《閑話》 チョコレートを作ろう!
折角なのでバレンタインデー特別閑話!
※本編とは関係ないので読み飛ばしてもらってもかまいません。
※季節感が本編とは合わないので、本編中に挿入するというよりは学園生活中のどこかでのひと時のお話です。
「んっ……おはよ、シル……。今日も生徒会?」
「おはよう、レティ。そうよ。だから先に行くわね。」
朝起きると、シルが既に支度をしていた。
生徒会のない日なら、シルはボクと同じくらいに起床するので、ボクが起きる時間に支度をしているということは、生徒会や何か用事があるってことなんだけどね。
この学園では、生徒会には結構な権限が与えられている。
というのも当たり前で、今後国を担っていく人材の育成という面もありつつ、実際は運営が行き届かないという側面が強いのだとシルが言っていた。
この学園には先生と呼ばれる人は相当な人数がいて、それが1人あたりの生徒を見られる先生の数が多いという、個別指導面で大きな利点が得られている。
ただ、先生と呼ばれる人員の殆どは、講師と呼ばれる研究室を持った先生の、研究室に属している研究員の先生であることが多く、実際に講師と呼ばれる人員は少ない。
それ以上に学園の運営をしている人員は少なく、実際に学園運営をしている理事と呼ばれる人たちは、運営面だけで手一杯で、実務は生徒にまかせっきりになるそうなのだ。
学園の運営をしているのは、理事と呼ばれる壮年から老年の高爵位で、家督を譲り終えた人たちが主に就いている。そのため、大きな発言力や強制力といったものは無く、それこそ今年入学してきた次期公爵頭首や、次期国王といった人材がいるのであれば、運営のみを行い実務は任せてしまったほうが身のためといったものだろう。
かといって、シルは生徒会の役職員ではない。
リンクはもう2年生になるので、役職があるんだそうだけど、ボクは興味ないのでどういう役職なのかは聞いたけど忘れちゃった。
シルにも役員の話は行ったらしいのだけれど、1年で入学したばかりだから、妥当ではないということで辞退したのだそうだ。
あ、リンク様に興味がないとかじゃなくて、生徒会役員に興味がないって話だよ?
だってボクには関係ないし。
とはいえ、シルが運営を任せても大丈夫だと思っているくらいには優秀な人たちが生徒会には集まっている事も確か。ってことは、ボクにとっては大チャンスな場所でもある。
シルやリンクがいてくれるから全く入りづらいわけでもなく、そして今後重要な役職に就くであろう人材がごろごろしている場所。
ここに顔を売っておいて損などあるはずもない!
今日ボクは、数年前に作った”とある物”を、また作って差し入れに持って行こうと思うんだよね。
今日は2月13日だよ?
明日が何の日かわかるよね?
うふふ。
え? この世界にバレンタイン?
まぁ……うん。ないよ?
そもそもチョコレートって言うものがないので、自分で作る必要があるんだよね……
あれは12歳の頃だったかな?
幼少の頃よりは図書館へ通う事もなくなってはいたけれど、パパの手伝いなんかで、ちょこちょこ行っていたフルスト領の貿易都市フェルハンデル。
沢山の貿易品を扱っている為、幼少期の頃は危険な物とそうでない物の区別がつかず、あまり興味をもてなかったのだけれど、少しずつ判る様になってきてからは、どんどん面白くなって見て回るようになり、そこでとある物を見つけた。
カカオだ。
カカオ自体は普通に流通している。ただ食用というわけではなく、薬用という側面が強く、かなり苦いので料理に使われる事は少ない。
それを見て思い立ったボクは、前世暇をもてあましていた頃に原料から作った事があるチョコレートを作ってみたのだ。
12歳の農家の娘。
なけなしのお小遣いで。
砂糖が高すぎて泣けたのは今でも鮮明に覚えている。
前世では、自分で作るには大変なことが色々あった。
原料やレシピなんかは調べればすぐにわかったから苦労も何もなかったのだけれど、カカオからチョコを作るのはとても難しかった。
何度か失敗してしまったのだけれど、時間は沢山あったので最終的には作れたのを覚えている。
今世ではさすがに12歳だったボクに金銭的な面で失敗など許されるはずも無いので一発勝負。
まずカカオ豆を洗い、炒る。それが終わったらセパレーティング。皮や胚芽を剥く作業なんだけど、まだ12歳で体力のないボクにはめちゃくちゃ大変だった。
なんといっても、この頃持ってた魔水晶はアレクから貰った欠片だけだったからね。難しい命令が必要な魔法なんか登録できるはずもなかったんだよ。
次はカカオ豆を砕いていくんだけど、カカオ豆は油分が多くて砕くのも一苦労。前世ではフードプロセッサを使ったけど、機械自体がすぐに固まって動かなくなったりする。
今世のボクは魔法を使ってみたけど、魔水晶の欠片で扱える魔法なんてやっぱりたかが知れている。
そして一番大変なのは、砕いた後に潰す作業。
ひたすらに砕いては擦って潰し……。
そしてある程度までになってきたら他の材料を混ぜて、濾して混ぜて……。
それを続けていくと硬かったチョコレートが、柔らかくなってくるので湯煎にかけながら滑らかにするように練り練りします。
それが終われば、殆どチョコレート。まだ液体だけどね。
後は調温しながら固めればいいだけ。
初めて作ったチョコレートの味は……まぁ想像よりも大分苦いしほろほろしちゃうし……。
ボクとしてはかなりの大失敗だったんだけど、それを見ていたママは食べるなり美味しいといってくれて、パパや弟と妹にも渡したんだっけ。
ほんと、出来は最悪だったな。
今度は前回の失敗を踏まえ、さらに美味しくなる様に頑張ろう。
あの頃よりも遥かに魔法も上手に使えるようになったから、色々練ったり捏ねたり磨り潰したりなんていう作業が遥かに精度も密度も強度だって高く出来るんだから!
そんで、生徒会のみんなに配ってあげよう。
うふふ。今のボクにとっては、恋心より下心なんだよ??
と、いうことで王都にやってまいりました。
ちょっとゆっくりしてきたのでお昼前という事もあり、沢山の人でにぎわっております。
王都を練り歩いたわけじゃないから詳細までわかるわけじゃないんだけど、王都というのは真上から見ると二重丸の形をしていると思う。
丸というのは壁のことで、外の丸が外壁、内側の壁が内壁だ。
内壁の内側に王城や学園など、国の運営する大きな建物が建てられており、半径にして4~5kmくらいだろうか? それだけでもかなり広い。
入学してからすぐの体験履修時、研究科から見えた広い牧場のような場所や森は、学園敷地内。
さらに、内壁から外壁の間も5kmくらいの広さがあり、王都全体の直径は20kmくらいあるという事になる。つまり、ここでボクが迷子になっても別におかしいことではないってことだよね?
まぁグリエンタールがある限り、迷子になるなんてことはありえないんだけど。
この2つの壁には、それぞれ東西南北の4箇所に門が設置されていおり、王都自体は4つの区画に分かれている。
まず内壁の内側を指す王城区。ここには王城を初めとした色んな国営の建物があり、魔法学園もそのうちの一つ。他にも色々な国営の大きな建物が立ち並んでいる。
内壁から外壁までの区画は、大きく3つの区画に分かれており、北門から入ってすぐに生活区が左右に立ち並ぶ。
北門から入って右側に少し進むと、生活区が工業区に変わる。
王都の中で一番大きいのがこの工業区となり、南門辺りまでの約半分を占めている。
南門あたりから東側は商業区となり、実は冒険者ギルドもこの商業区に建てられている。
南門の大通り沿いなので、工業区とも面しているんだけどね。
と、いうことで!やってまいりましたのは商業区です!
フルスト領にあって、ここ王都にカカオが無いわけはないのだ。
少し歩いて回ると、すぐにカカオは見つかった。
他の材料であるバターやお砂糖、ミルクなんかを買って歩く。
材料からしても12歳の頃よりもちょっといい物を買い揃えられたし、一番は砂糖が適量買えるだけの財力が賄えた事が大きいね。今度は美味しいチョコができるといいなぁ。
「よいしょっと。」
学園に戻ると、研究科の調理室にそのまま足を運んだ。
調理室はそこまで毎日講義で使用されている部屋でもないし、生徒なら借り放題。
授業外の時間を使って貴族家のご令嬢方が花嫁修業をしているらしいけど、ボクは行ったことないのでどんな事をしているのかは知らないんだけどね。
まずは12歳の頃に作ったものを、素材と魔法の質が上がった今の技術と財力で完成させてみようと思います!
それがおいしくできたら、ちょっとアレンジを加えてみる。
固める型は魔法で簡単に作れるので思いのまま色々な物を作れるしね。
後は味とトッピングだよね。
色々目についたよさそうな物を見繕ってきた。
果物の乾物や、クッキーに焼いて混ぜてもいいと思う。
うふふ。なんか楽しみだなぁ。
こういうのって作ってる時が一番楽しいと思うんだよね?
友達とかとも一緒に作れたりなんかしたらもっと楽しいかもね。
もう1話続きます。




