《閑話》 バレンタイン、それは呪いの言葉!
バレンタイン特別話 2話目。
※本編とは関係ありませんので、読み飛ばし可
※時間軸的に未来の話になるので、一応わかるとは思いますがネタバレ部は消してあります。
バレンタイン当日。
「せ~んせっ!」
ひょこっと兵科の研究室に顔を出すと、部屋の器具で特訓中の先輩と指導中のフラ先生の姿があった。もちろん廊下から声が聞こえていたのでいるのはわかっていたのだけれど。
「あん?レティーシアか。どうした?今日は授業はねぇだろ?」
「うん。差し入れを持ってきたんだよ?もうすぐ休憩でしょ?」
王都で買った可愛い包み紙に、昨日作ったチョコレートを何種類かずつに分けていれてある。
板状のチョコレートを荒く割っておいたもの。
クッキーに混ぜたもの。
ドライフルーツと混ぜた物。
チョコレート味にしたクッキー。
この世界じゃ流通していないはずの味なだけに、好みが分かれてしまいそうではあるけど。
だからとりあえず実験台は先生と先輩でしょ。
いや、ボクはね?飯まず属性なんて持ってないから、お菓子はちゃんと分量通りに作るし、味見だってするよ?だから正直、今回のチョコレートは普通に美味しいと思う。自分としては。
ただ、ここの人たちがこれを美味しいと思うのか不味いと思うのかは、ボクの味覚とは別問題なのだ。だから実験台が必要なんだよ??
「ああ、もうそんな時間か。」
フラ先生がそうは言うものの、一向に先輩達の訓練は終わりを見せず。
約1時間後。やっと休憩の時間になった。
「きょ、今日は長かったね……。」
「最近先生も張り切っててね……。」
先輩の1人が倒れながらも口を開いてくれる。
こんな状態でチョコなんて渡して大丈夫かな?口の水分持ってかれないか心配だけど……。
「で?レティーシアは何をしにきたって?」
「あ、うん。これをみんなに渡しに来たんだよ?」
そういいながら人数分の包み紙を取り出す。
ここにいない先輩や、研究員の先生の分も含めて18個。
「なんだお前、お菓子作りなんて始めたのか?嫁入り修行かぁ?」
「ふふーん!今日はバレンタインなんだよっ!!」
「ばれんたいん……?なんだそりゃ。」
「いいから!ちょっとそれ食べてみてよ!」
そう急かして包み紙を開けてもらうと、総じて顔が固まった。
先生に至っては嫌な顔をしている。
予想はしていたけど……割とその反応ショックなんですけど。
ほら、色が色だけにね?クッキーかなんかの失敗作に見えなくもないんだよね。
ただ匂いが全然違う事に気づいて欲しいわけ。まぁ兵科で体だけ鍛えている脳筋共にそんなことは大して期待もしてないんだけど。
ってことは実験台としては一番適してるってことじゃない?
ボクって頭いいよね!!
「それ、失敗作じゃないからね?」
「ああ……?どっからどうみたって焦げてんじゃねぇのか?」
「違うから。それカカオから作ったお菓子なの。」
「カカオっておめぇ薬用じゃねぇか。あんな苦ぇもんでお菓子作ったってなぁ……。」
先輩達も一様に微妙な空気を出して口にしようとはしない。
しょうがない。ここはアレを使うしかない!
……
「ティグロ先輩……食べてくれないの?」
必殺!切なげ目線光線!
効果!これでぐっとこない男はいない!!
「うっ……わかった、た、食べるよ……。」
「あ、今運動で喉渇いてるならクッキーの奴より真っ黒な方がお勧めだよ??」
そう薦めると、ティグロ先輩の顔がさらに絶望顔になってしまった。
むぅ!!
食べてもいないのにむかつくっ!!
持ったまま固まっているティグロ先輩からチョコレートを分捕り、半開きになった口に押し込んでやった。噴出さないように口をしばらく塞いでやる。
「むぐぅ!!……むぐ?」
最初は慌てていたティグロ先輩も、少し経つと明らかに顔が変わった。
ほら!ちゃんと食べればそうなるんだから!!!
一連を見て様子を伺っていた回りの先輩と先生も、その顔の答えを待っている。
「あれ?ちょっと苦いけど甘くて美味しいかも?」
「ほら、言ったじゃん失敗作じゃなくてそういうお菓子なの!!」
一度食べたティグロ先輩が、何の躊躇も無く次のお菓子を食べ始めるのを見て、周りの先輩と先生も少しずつかじったりし始める。
「むむ。」
「あ、俺これ好きかも……。」
「甘すぎるお菓子よりいいかもな。」
そんな言葉がちらほら聞こえ始めた。
ほらね!!
「レティーシア。これはなんてお菓子だって?」
「チョコレートって言うんだよ?」
「本当にこれはあのカカオからできてんのか?」
「うん、だからカカオの薬用効果だってちゃんとあるんだから!!砂糖が混ざってるから食べ過ぎてもだめだけどね??」
「ほう……。」
先生も満更でもなさそうにチョコを眺めている。
どうやら嫌いで食べられない!って人はいなさそうだ。よかった。
これで他の皆にも配れるね。
見た目の問題については今後の課題として、とりあえず今年の分はこれで作ってしまったのでしょうがない。このままいつもお世話になっている人に渡して行こうと思う。
あ、そうそう。バレンタインについて一番肝心なルールの説明も忘れない。
「ね?美味しかったでしょ??」
「まぁ甘いだけの菓子なんかよりはいいな。疲れにも効果がありそうだ。」
「このチョコレートを2月14日に女の子が渡すのがバレンタインってイベントなんだよ?」
「へぇ……なんの意味があるんだ?」
「うん。1ヵ月後の3月14日に、女の子からバレンタインにチョコを貰った人は3倍の価値のあるものを返さないと呪われちゃうから。」
「はぁ??」
ん?ちゃんと聞こえなかったのかな??
「1ヵ月後の3月じゅう……」
「聞こえてたよ!なんで呪われんだよ……。」
「そりゃ、心を込めて、手間隙掛けて、お金も掛けて!作った美味しいお菓子のお礼を忘れたりなんかしたら、呪われても仕方ないと思わない???」
「そりゃ礼は……まぁ必要だがなんで3倍……。」
「そういう日だからだよ?」
「……。」
先輩達が物言いたそうにこちらを見ているけど、全く気がつかないふりをする。
「じゃ!来月期待して待ってるね!あっ早い分にはボクは歓迎するから!」
「おい!」
先生の呼びとめには応じずに扉を閉めて、そのまま転移した。
「ちくしょ!あいつ転移しやがったな!!」
「せんせー。あの子、小悪魔化が進行しすぎじゃないですかねぇ……?」
「いや、確かに美味しいけど、俺等食わされてから説明されたよな?」
「だから、明らかにわざとだろ……。」
「ってかレティーシアちゃんが言うと呪いとかマジで降りかかりそうで怖えんだよなぁ……。」
「言えてる。」
「俺は別に3倍くらいならいいかなぁとか思ってるくらいなんだが。」
「あ、俺も。どっちかっていうと嬉しいかも。結構うまいしな。これ。3倍ってどれくらいだ?」
「そりゃ俺だってそうだよ。砂糖も結構使ってそうだし、銀貨1枚くらいとか?」
「銀貨1枚でこれが買えるなら俺ちょこちょこ買ってもいいぞ?」
「ばか、礼は3倍だから銀貨3枚だろ。」
「ああ、そうか。3枚か……悩むな。」
「あーあ。皆こうやっていつもあの子にしてやられんだよなぁ……。」
「これがカカオでできてるっつーなら少しは体力も回復すんだろ。お前らももうちょい休んだら再開しろよ!」
「はぁ……。」
はい!残念でしたー!先輩一人当たりにかかってる原材料は銅貨1枚くらいでーす!!
転移の千里眼を使って聞いていた会話に思わず笑みがこぼれる。
手作りで作った物を美味しいといわれて嬉しくない女の子なんていないんだよ?
さらにそのお菓子の価値を10倍くらいの金額に換算してくれるなんて飛び跳ねちゃうくらいだよ。なのにお礼が3倍!緩んだ顔が元に戻らなくなっちゃうね!
えへへ
先輩達の反応は軒並み良かったので、次は本番の生徒会室へ!
実務を行う職員の部屋や生徒会室は、研究科棟にある。
研究科棟は、魔法科棟と兵科棟とは作りが少し違う為か、生徒会室と書かれた部屋がなんだかものすごく荘厳に見えた。
……主観なだけで全くそういう訳ではなさそうだけど。
コンコンッ
ノックしてみる。
すると、何の反応もなく
がちゃ。
と扉が開いた。
扉を開いてくれたリンクと目が合う。
「……あ?レティじゃねぇか。こんなとこにどうしたんだ?」
「ん?レティ?珍しいわね。ここにくるのなんて初めてじゃない?何かあった?」
リンクの言葉を聞いたシルも、後ろから来てくれた。
うん。知らない部屋に入る時ってすごい緊張するけど、ここまで知っている人が対応してくれると楽でいいね。すごいありがたい。
「ううん。つまらないものだけど、差し入れにお菓子を作ってきたの。」
「え?レティが料理……?している所なんて見たことないけど、できたの?」
「……シル。農民を舐めないでよね。自分で料理くらいできるんだから!」
3人で部屋の入口で話していると、知らない人も来てくれる。
「あ、じゃあ君がよく話しにでてくるレティーシアさんかい?こんにちわ。」
「あ、えっと……こんにちわ。」
なんというか……動作がめちゃくちゃ優雅な男性。
優雅なんだけど、その優雅さを感じさせないというか。なんか一言で言うと優雅って感じなんだもん。
ボク今優雅って何回思ったんだろ。
「僕が現生徒会長をやっているメルシオン・マル・ディアブルだよ。以後お見知りおきを。」
そういわれて手の甲にキスをされた。
挨拶なんだけど、ちょっと恥ずかしい。
リンクも挨拶として見慣れているからか、特に何の反応もしなかった。
「あ、はい。レティーシアです。よろしくお願いします。」
「それで?今日はどうしたんだい?」
奥にいるほかの生徒会メンバーにも注目を集めてしまっている。
こうなるととても話しづらいんですけど……。
そういえば、アレクの姿は部屋を見渡してもいない。今日はいない日なのかな?
「あ、その……。お菓子を作ったので差し入れに……。」
「おお、君が作ってくれたのかい?ありがとう!」
この人オーバーリアクションが過ぎない?
シルもリンクも何の疑問も感じていないようだから、このテンションが普通なのか。
とりあえず、兵科の先輩達に上げた物とは違い、もう少しできのいい包み紙を取り出す。
チョコも一つ一つ型に入れて形作ったもの。
「はい、シル。これ。」
生徒会の人用のものをシルに渡してしまい、配ってもらう事にした。
ボクが1人1人に配っていくのは中々難易度が高いからね……
リンクには直接そのまま渡す。
「今日はアレク様はいないの?」
「あいつは今授業中だな。」
「ああ、そうなんだ。じゃあアレク様の分も渡しておくね。」
そういってリンクに渡そうとすると、既にリンクが自分の小包を開き終わっている所だった。
「これはなんてお菓子なんだ?」
嫌な顔一つすることなく眺めている。
「チョコレートだよ?」
「へぇ?」
シルから声が上がった。
「失敗作じゃないからね!!」
「誰もんなこと言ってねぇだろうが。」
そういうと躊躇無くリンクがチョコレートを口へ運ぶ。
「苦味があるけど、甘いな。」
そういうところは男らしくてすごくいいと思います!
「へぇ、ほんと。でもおいしいわ。」
シルもなんの躊躇いも無く食べてくれている。
それを見た生徒会の人たちも、見た目に惑わされる事なく口に運んでくれた。
なんか嬉しい。
思わず顔が綻ぶ。
「おいしいでしょ!?クッキーの奴もチョコレート味になってるから食べてみてよ!」
「あ、ああ。……ああ、へぇ初めて食う味だな。」
「これ、美味しいわ。……売れるわね。」
シルは頭の中でどこの誰とも知らない人と商談を始めてしまったので放っておこう。
まぁ売りたいとなったらどうせそのうちレシピとかを聞いてくるだろう。
もしあたったりしたらボクも潤うしね!
「でもどうしたんだ?わざわざこれを届ける為に来たのか?」
「え?うん。今日はバレンタインだからね。」
「ばれんたいん?」
「うん。女の子がチョコレートでお菓子を作って、普段お世話になっている人にあげる日なんだよ?ち・な・み・に!意中の人に特別なチョコレートをあげる日でもあるんだから!」
リンクはボクを落とすって公言してるくらいなんだから、これくらいして煽ってもいいでしょ?
「そ、そうなのか。」
「うん。それでね?バレンタインにチョコを貰った男性は、3月14日に貰った相手に3倍のお返しをしないとだめなんだからね?そこんところよろしくね!!」
「……現金な奴だな。」
そういってくれる割にリンク嬉しそうですけど?
「レティはいつもこんなものよ?」
「3倍かぁ。何にしようか迷っちゃうなぁ。別に3倍以上であればなんでもいいのかい?」
そうだ。生徒会長も男性でした。ここにいるリンクと生徒会長以外の人は全員女性だったから、他の人に気を使わせないようにわざわざ男性ってつけたのに。
しかも既にお返しを考えてくれているよ。さすがすぎます。
「な、何でも大丈夫です!」
……断れない自分の貧乏性がにくいっ!!!
そんなこんなで逃げ帰ってくると、他にもお世話になった人たちにチョコレート菓子を配って歩いた。
冒険者ギルドへ行って、組んだ事のある知り合いとか、クランの人たち。
工房へ行き、ヨルテさんたちにもおすそ分けしてみた。
ドワーフさんにも軒並み好評だったのは嬉しい。
もちろんイリー達学園の友達にも渡し、シルとイオネちゃんには特別なものを作って渡した。
これで種まきは一通り完了!
イリーやキーファ達とのグループにチョコレート菓子をプレゼントした時に、今度作り方を教えて欲しいという話になり、イリーのお家にお呼ばれしてしまった!
何気に友達の家に行くというのは●●以外では学生生活で初めて!
それだけでも嬉しい。
お返しは1ヵ月後だよ!
何がもらえるかな?楽しみだなぁ。
明日からまた本編に戻ります。
今日閑話を作りつつ、本編の見直しをしていこうかと思っていたら、2度も執筆中に消えてしまい・・・。思っていたように進みませんでしたので、修正が間に合いません。週末できるかなぁ。




