モンスターパレードの脅威。
「……どうなったの?」
「とりあえずは大丈夫みたい。この戦場をお掃除したら帰ってくれるって。」
「そう……。じゃあレティの魔法は成功していたのね?」
「うん。そんな感じかな?」
「わかったわ。」
《これから我々はラインハート領で継続されているモンスターパレード戦の援軍へと向かう。まだ国の危機は去っていない。戦える物、戦う意志のある者は我々に続け!! ……もちろん、負傷兵、救護兵、他。ここで一旦休憩を取る事は一向に構わない。各自の判断にて戦線へ復帰せよ。》
「レティ。先に飛んで戦況を把握してきてくれる? 私達はすぐにでもここを発って東へ向かうわ。」
「おっけー。シルの居場所はスキルですぐ把握できるから、待ってなくても大丈夫だからね。」
「あら、とても頼もしい諜報要員で嬉しいかぎりよ。」
「では姫様。」
ぬっとヴィンフリーデさんがシルの横にでてきた。
その後ろには姫騎士隊が一同揃って並んでいる。
「失礼しやすぜ。」
その中でも一際筋肉が神々しい姫騎士さん……??? が、シルを抱きかかえた。
筋肉があると一言で言っても、フラ先生とかとは違って女性とは思えない筋肉量で、こんなこと言っちゃ失礼だけど女性的なフォルムがほとんど残っていない。
茶色い姫騎士隊の鎧も、筋肉にしか見えないくらい体に張り付いて変形してしまっているし……。
しかも革製の部分だけならまだしも、金属部分が大半の鎧なんだけど……それが体のラインそのままの形になっちゃってるようにみえるんですけど……。気のせいかなぁ……。
「では、レティーシア殿も。お気をつけて。」
お姫様抱っこの形で筋肉だるまさんが抱きかかえると、ヴィンフリーデさんを筆頭に全員が東へと走り抜けて行った。
それに付いていく形で、既に再編が終わった部隊も移動を開始している。
……今の傍観していた一瞬の時間で部隊の再編まで終わらせていたのね。
まぁなんというか。流石です。
こちらの戦争で生存していた全員がすぐに移動を開始したわけではなく、生存者のうち大方5割程がこの場に残って何らかの作業に従事している。
もちろん、怪我人と治療班もそのうちに含まれ、その中にイオネちゃんの姿を見かけた。
「イオネちゃん!」
「レティちゃん!! 無事だった!? なんか色々と大変だったね。」
「うん……。」
イオネちゃんは遊軍から救護班に回ったのだろう。最後の方は本陣近くにいなかったので、ボクが悪魔の人と対峙したりしていたのは知らないようだ。
「レティちゃんもすぐにモンスターパレードの方へ行くの?」
「うん。この後転移で様子を報告がてらね。」
「そう……。」
「ねぇイオネちゃん。」
「うん……?」
「シルのお家のある城下町にはね? 温泉街があるんだって。」
「え?」
「これが終わったら楽しい夏休みが待ってるんだよ! 頑張ろうね。」
「……うん。そうだね!」
ね。イオネちゃんには笑顔が似合うんだよ。
「じゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
どこかまだ暗いけど、笑う余裕がでてきたイオネちゃんを残してラインハート領へ。
転移しながらふっと移った戦場の風景には、悲しみに泣く兵士の姿も見えた。
今回の戦争で失った命は決して少なくはないだろう。
そしてこれから行く戦場ではさらに多くの命を失ってしまっていることと思う。
その中へ今から行く事の憂鬱さを押さえつけながら、転移眼で転移場所を探した。
ボクが転移できるラインハート領は、モンスターパレード戦場地から南部にある、当初シルの取り計らいで泊まる予定だった街が一番近い。
とはいえ街には寄っておらず、街の外延に沿って移動しただけなので、街の北門前に転移した。
大規模戦場地が近いだけあって、ここにはかなりの数の兵士が街を防衛する為に配属されている。全員が遠くから聞こえる戦場音に手汗を握り締めているのが窺える。
統率されている兵であれば、視界の穴は取りやすい。
北門の内側隅に転移し、そのまま北門外へと出る。
ここからでも戦場の光が遠くに見え、風が音や匂いを運んできていた。
大地が焼ける臭いと、灰が雪の様に舞っている。
ここからそのまま北側へ走ってしまうと、どう考えても北門に配備されている兵隊さんたちに捕まってしまうので、クリアの魔法で姿を消しておく。
緊張を隠せない兵隊さんたちを横目に見ながら、街道を北に走りぬけた。
2,3キロ程の距離を走ると、モンスターパレード用の大きな砦が見えてくる。
モンスターパレードは毎年の恒例行事なので、対策用の建物はしっかりと建てられているのだ。
大体こういった建物は、キャパシティを越えても大丈夫なように作ってあるのだけれど、今回はその想定を遥かに越えているわけだけどね。
完全に締め切られている扉は開けずに、飛天で上からお邪魔する。
まだ前線はここよりも先のようだ。
部隊が既に隊列を成していない。
最前線に張られている柵は完全に倒されており、砦を守る城壁の扉はぶち破られている。
そこかしこで上がっている火の手が、死体の油を焼いて燃え上がっている。
そして……遥か視界の先まで広がるモンスターの蠢く群れ。
この砦は防衛拠点として最後の要となる場所だけど、素人のボクが見たってもう落ちるのは時間の問題だと思われた。
……リンク様は? アレクは? 大丈夫なんだろうか。
グリエンタールで探せば見つかるんだろうけど、怖くて探す事ができない。
……だって、探してもいなかったら?
そんな現実受け止められない。受け止めたくない。
現状の報告をするように。と言われたので、シルのところに戻ろう。
きっとシル達がここに付いたら否応にもその安否ははっきりするのだろうし……。
……そんな事が頭によぎってしまうくらいには
酷い惨状だった。
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