるように言うのは、少し酷かしら。」

「……姫、私先行してもいいかしら?」


「ティオナ……。そうね。ヴィンフリーデ、貴女も一緒に行きなさい。」

「しかし……。」


「第一に守るべきは(わたくし)じゃなくてこの国の王子よ。間違えないで。」

「承知いたしました。ティオナ。心配だろうが無茶はするなよ……。」

「わかってるわよっ!」


そういうと、黒いオーラが爆発する様に噴出し、一気に飛び抜けて行く。

ヴィンフリーデさんもそれを追って行った。

黒と白の光が筋になって一瞬で消えていく。



「……レティ。」

「うん。大丈夫。」


「大丈夫よ、あいつらしつこいもの。そんなに心配することないわ。」

「そうだよね……。わかった。ボクも先行してくるね。」


「貴女も無茶をしちゃダメよ。城壁の内部に入られてしまっているのなら、貴女のさっきの広範囲魔法は使えないでしょう?」

「うん……了解だよ!」




先ほどまで眺めていた砦の上からの光景に、また視界を移り変える。

確かに、この敵味方が入り混じる混戦状況では範囲魔法など使えるはずもない。っていうか、そもそもインターセプトの魔法で魔力は底を尽きているんだから、そこまで大きな魔法なんて使えないんだけどね。


そんなボクができる事なんて、そこら辺の一兵卒と大して変わらないだろう。


本当ならモンスターの群れの後ろに回って、また白虹暴風なんかを打てれば少しは打開できるのかもしれないけど、実はあの魔法……ものすごい魔力を消費するんだよね。

設置するだけでものすごい効果を発揮してくれて、魔力消費量もかなり少なかった単一次元魔法とは違って、次元面を拡張するのに拡張していくだけごっそりと魔力を持っていかれていく。連発できる魔法ではない。


さっき魔法陣を奪う為に使ったインターセプトの魔法で、ボクの魔力量は殆ど空っぽ。

まだウルさんの料理効果で魔力量は回復していっているけど、この状態で撃ったとしても精々半径数メートル程度。その後魔力が切れたボクは、何も出来ずに死ぬしかなくなってしまう。


打開策として、残った魔力で白虹効果を付与した槍を生成した。

手に汗が吹き出てきて槍が滑ってしまいそうだ……


槍に次元斬撃効果が付与されるので、確かに攻撃力は高い。

もちろん、魔法知識をLv10にしたことで付与できた魔法効果である事には違いないが、積極的に使ってこなかったのには理由がある。


攻撃力が高すぎるし、燃費も悪いのだ。


未熟なままでは自分も切り裂いてしまうし、味方すらも断裂してしまう。

槍スキルが取れたことで実用的になったばかり。扱う手が震える。

さらに小さめとは言え白虹暴風(レーゲンヴィント)をずっと発動しているようなものだからね。魔力量が十分あるのなら使う必要性が無い。


今みたいに魔力量が足りない時の最終手段としてくらいしか、あまり使えない。

……使いたくないっていうのも、もちろんあるんだけどね。




現在の戦況は、パッと見たところこんな感じだった。


まず、戦場はというとモンスターパレード防衛線上に城壁が横長に建設されている。

戦場自体が平原ではなく荒れた山間部になっているため、崖上に設置されている城壁には、そう簡単に登ってこられるはずはないような立地。

城壁は横一線に約6キロ程続いており、その城壁上には兵器や魔道装置が等間隔に配備されていた。


もちろん、その城壁すべてが突破されているわけではなく、崖が一番低くなっており、入口となっている大きな門が設置してある場所が突破されてしまっているのだ。


入口は坂になって続いていて、モンスター側としても侵攻しやすい場所。

それだけに迎撃用の兵器や配備できる兵士の数はかなり大きく出来る様に作られており、一番防衛側も迎撃しやすく作られているポイントのはず。


さらにその城壁の内側にはかなり広めな広場があり、砦までは直線距離で500メートルほどの広さがとってある。その広場には、もしも城壁の突破を許してしまった時のために、策や簡易城壁のようなものが迷路のように張り巡らされており、砦から迎撃できる仕組みになっていた。




現在の状況は、その広場に入口の門からモンスターが流れ込んできてしまっている状態。


城壁上まで侵攻されているわけでも、砦内部まで侵攻されているわけでもないのだが、流入してくるモンスターの量が異常すぎて迎撃が間に合わないのと、城壁と砦上の兵士は対空殲滅がやっとで、広場への支援をしていられるほどの余裕がない。

この状況で、空からさらにモンスターが流れ込んでしまったら、それこそ一瞬で砦は落とされてしまうだろう。

つまり、広場内に流れ込んでくるモンスターは、狭い路地の中ぶつかり合ってとめるしかないのだ。そのため混戦に陥ってしまっていている。




誰かの怒号がそこかしこで聞こえるが、さっきまでいた戦場のように統率されているような気配が全くしない。もう既に指示が出来る状況ではないのだろうか?


受信用のイヤリングに何の反応もない。

確かに一括送信用の魔道具は今回初めてシルが扱っているだけだから、この砦にある送信魔道具では指示を一度に飛ばすことはできないけど、テレパス用の魔道具は送信した内容が直通になるわけではなく、魔力が変換された通信波が飛んでいく。だから通信波が飛んでいれば指示の内容は聞き取れずとも飛んでいる魔力の感知はできるはずなのに。


状況が明らかにおかしい。


……嫌な予感がする。




とりあえず先行してきたのはいいけど、ボクはこの状況でどうしたらいいかなんて全然わからない。できる事といったら、この槍で前線に行き、すぐにでも殲滅に加わる事くらいなんだけど……。

でも、そんなわずかな兵力でこの戦況を持たせることなんてできないし、ボクにそんな戦果が求められていない事くらいわかってるんだよ。


とりあえず状況の把握をしておくべきだろう。


……本当は見たくないけど、後悔するよりはましか。

そう思いグリエンタールで王子の居場所を探した。


ほっと息を吐く。


2人が確認できたからだ。

ただ、2人が同じ部屋にいることに……


違和感を覚えた。




リンク様とアレクが揃って司令部にいたとしてもおかしいことじゃない。

この国の王子が一番後ろにいるのは、むしろ普通のことだとは思うよ?

ただ、あのリンク王子が司令部に引きこもっているだろうか?

そして、王子2人が司令部で揃っているのに、指示が飛ばない訳は?


とにかく、そこへ行ってみよう。


モンスターとの戦闘なので、ボクのような見かけない兵士が砦内をうろちょろしていても、そこまで怪しまれる事がないのが救いかな?

それとも、怪しんでいる余裕もないのか。

砦内は、姿を消しているわけでもないボクに見向きもせずに忙しなく動く人達ばかり。

モンスターの中には人型のモンスターだっているだろうし、擬態するモンスターだっているだろうに、こんなに混乱していて大丈夫なのだろうか……?

あ、いや、大丈夫じゃないからこの状況なのか。




急ぎ足で王子の反応があった部屋の前まで行き、扉を開く。



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