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本当の力の意味を知って。

ダンジョンを戻りながら少しだけしてくれた説明を纏めると、こんな状況らしい。




まず、150層の現状はおかしかったのだという。


本来150層からは敵が魔法を使ってくる為、難易度が飛躍的に上がる事はわかっていたこと。それは事前に注意も受けていたし、分かっていたことではあるんだけど……




そもそもロカスエロの150層より深部へ行く場合、基本的にはパーティ間やクランで共闘して上がっていくのが基本になる階層らしい。

それでも、現パーティであれば200層のボス前までならいけるだろう。そう踏んで人をわざわざ集めてボクの経験を積ませるために上ってきたんだけど、いざ150層までたどり着いた所、様子が違ったんだそうな。


いくら150層から難易度が飛躍的に上がるとはいえ、入ってきた瞬間にあそこまで待ち構えられるようにモンスターに急襲を受けるというなんて事は、他のダンジョンの経験からしても有り得ないんだって。


というのも、国内外問わず、基本それぞれの国に所属しているダンジョンというのは、それぞれの国の方法で管理されているのだとか。


そして、グルーネ国ではダンジョンの存在する領主が基本的に管理する。



今日のような危険な状態になる前に大隊程度の人を雇い、モンスターの排除をしなければならない。

200層まで行けば、ボス部屋を開けない限りはそのボスから上の層にいるモンスターは這い出てはこないのだそうだ。


そして、ボクが魔法を放って迎撃に出た3人が見た光景は、想像を超えてあまりある物だったらしい。足の踏み場もないくらいのモンスターの死骸に死骸。


だからこそ、違和感を感じたわけだ。

今まではこんなこと無かったはずなのに、領主が何もしていないことに。




そこで、アルト様が調べだしたところに話が繋がっていく。




「それで、ギルドの報告書にはなんて書いてあったの?」

「あ~……それなんだがな。一応ルールを守るとするとお前はまだ登録冒険者だ。情報公開範囲に含まれていねぇんだよ。」


「ええ? でもゴブリンスタンピードの件なんでしょ? 一応ボクだって当事者だよ?」

「ああ、そうなんだがな……。」


まぁギルドのルールというならしょうがないのだけれど、そこからが話の肝なだけに、ボクには今何が起きているのか一切把握できないというのは歯がゆいものがあるよ。


「それでだ。まぁ丁度いいっちゃ丁度いいんだが、実は来週の土曜に冒険者の昇級試験がある。今日までのクエストをクリアしておけば昇格条件要項はクリアできる手はずだったからな。元々受けさせるつもりだったんだ。」

「あ、なるほど。それで昇級さえしちゃえば秘匿する必要もないってこと?」


「そうだ。どっちにせよ調査や準備でかなりの時間もかかるだろうからな。お前は1週間後の試験を昇格するように準備をしておけ。申し込みはあたしがやっておいてやる。」

「来週の土曜って、次の日から夏休みが始まる日だよね?」


「ああ、そうだ。昇格試験は基本的に土日にしか行われねぇからな。」

「わかった。」


「あたしらは多分、クランごと狩り出される。もし予想通りの事態なんだとしたら、この1週間はあたしも学園には戻れなくなるな。研究室の奴らにもそういっておいてくれ。」


……。学園の仕事も放棄してまでやらなきゃいけない事態って、どんな大事なの?

知りたいけど、知る為には来週の試験をクリアしなきゃいけないのか。


「よし、レティーシア。お前は先に学園に戻れ。」

「え!? でも道中ボクが殲滅に加わった方が早くない?」


「いや、わりぃな。あたしらが全力で走るのにはお前を待たなきゃいけねぇんだ。」

「あ、足が遅いもんね……。わかった。」





……なんか大変そうな時に力になれないってすっごい悔しいし、すごい悲しい。


多様で強力な魔法だけ持ってたとしても、足りないものが沢山あるね……


なんか、色んな魔法が使えたりすることが、周りの評価が高かったせいもあって何でもできる気でいたんだよね。実際は何にもできないんだ。ボクって。




1人足を止めて岩陰に移った。




速度を上げた3つの影が一瞬で暗闇の中に消えていく。


昨日殲滅したばかりのダンジョンは、それほどモンスターが沸いてるわけでもなく、行きの時に比べたら10分の1もいない。


少しばかりついてきていたモンスターをなぎ払っておくと、転移で学園に戻った。


予定外にモンスターが多かったせいもあり、150層に着いた頃には夜近い時間になっていたのだろう。100層に戻った時、1日リポップのボスが沸いていたということは夜にはなっていたということになる。




そんな時間に部屋に直接戻ったのだけれど、シルは見当たらなかった。

朝出る時は、今日はゆっくりしてそうな雰囲気だったのに。買い物にでも出かけたのだろうか?




何も出来ないまま時間だけが過ぎていく。

ふと時計に目をやると、夜も大分更けているのにシルも戻ってこない。

嫌な予感がさらに気持ちを煽る。




心配すぎてイオネちゃんの部屋に行くと、イオネちゃんも知らないのだと言われた。

心配したイオネちゃんも部屋に着いてきてくれる。


「シル様に限って何かあったなんてことはないんでしょうけれど……。」

「そ、そうだよね?」


わざわざ心配させる事を口にはしないけど、逆に言えばシルに限ってボク達を心配させるような事もしないはずなんだよね。遅くなる時は必ずメモを残すなり伝言を伝えておいてくれるなり、何かしらの対応が今まであったのに、今日はそれもない。


ダンジョン内で突然険しくなった先生達といい、先生の言葉通りボクも何か嫌な予感がする。




伝言を残していないということは、シルからしたら”伝言を残したくない状況”と、”伝言を残せない状況”の2通りに分類されるはず。


前者の場合だと、シルの気持ちを踏みにじってしまうようで申し訳ないんだけど……。


「イオネちゃん、ボク達も行こうか。」


あまり友達の居場所を探るというのは気が引けるからやりたくはなかったけど、もしも後者であれば時間は命に関わる。




ボクにとって、大切な誰かがどこにいるかなんて、手に取るようにわかるんだから。


「はい。」



シルの場所を探ると、なんとモノブーロ村にマークがついていた。

あそこには今何も無いし誰もいないはずなのに。


ものすごい得体の知れない焦燥感が襲う。


イオネちゃんだって不安なんだから、1人で転移してしまうなんてことはできない。

まぁイオネちゃんに転移の事、まだ話していないんだけど。


急いで支度をして学園を出た。


深夜に女2人で街を出る。

シルに知られたら怒られちゃいそうだね。


でもまぁ、それならそうと心配させるシルが悪いのだ。逆にボクも怒ってあげよう。




とにかく今は誰かの力になりたかった。




たとえこの先、ボクがどんなに偉大な魔法を会得できて、皆を守れるようになったのだとしても。


その時までにボクの大切なすべてがいなくなってしまっていては……


たとえそれがどんなにすごい力だろうとも。


もうそんな力に意味もないのだから。




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