科学は発展してなくとも、文化は発展してるんだよ。
ボン。
最初はその程度の音だった。
転移眼で現地にいてもその程度の音しか聞こえなかったんだから、何が来るか知らされていないこの大きなモンスターは、これから起きる事など知りようがあるはずもない。
地上で足止めされている超級危険種は2匹。
もちろん超級危険種なんてそこら辺にごろごろしているわけなんてないんだから、何かしらのモンスターの変異種であったり、相当進化を繰り返したような稀少種である事が多いわけで、基本的に見たことも無いようなモンスターが多い。
つまりは殆どの場合、誰にとっても初見の相手。
それでも1匹は説明しやすい外見をしていた。
キマイラという生物と瓜二つだからだ。
どでかいライオンの図体に蛇の尻尾。羽も一応あるけど、あんな羽であの巨体は飛べないでしょ。体の割にめちゃくちゃ小さい。飛翔用ではないのかな?
逆にもう1匹はなんとも形容し難い姿をしている。
一言で言えば醜悪。
どろどろとした黒紫の体皮に、無数の大きなギョロっとした目が突き出している。
どこから生えているのか規則性のない触手で体を支えている丸いフォルム。
滴る体液で枯れる草木。
無数に伸びる触手の数……。きも……。
ドン!!
「きゃっ!」
怖い物見たさなのか、そんなモンスターを転移眼で近くからまじまじと眺めていたら、突然視界が赤く覆われたことで、びっくりした反動で転移眼がキャンセルされ戻ってきてしまった。
尻餅をついてしまったお尻が痛い。
「な、何!?」
お尻から振動が伝わってくる。地震のような振動に、遠くから聞こえる何かがはじける音。
「噴火よ。」
「ふ、噴火!?」
本部が山側から、夜が明けたのかというくらいの光に照らされていた。
ここからでもすぐわかる程に赤いマグマが噴出している。
「えぇ?! これ大丈夫なの!?」
「大丈夫よ。ここに流れてくる前に止められるから。」
「止め……。」
魔法ってすごいんだなぁ……。
時に科学を簡単に上回っていくよ……。
もう一度転移眼を山頂付近に飛ばすと、マグマで赤と黒に染まった噴火口が見えた。
さっきまでここにいた超級危険種の姿が2匹とも無く、その2匹を足止めしていた戦術兵がものすごい剣幕で逃げていく様が遠くに見える。
……あ。シルの姫騎士隊の鎧を着た見たことのない女性が2人。
戦術兵とすれ違ったまま、こちらに近づいてくる。
色は桜のような淡いピンクと濃い紫。
2人とも見たことのない人だ。
やっぱ女性隊なだけあってピンク系の隊員さんが多いんだろうか?
まぁそんなことはどうでもいいか。
ちょちょ! ちょっとまって!
それ以上進んだらマグマに足突っ込んじゃう!
危ない! 危ないよ! 戻って!!!
いくらボクが転移眼で慌てた所で聞こえるはずも無く一瞬パニックになるが、シルの姫騎士隊ってつまりはあの人達と同格ってことだよね?
ってことはマグマとか大丈夫なんじゃない?
とか意味のわからない納得をしてしまうくらいには、先の戦闘光景はボクに衝撃を与えたものだったようだ……。
結局の所、実際大丈夫なようで。
マグマに足がついているのに焼けたりすることがない。
……うん?
そもそも地面に足が付いていないし……よく見ると体が透けている。
これ、もしかして精霊武装?
フラ先生のように炎化してたりするわけじゃないからすぐにはわからなかったけど。
あえて例えるなら”霊体化”だろうか。
現実に物体が2人をすり抜けていく。
噴火で巻き上がった岩やマグマも。
何もかも。
2人が噴火口にたどり着くと、半身が焼け落ちたキマイラがマグマの海から這い出てきた。
半身は焼け落ち、残った半身も無傷とは到底呼べる状態ではない。
申し訳程度についていた翼が見事に骨だけとなり、尻尾の蛇は既に死んでしまっているのかぐったりとして動く様子が無い。
よく見ると噴火口に波打つマグマの波に黒紫の触手がちぎれているのが見て取れた。
気持ち悪すぎて出番はこれだけでしたね! ご苦労さまでした。
ほんと、もう這い出てきたりしなくていいからね?
あ、フラグとかじゃないから。
……大丈夫、ボク今、口に出せる状況じゃないし。
姫騎士隊の2人が噴火口に手を翳していくと、見る見ると壊れた山頂が修復していく。
マグマが引き、地下へと戻されれていく。
足場を失ったキマイラも、もう抗う気力も術もなく、そのまま昏い穴の中へと落ちていった。
噴火の衝撃が一気に無くなり、岩や石が飛ぶことも無く、火山灰も収まる。
既に吹き出ていたマグマは、大気に触れもう黒く硬くなり始めていた。
超級危険種だったのに、こんなにあっさりといなくなってしまうものなの……?
しばらく観察だけして自分の体に意識を戻すと、シルがボクの様子を伺っていた。
「どんな状況?」
ボク、転移眼だけでこれからシルをサポートして生きていけるんじゃないかな?
指揮官が広範囲戦闘で、現地の情報をリアルタイムで実際見たように知れるなんて、すごい有益な情報じゃない? このスキルだけはどんなことがあっても無くならない様に死守しなくては。
まぁ実際、大きな怪我や病気等をしない限りスキルを使えなくなるなんて聞いたこともないんだけど。ましてやスキルが消えるなんて話も聞いたこともない。
だからといって心配しないでいいというわけでもないからね!!
「シルの姫騎士隊の人が2人、噴火口を塞いでたとこだったよ。桜色と濃い紫の人。超級危険種っぽい大きな2匹はそのままマグマの中に落ちてったかな。」
「あら、思いのほかうまくいったわね……。…………何故かしら。ここまで率いてきたはずのモンスターをこんなにあっさり壊滅に追い込むなんて。…………おかしいのよね。うまく行き過ぎているわ。」
「そうなの?」
「そうね。そもそも戦術兵に足止めされてたとはいえ、何故あの2匹は山の上から動きもしなかったのかしら。戦略を練られる魔人がいて、戦力を簡単に分断されたのも正直意図が読めないわ。」
「そんなに戦略って程の事じゃなかったとか? もしくはモンスターを扱いきれてなかったのかもしれないし。」
「扱いきれていないというよりも、うまく扱う気が無い……と言った方がしっくりくるかしら。モンスターに仲間意識が無い事なんて知っているけれど、それでもここまで攻めてきたのに。攻めてきてからがおざなりすぎるのよ。」
ここまでは本当にシルの思惑通りに事が運んでいる。
結果だけ見れば喜んでもいいようなものだけれど、その結果を作り出した張本人が違和感を感じているって言うのは、なんとも不安を覚える。
「そういえばさっきヴィンフリーデさんが落としてた蜥蜴は? どうなってるの?」
「さっきレティが噴火口を見ている間に首を落としたって報告があったわ。」
「うわぁ、流石だね。ヴィンフリーデさん。次元魔法を完全に遮断されてたのに倒しちゃったんだ……。魔人のほうは?ティオナさんが撃墜してたけど。」
「そっちはまだね。フラがさっき援護に向かったから、問題になることは……ないと思うのだけれど……。」
シルの言い方の歯切れが悪い。
やっぱり何かがひっかかっているのだろうか?
ボクからしてみれば、思惑通りにいって簡単に終わったのならそれに越したことは無いと思っちゃうんだけど、シルからしてみればここから大逆転!なんてされたら溜まったもんじゃないもんね。
しかも相手は上位悪魔か。
何をしてくるかわからないっていう疑問も理解できる。
「もう一回転移眼でティオナさんたちのほう見てみるよ。」
「そうね。お願いするわ。」
しばらく探すと、大分離れた場所にフラ先生の炎の光が見えた。
ティオナさんは纏っているオーラが真っ黒なので見つけ辛いし、魔人の人も基本色が黒なので見つけ辛い。先生が先に見つけていてくれたお陰で楽に見つかったよ、
まぁ、既にこんな大規模な戦闘をしているのはここだけなんだけど。
ヴィンフリーデさんも応援に駆けつけているのか、近くにはいるが手を出そうとはしていなかった。
悪魔の顔が引きつったままティオナさんと先生の攻撃を往なしている。
悪魔の武器は黒い仕込みステッキだ。
なんであれで剣と刀の攻撃が防げるのか意味が解らないけど、切り結ぶたびにものすごい硬そうな音がする。素材が単なる金属じゃないのだろう。
左手に柄を持ち、器用に2人の攻撃を受け続けるが、もちろん限度がある。
4度に1度くらいのペースで攻撃が入っていた。
ただ、自己再生能力が異常過ぎて致命傷となってはいないだけで、悪魔が2人にどんどん押されているのはボクでもわかる。
悪魔に苦悶の表情が浮かんだ。
「■■■■、■■■■■■。」
突然、悪魔が2人に背を向け全速力で空へと逃げ出した。
ティオナさんがすぐさま追いかけるが、設置魔法だろうか。
軌道上に進路を妨害する爆発が複数起こり、足を止められてしまった。
「■■、■■■■■■。■■■■■■■■■■■■。」
夜空一面に魔法陣が浮かび上がる……。
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