王子様だったの?
「お久しぶりですね、アレク様」
そう返すと、アレクが少し暗い顔をした。
ボクとしては、アレクは一緒に幼少期を過ごした幼馴染で
魔水晶をプレゼントしてくれた恩人。
そして約束の場所に来てくれなかったという、ちょっぴりほろ苦い思い出もある。
とはいえ、あれからボクも家の手伝いやなんかで忘れていたのだから、お相子なのだけどね。
「……元気だった?」
少し照れくさそうに話しかけてくれるアレク様の仕草は、なんとなく懐かしいものを感じる。
「はい、とっても! アレク様のおかげで魔法学園に特待生として入学できました。ありがとうございます」
「そんなことはないよ。レティは昔から僕よりも魔法が得意だったじゃないか。特待生はレティの努力の結果だよ?」
「いえいえ、アレク様があの時、魔水晶の欠片をボクに贈っていただけなければ、どの道諦めていましたもの。アレク様のおかげですわ」
「そんなことはないと思うけどね……」
同じ会話の繰り返しになってしまうので、少し微笑んで終わらせてしまう。
う~ん……なんとなくだけど、会話が続かない。
昔はもっとしゃべりたいことでいっぱいだったのに。
本当は聞きたい。
なぜ休みの日に一緒に練習してくれると言ってくれたのに、会いにきてくれると言ったのに
来てくれなかったの?
待っていたのに。
どこかの貴族様だとは思っていたけど、まさか王子様だとは思わなかった。
だから色々と大変だったんだろう。と自分に言い聞かせる。
するとリンク様がアレクの背中をぱんぱん!と叩いた。
心の中でもアレクに様をつけておいたほうがいいかな? ボク、たまに駄々漏れみたいだし。アレク様、アレク様っと。
「に、兄さん!?」
「アレク、そんなんじゃ誰かにすぐ先を越されるぞ」
リンク様がにやりとする。
あれ? ボクは、このシーンをどこかで見たことがある。
この後、リンク様が振り返って人ごみの中に消えていく。
その後をアレク様が追いかける絵。
「すまんがアレク、俺もこいつが気にいった。ぼやぼやしてると俺がいただいてしまうからな」
そう言って予想通り、リンク様は振り返り、人ごみの中へ消えていった。
アレク様もそれを追う。
ボクの思い描いたとおりに。
……
え? 今リンク様なんて言った?
横をみるとイオネちゃんがとても驚いた顔でこっちを見ている。
「レティ、ちゃん。……」
言葉も出ないらしい。
そりゃそうだ。
まさかこんなシチュエーションで、まさか王子様に。気に入られたとか言われた?
意味がわからない。
……
ああ、せっかくシルのおかげでボクは平穏な学園生活を送れるはずだったのに。
あの王子様とんでもないことをしてくれた……
周りのボクを見る目が怖いよ!
痛いよ!
チッって聞こえた! チッて!
平民のくせにって顔に書いてありますよ! 皆さん!
あいつ声がでかいんだよ!
あ、王子様にあいつとか言ってしまった。
いけないいけない。心の中でよかった。大丈夫? 洩れてない?
イオネちゃんで確認する。
大丈夫そうだ。
ああ、助けて! シル……
は、人に囲まれててなかなか大変そうだ。
イオネちゃんの陰に隠れよう。
ごめんね! 慌ててるイオネちゃんも可愛いよ!
とりあえず、リンク様とはよくわからない既視感も感じるし、積極的には関わらないようにしよう。
なんか嫌な予感しかしない。
アレク様は……
昔のような仲に戻れたらいいけど、王族と知ってしまったから、ボク自身がそう接することができないのではないだろうか?
貴族位と王族位の間には、さすがにボクでも大きな隔たりを感じる。
貴族の中で最上位のシルを愛称で呼ぶことはできても、王族のアレク様を愛称で呼ぶことは……できるだろうか?わからない。そもそも多分周りが許してくれないし、二人きりの時だけなんて器用な真似がボクにできるとは思わない。まぁそんなシチュエーションもうないか。
ふと、思い出してテーブルを振り返るが
さっき取ろうとしたワイングラスは、すべてなくなってしまっていた。
あの濃い紫色の飲み物はなんだったんだろう。気になる。
ああ、残念すぎる。
はぁ。
え? イオネちゃん?!
取っておいてくれたのですか!?
天使かよっ!!!
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