対山脈侵攻軍への道のり。
モノブーロ跡地 本部に戻ると、シルが戻って仕事をしていた。
シルのお耳には両方に4つずつのピアス穴が空いていて、左耳に1つ、丸い金色のイヤリングが付けられている。多分これがテレパス送信用の魔道具だろう。
なんとなくボクの付けている受信用とデザインが似ているしね。
勝手に後ろから近づき、右耳の開いているピアス穴にイヤリングを入れておいた。
「……。」
もちろんシルは気づいているけど何も言わない。
シルのお耳綺麗なんだよね。
ピアス穴もきちんと並んで耳たぶに3つ空いているし、残りの1つは耳の上側に空いている。
ついでに耳をこちょこちょしてあげた。
「ひゃうんっ……」
か、可愛い……。こういうシルさんも悪くないと思います……。
「な、何するのよ! それに何を付けたの? イヤリング……?」
「うん、お土産。」
手で触って確認している。別にはずしてもいいんだよ?
「……魔道具じゃない。何よこれ。」
むしろ手触りだけでよくわかったね……。
「う、うん。テレパス送信用魔道具と一緒に使うことで、受信用魔道具に送る指示が、一度に送信できるようになる魔道具だって。」
「……え? 本当に? 1度で? すごいじゃない。」
ほら。わかる人には良さがわかってもらえるはずなんだよ。
おじさんの売り方が悪かっただけだね。
「ボクもそう言われたけど実際にどうなのかはわからないから、試しに使ってみてよ。」
「ええ。いいわ。……そうね。じゃあお昼の召集の時にでも全受信魔道具に向けて発信してみましょう。それで本当にすべてに発信できるかもわかることですしね。」
「あ、なるほど。それいいね。」
「レティは準備は出来た? 後1,2時間後には召集。そのままシルロ村北部の決戦地まで移動して隊列を組む事になるわよ?」
「うん。大丈夫だよ。」
「ちゃんとおトイレには行った?」
「うぅ……。ママじゃないんだから……。」
「貴女の場合おトイレに行きたい時はすぐに戻れるからいいわよね。」
「そういう使い方はちょっと情けないような……。じゃあボクもシルの指示が受信できるか、モノブーロの中を適当にうろついてるね。」
「……レティの暢気さって、たまに羨ましいわ。」
「……褒め言葉として受け取っておくね……。」
本部の建物を出ると、朝までは慌しく動いていた人たちも大分落ち着いている。
もう村中……と言っていいのかな?
もう村でもないので跡地中かな。
跡地中を忙しなく走り回っている人はおらず、後は呼ばれたら集まるだけという面々が既に広場に集結しつつある。
流石に村の広場に10万もの大勢が入るわけもなく、農場跡地や牧場跡地にもそういった人たちが待機しているのが見えた。
もちろんこの村に全員が集まっているわけではない。
軍列を組んでるとはいえ、所詮モンスター。
スタンピードの時のように、軍列から逸れたモンスターが山脈から先に流れ着いて来ているのを、国軍と先行冒険者、ラインハート家の軍隊にて排除している。その部隊は、先にシルロ村北部決戦地にて部隊を展開しているらしい。
ここに最終召集がかけられるのは、後続冒険者軍と王都防衛軍で決戦地に参加する部隊、前線配置後に到着したラインハート家の後詰部隊、そして各大隊を預かる指揮官だ。
なのでそこまで人数が多いわけではなく道はきちんと空けられており、まだ物資の搬入や、決戦地であるシルロ村北部の広場に向けて先に送っておく物資班が移動を開始していた。
「もうすぐ大きな戦闘が始まるのかぁ……。なんか緊張してきたかも。」
「レティーシア殿は私が守ります。ご安心ください。」
モノブーロ跡地の風景を見て独り言を呟いたはずが、その独り言に後ろから返答が来た。声としゃべり方からしてヴィンフリーデさんだよね?
振り向くと風になびく髪が頭上から光る太陽に照らされてきらきらしている。
なんだろうこのエフェクト。
狙ってないのに自然がこの人を演出し始めるんだよね。
つくづく世界に愛されてるよ本当。
もうボクの中でのあだ名は勇者様になりました。女勇者かっこいい。
「? ……私の顔に何かついてますか?」
振り返ってから何も言わず見つめていたものだから、不思議に思ったヴィンフリーデさんが自分の顔をぺたぺたと触り始めた。
ぐぅ。天然属性まで……。どこまでかっこ可愛いんだよ。この人。
「い、いえ、ヴィンフリーデさんに見蕩れてただけです。」
「ななな、何を突然言っておられるのですか!?」
顔が真っ赤になった。
「か、可愛い……。」
……煙が出てきた。
こんな純情じゃ、シルにいじられ放題だろうに……。
ってかこの人どんだけ自分に属性つけていくのよ。
ボクのヴィンフリーデさんのステータスシートには
天然・巨女・真面目・純情・女勇者・自然に愛されている
の属性を記載させていただきました。
「あ! ヴィンフリーデさ~ん、レティちゃ~ん! もうこっちに来てたんだね!」
そんなステータスをこそこそ書き足していたら、牧場の方からイオネちゃんが大きく手を振りながら走ってきた。
「2人とも遠くからでもすっごいわかりやすくていいね!」
「……。」
「……。」
ボ、ボクも人のこと言える立場じゃなかったかも。
まさかこのヴィンフリーデさんと同列に扱われるとは思っていなかったよ……。
「私は別に男共がいればそこまで背が抜けるわけではないので……。」
「え? でも遠くから見て女性で背が高い人ってすぐわかりますよ!」
「そ、そうですか……。」
いつもは抉られる側のイオネちゃんが攻めております。
やっぱり背の高い女性はそれなりにコンプレックスを持っているものなのかな。
「イオネちゃん調合と錬金のお仕事は終わったの?」
「うん。とりあえずはね。後足りない分は現地で調合する事になると思うんだけど、私は遊軍に配属されちゃったから。とりあえず後は後方支援部隊に預けて終わりかな。」
「イオネ殿も、もう準備はよろしいのですか?」
「はい! 私はもうすぐにでも出られるようにしてありますよ!」
「ボクも準備終わって後は召集かかるの待つだけなんだけど、早く召集かけて欲しい気持ちと、召集がかかったら大きな戦闘が始まっちゃうから召集かかって欲しくないって気持ちと。複雑な感じだよね。」
「ああ、その気持ちわかりますよ。私も最初は緊張して戦争どころじゃありませんでしたし。」
「あ、そっか。ヴィンフリーデさんはラインハート家の直属だから毎年モンスターパレードとか対エリュトスとの戦争に参加してるんだよね?」
「そうですね。ラインハート家は主にモンスターパレード全般の対応をする事が多いのですが、私は姫騎士隊の隊長なので。軍を率いてエリュトスとの戦争に狩り出される事のほうが多かったのですが……」
「なるほどぉ。」
確かに、この人って付いていきたくなる雰囲気だしてるんだよね。勇者様的な?
そういう面を込めて戦争の早期解決に狩り出されるんだろう。
《全体召集。後発部隊は11時にモノブーロ跡地本部前に集合の事。》
お、聞こえた。
そこかしこでお互いの顔を合わせているイヤリング装着者が見て取れる。
どうやらシルへのお土産は成功みたいだね。
「あら? 一度に皆さんにテレパスが発信されたようですね……? 魔道具の機能を拡張されたのでしょうか?」
「うん。さっきちょっとね!」
「これは便利ですね。ではお二方共、参りましょうか。」
「うん。」
「はい!」
うわぁ。思ったより緊張する。
これから大規模戦闘かぁ……。
しかも負けられない奴。
まぁ負けていい戦争やら防衛戦なんてありはしないんだけど、この大規模戦闘は負けたらそのまま王都が蹂躙されてしまうのだから、国の危機そのものなんだよね。
ああ、なんかヴィンフリーデさんの背中、大きくて安心するなぁ……。
横を見るとイオネちゃんも顔が固まっている。
同じ気持ちだよねぇ。
ボクよりもダンジョン経験数なんか圧倒的に少ないわけだから、どちらかと言えばイオネちゃんのほうが緊張度合いは高いかもしれない。
よし! ボクがしっかりしないと!
「よぉしっ!」
「っわぁ……! ど、どうしたの急に……?」
「こういう時は大きな声を出して自分を鼓舞しないと!」
「ふふ。その意気ですよ。頑張りましょう。」
「よしっ!」
すごい小さかったけど、イオネちゃんの声も聞こえた。
少しは吹っ切れたのならよかったかな!
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