やっぱりそうでした!
本編が表題に追いつくまで、1日2更新が何日かあります。
基本アップ時間を変えていますが、読み飛ばしにご注意くださいませ!
「シル! ただいま」
大勢の人だかりができている中にシルを見つけた。
「おかえり……あら? どちら様かしら?」
シルの視線がボクの後ろに泳ぐ。
「あの……
「イオネ様だよ! お友達になったの!」
あ、えっと……はい……」
「レティ。淑女たるもの、人の話を遮ってはだめよ。」
ため息をつかれてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ、お初にお目にかかります。私はテュリス男爵家の娘、4女イオネと申します。シルヴィア様」
さすがにシルは公爵家なだけあってイオネちゃんも知っていたようだ。
「ご丁寧にありがとう、イオネ様。シルヴィア・エル・ラインハートと申します。よろしくお願いしますわ。ところで、どうしてレティと一緒に? お知り合いでしたの?」
「うん、さっき友達になったんだよ!」
「そ、そうでしたの?」
どうやらシルはボクのことを信じていないみたい! イオネちゃんにアイコンタクトで確認しているようだ。
「ほ、本当だよ!?」
「え、ええ、先ほど中庭に一人でいるところをレティーシア様に一緒にと連れてきていただいたのです」
「イオネ様、ボクのことはレティでいいよ! お友達だもの!」
「えっ……」
イオネ様は友達を愛称で呼ぶのは苦手なのか、少し照れた。
「その代わりボクもイオネ様のこと、イオネちゃんって呼んでもいいかな?」
「は、はい……」
お、綺麗なお顔が赤い。可愛い。
「そう、お一人で……。
ここは学園で私たちは生徒ですもの、貴族だとか階級など関係ありませんわ。私もシルと呼んでくださいませ。イオネ。レティ共々これからの学園生活、よろしくお願いします」
「は、はい……レティちゃん、シル……さま」
さすがに男爵家からすると公爵の次期当主であるシルを呼び捨てにするのは抵抗があるらしい。
「シルですわ」
うん、ボクも最初にシルと話した時にこんなやりとりをしたな。シルは公爵という爵位を鼻にもかけず周りと接してくれる。
"爵位など、所詮親か先祖の偉業であって、私の成したことではないのですわ。親の威厳を着飾る人になりたいとは思えないの。"
そう、寮の相部屋でお話をした際、ボクに話してくれた。
シルはそんな性格もあってか、とても親の信頼も厚く、男兄弟がいるのにもかかわらず次期当主をと、親に言われているらしい。
”でも、私は自分で爵位を賜るのが夢なんですわ。”
そんなシルと仲良くなるのは、そんなに時間もかからなかった。
平民出身のボクが学園に特待入学してくると知って、すぐに寮に入り、ボクと相部屋を申し出てくれたのはシルなのだそうだ。
シルは王都には王都用の家だってあるのだから、寮に入る必要などないのに。
例年、やっぱり平民がどの学科であれ特待入学で入ってくると、少なからず嫌がらせを受けることはあるみたい。酷い時は学校にこられなくなるほどらしい。
それを見越したシルは、事前に学園側に直談判して、ボクを囲ってくれたんだと、シルのお友達から聞いた。
シルが寮に入ることになって、それはもう今年の新入生は王都に通える家があろうがなかろうが、シルのお友達や公爵令嬢と繋がりを持ちたい貴族位の子たちが、こぞって寮入り希望なんて出してきたため、寮には同級の子がものすごく多い。
寮に入れた子たちがシルに挨拶に来たときに話してくれたのだ。
そのシルのお友達がパーティの支度を終え、今シルの周りに大勢集まってきている。
シルはボクと一緒で制服姿のまま。
多分ボクが一人で制服姿のまま目立つことを嫌ってくれたのだ。
まぁ、イオネちゃんもいるから、3人だけどね!
シルは本当に気も利くし、とても尊敬する。
イオネちゃんは可愛い。
ボクは楽しい。
シルには
「あまり遠くに行ってはだめよ」
とママのようなことを言われたので、シルの人だかりから外れない位置でイオネちゃんとダンスホールを見て回った。
「イオネちゃん! あれおいしそう!」
「イオネちゃん! あれおいしかったの!」
「イオネちゃん! これおいしくない!?」
イオネちゃんは嫌な顔一つせずに一緒についてきてくれる。
「レティ、ちゃん……まって……」
少し後ろをついてきてくれるのが、ものすごく犬っぽくて可愛い。
「イオネちゃん! これもおいしそうよ!」
そういいながらワイングラスを取ろうとすると、誰かの手に触れてしまった。
「あっ、ごめんなさいっ」
「あ、いや、こちらこそ」
……あれ?また既視感だ。
今日2回目?ダンスホールで? ワイングラスで? そんなの前世で一度だって行ったことも触ったこともない。実物を見たことすらないのに……?
不思議に想い手を触れた先を見ると、知っている顔があった。
「……あっ!」
「……お?」
今朝後ろから突き飛ばしてしまった王子様だ!
「あ、あの……王子様、今朝はごめんなさいでした……」
もうとにかく先制して謝っておく。しかしこんな形で再会するとは思っていなかったのだから、王子様の名前を聞くのを忘れてた。そして敬語も変になってしまった。
「い、いや、大丈夫だ。あれは忘れてくれ。な? 俺のためにも、お前のためにも」
とても圧力を感じるが、忘れていいと本人が言っているのだから忘れてしまうに限る。
「はい、ボク忘れました」
「それでいい」
などと言っている間に、後ろにいたイオネちゃんが王子様と挨拶している。イオネちゃんは挨拶は堂々としているのに、それ以降はボクの後ろに隠れ気味になってしまった。ものすごく庇護欲をそそられる。
「なぁ、お前もしかしてレティって名前か愛称じゃないか?」
そんなことを突然王子様から言われてしまった。
ボクはそんなに全生徒に周知されているのだろうか?
「は、はい。レティーシアと申します。皆からはレティと呼ばれていますが……」
「いや、そんなに畏まらなくてもいいよ。そっかそっか。お前がレティか。なるほど一発でわかるな」
確かにボクは外見的にも目立つけど。
「ちょっとここで待ってろよ」
そういうと王子様は有無を言わさず人ごみの中に消えていってしまった。
うん、チャンスだ。シルに王子様の名前を聞いておかないと。さすがにここが学園であろうと王子様の名前を間違えるのは結構やばいってことはいくらボクだってわかる。
「リンク様とお知り合いなのですか?」
シルに聞く前に答えが返ってきた。イオネちゃんナイス。
「ううん、今朝ちょっと登校中に後ろから体当たりしちゃって突き飛ばしちゃったの」
そう答えるとイオネちゃんの顔から血の気が引いている。やっぱり大分まずいことらしい。
「おい」
後ろから頭をつかまれた。
まって! 人間の頭は180度は回転しないのよ! まってええ!
「さっき忘れたはずだよな?」
リンク様が戻ってきていた。お早いご帰還なことで……
「おほほほほ……」
おおう、痛い。痛いわリンク様! このままではボクの頭が落としたゆで卵のようになってしまいます!!
「レティ!」
すると、リンク様の後ろからボクを呼ぶ声が聞こえた。
リンク様も手を離してくれる。命の恩人だろうか。
新入生の代表で挨拶をしていたほうの王子様だ、アレキなんとか……王子。
でもボクのことを知っているのであれば、たぶんそういうことなのだろう。ボクは鈍感系女子ではない。
「アレク? ……なの?」
後ろからものすごい焦るイオネちゃんを感じてはっとした。
ここには大勢の人が、貴族がいる。
そこで王子様を呼び捨てはまずかったようだ。
「アレク様? ……なの?」
無かったことにしてやりなおそう。
真顔である。
アレクは固まっている。最初にあった時を思い出すな。
「ぶっ……ふははははっ! おい、アレク。お前の話とは大分違うじゃないか!面白い女だな!」
リンク様が豪快に笑ってくれたおかげで、許された雰囲気になったようだ。一瞬前に殺されかけたけど、この場は感謝しておこう。
「レティ、久しぶりだね」
アレクも無かったことにしてくれたようだ。
ふふふ。この場でボクの粗相を知っているのはアレクとリンク様とイオネちゃんだけだ! よし無かった。大丈夫だ。
そっか。大分会わなかったうちに声も背丈も雰囲気も。
大分変わっちゃったね。
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