ルールは破る為にあるわけじゃないとは思うけど。
「おっし。じゃあシル、行ってくるね!」
「気をつけていくのよ? 危ないことはしないこと。向こうに着いたら渡した私服に着替える事。少しでも危ないと思ったらすぐに帰ってくること。戦果や結果よりも命が第一よ。ちゃんとわかってる?」
「わかってるって!」
学園に戻って着替えたいつもの軽装は、こういう時には重宝しかしない。
軽くて動きやすいし、今は周りの目とか気にしなくていいような平原に真夜中だし。
「いってらっしゃい。」
「じゃ、イオネちゃん戻ってきたらよろしくね!」
「うん、任せて! すっごい効くの、用意しとくね!」
「……あんまり効きすぎても困るかなぁ……。」
倒れてはウルさんに強制的に起された記憶が蘇るようだよ……。
ぼそぼそっと言い残し、モノブーロ村を出て真東に向かう。
真東にずっと走ると、南北に続く大きな道に出る。この道に沿って北へ行くと、大きく森の手前をカーブし、ロカスエロ周辺までたどり着く道。
今回は逆にこの道を少し南下する。すると大きな街に出た。
大都市エテルノフェクタ。
色々な物流の中継点になって栄えている街だけど、今日は特に用もないので、街へは入らずに、外壁に沿ってさらに東へ向かう。
エテルノフェクタから東に出ている街道を真っ直ぐ行くと、シルの実家のあるラインハート領へ着く。
ラインハート領は、グルーネ国を縦に5等分して一番右側の部分。それが大体ラインハート領の領土の大きさである。
つまりグルーネ国の約5分の1の領土を持つ大貴族。
それだけに大変な土地柄で、北部を未開拓地、北東はロトとの国境、東南はエリュトスとの国境となっており、管理維持がとても大変な領地でも有名。
今回は、今向かっている真東へ続く道を真っ直ぐ進むと、いずれロトへの関所へ通じるので、そこへ一直線に向かっている最中だ。
エリュトスとは戦争中でこちらの国から行き来すれば怪しい事この上ないし、監視も厳しいので走っていくのはあまり現実的ではない。
なのでロトを経由していく事になる。
もちろんクリアの魔法で姿を消していけばいけないこともないんだけど、エリュトスとグルーネの国境には何があるかわからない。罠があるかもしれないね。
それとロトを通るってこともボクの転移スキルにはプラスに成り得るため、地図に登録しておくという意味でもロトを経由しておくに越した事はないのだ。
ラインハート領に入り、1つ目の大きな街に辿りついた所でモノブーロまで転移で戻った。
シルに大体の進捗を報告し、細かな軌道修正を行う。
「え?! もうウチまで着いたの? 頑張りすぎてはだめよ?? 本番はこの後なんだから……。」
「こ、ここからラインハート領までって、馬車でも直通で16時間くらいはかかるんですよ!? 普通だったら2日掛ける道のりなのに、まだ2時間も経ってないよ……?」
シルが想定していた速度よりも相当速いらしく、2人に大分心配されてしまった。
そりゃ、ここ最近ボクがどれだけの走り込みをさせられてるか言ってないんだものね……。
こういう反応をしてくれるのが普通なのだ。
むしろ後ろからモンスターの大群が押し寄せてきていない分、少し遅れようが命の危険もないなんて状況はここ数日よりも遥かに楽だった。
同じ距離を同じ速度で走っても、モンスターの大群に襲われるかもしれないというストレスを抱えているだけでものすごい疲労が加算されていたようだ。
どう見てもここ数日間のスパルタ訓練よりも走った距離も時間もペースが上がってる。
イオネちゃんの調合してくれたお茶を飲むと、すっと体が軽くなった。
いらない力が抜け疲労も回復していく。
単純に体力も魔法で回復してもらい、強化魔法を掛けてもらうと、また転移でラインハート領まで戻ってきた。
今日の夜のうちに関所は越えておきたい。
……夜って関所通れるのかな? 普通通れないよね??
……そこまで行ったらシルに相談すればいいか。何か案もあるでしょ。
できれば今日中にロトのどこかの街で宿をとって、色々情報を収集しておければ最善だと思う。
明日は日曜なので、ロトでも沢山の人が行きかうだろうし日付としてもそれが理想。
シルの指示書によると、本当はラインハート領に入ってすぐの街で一泊していく予定だったんだけど、今回出来る限りの事は早いうちにやっておいた方がいい。遅れをとってしまってはダメなのだから。
関所が見えてくる頃には、夜も大分深け、日付も変わっていた。
雲が掛かっているのだろうか。月明かりすらないと、目が慣れるまで本当に何も見えない中大きな砦が見えてきた。
砦の壁には火の明かりと魔水晶の独特の明かりが散らばっており、周りが暗いのも相まって一段と明るく見える。
この砦がロトとの関所にもなっている場所だ。
「さて、どうしようかな?」
このまま姿を消して突っ切る事はできる。
いつぞやフラ先生と話していた時に、暗殺や諜報系のお仕事なんてもってこいだなんていわれたこともあったっけ。
それを思い出しながらちょっとわくわくしてる自分もいるんだけどね。
「まぁ、無駄に罪を犯す必要もないよね。」
思い直してモノブーロまで引き返した。
「シルーちょっといい?」
「あら? 今回は早かったわね。街で宿は探せた?」
「ううん。ロトとの国境まで来たんだけどね?」
「は?! なんでそんなところまで行ってるのよ! 無理しなくていいっていったでしょ?」
「う~ん、それが最近のスパルタ訓練のせいで体力がありあまっちゃって……。」
「こんな短期間にそれだけ走れるようになる訓練ってどんなよ……。」
「400km短距離走とか……。」
「普通に人が死ぬ奴じゃない。」
「言われてみれば……そう! それで国境まで行ったんだけど、夜って国境は越えられるの?」
「余程のことが無い限り越えられないわよ。」
「そっかぁ。」
「無理に急ぐ必要もないのよ? 今日はゆっくりしておきなさい。」
それが賢い選択ってやつなのかなぁ。
シルは無難に最低限の成果を期待している。
ボクは、そんなシルの期待をいい意味で裏切りたいと思うんだよね。
空回りして、最低限の成果も出せないんじゃ元も子もないけれど、ボクのスキルと固有魔法があって、諜報活動がうまくいかないはずがないんだから。
う~ん。ちょっと頑張ってみようかな?
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