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初めて自力でやりとげました!!

足元を横薙ぎに全力で一閃。

傷一つつかない代わりに、ボクの肌が焼けてダメージを受け始めている。


こげる匂いがする。

肉の焼ける音が耳をつく。

目が焼けて開けているだけで痛い。


ある程度膠着状態を保てていたはずの今までより状況は完全に傾き、ボクにとっては悪化の一途を辿っていた。

咄嗟に死角に飛びながら転移を入れ、距離をとる。


慣れてくれば転移も戦闘に使えそうだね。

……まぁ、慣れないと死んじゃうからやるしかなかっただけなんだけど。




ヴォルクウルスの毛皮が燃え始めてから、攻撃手段が大きく増えた。


今まで通りの腕を振り回す攻撃に、炎の爪が距離にお構いなく襲ってくるという効果が追加されるし、今度は設置盾(アンカーシールド)で腕を止めたとしても爪に宿っている炎が単体で襲ってきたりするようになってしまった。

1枚の設置盾(アンカーシールド)じゃ到底防げないので、余分に毎回何面もの盾を出して防がなくちゃいけないし、そもそも毛皮が燃えているせいで攻撃しようと近づくと全身が焼ける。


黒天(シュヴァルツ)使軽装(アンゼケーニヒン)のお陰で、防具着用部分は何のダメージも受けないんだけど、如何せん露出部が多いせいでこういったフィールドダメージ系には弱いみたい。


一番凶悪なのは突進攻撃が前回転になり、炎の塊が突っ込んでくる様は正直めちゃくちゃ恐怖を覚えた。ただまぁ、この攻撃は自分に大ダメージを受けるっていうのは学習したらしく、変身前の1度と、変身後の1度以外はやってこないけどね。


さらには咆哮にも火炎属性の魔法効果が付加されている。

体全体から熱気が噴出すのだ。

蒸発した湯気が室内を覆いつくしていくせいで、めちゃめちゃ熱い。


「……これ近接武器で倒すってどうしようもなくない……?」


全身が焼けるダメージは、正直自己回復の範疇なのでダメージとしては換算されるほどでもないのだけれど、今までよりも追い立てられているのは確かなところ。

熱いけどしょうがない。多少のダメージ覚悟で右目と、赤く変わった額の宝石狙いを続行する他手段はないよなぁ……。






「お、先にやられちゃってるな。」


少し開いたままになっている扉から、別のパーティが顔を覗かせた。

6人組。もちろん知っている顔などない。


一番最初に顔をだした若い男が、ずかずかと部屋に入ってきて観戦中の先生達の後ろに並ぶ。


「あんた達も待ちなのかい?」


結構なフレンドリーさで話しかけている。


「いや、あいつはうちのパーティだ。わりぃな。先に抜けちまってくれても構わねぇぞ。」

「あ~共闘ってのは無理かな?」


「あの程度のボス、やろうと思えば1秒で終わる。共闘する価値はないな。」

「1秒って。んな馬鹿な……。」


「……あれ?ちょっと待ってダイン。」


後ろについてきた若い女性が、先頭で交渉を始めた若い男を止めた。

いつの間にか全員が部屋に入ってきているから、別に先にパーティが戦闘を始めていても部屋に入る分にはマナー違反とかではないってことかな。ボク的には気が散るからあんまり嬉しくはない。


……あ、でも苦戦してたら援軍は欲しいよね。そういう点ではありか。


「ん? なんだ?」


……あ~、よく見るとあのパーティ。先頭の男以外全員女性だ。

なんか嫌悪感すら感じる。嫉妬? 嫉妬じゃないよね? 嫌悪だよ?


あちっ!!


ほらぁ。気が散るからどっかいってよ……。


「あの人、フラ・ヴィシュトンテイル様じゃない?」


「え?」

「ほら、あの学園組のランカークラン代表の……なんだっけ。」

「あ~プトレマイオス・リラのベガ様ね。」

「えっ? ちょー有名人じゃん。じゃあ何? あの1人で戦わされてる子ってもしかしてプトレマイオスの新人の子?」


「かも~? 新人でダンジョンのボスをソロとかでやらされんの!? きっつ~~! しかもあの子前衛じゃん?? ってかよく見たらめっちゃ子供じゃん!! 大丈夫なの??」

「あれ、あの子多分前衛スキルすら持ってないわよ。がっちがちの新人ちゃんじゃない?」




戦闘中で、さらに入口でこそこそしゃべってるだけだから、ボクには何を言っているのか一切聞こえない。

……聞こえないんだけど、その不躾な視線とか、女性特有のこそこそしゃべりとかめちゃくちゃ気になってしかたないんだけど……。




「レティーシア! スキル使用も禁止しろ。」

「はぇ!?」


スキルって……武器系スキルは1個も持ってないから、つまりは転移スキルを使うなってこと? 見られてるからってことだよね。

……魔法はいいよね? じゃないとボク一瞬で死んじゃうもの。

いや、そもそも転移スキルが生命線レベルだったんだから、これがないと本気で危ういんですけど?





「うっわ、スキル使用も禁止されてるんじゃない。どうやって倒すのよ、あれ?」

「ねぇ~ダイン~。待っててもしょうがないし先にいっちゃいましょうよ~。」

「え~、でもこいつの素材が欲しいって言ってたのお前らじゃん。」


「どう見たって今回は無理よ。ここらでテント張って明日また戻ってくればいいじゃない。」

「……あの子すっご。」

「え?」


「なんでヴォルクウルスの攻撃が全部直前で止まるの?あれ魔法??」

「……。」

「……学園組のクランの子なんだから魔法くらい使えるんでしょ?」


「魔法兵士のタンクちゃん? あの細い体で?」

「魔法が使えれば体なんて関係ないんじゃな~い?」


「でも、魔法だったとしたって、あんな攻撃されてる中で魔法使って相手の攻撃なんて普通受け止められる? 私だったら怖くて無理なんだけど。」

「……う~ん。どうなんだろ? どうなの? ダイン。」

「え? ……俺は魔法なんて使えないから知らないけど、できるんじゃねぇの? 相手でけぇし、予測しやすいとか?」


「そうなのかなぁ?」

「さぁ?」




っていうかほんと、転移スキルもなしにどうやって懐に飛び込めって言うのよ……。

それとも他に倒す方法があるの?


……とりあえず見当たらないけど……。


もうしょうがない。一か八か!


「えいっ!」


槍、投げてみました。


あたればいいなぁ。



ぺいっ。



あー無理か。そりゃそうだよね。

でもなんか思ったよりも額に一直線に飛んでったな。




「ぬ?」

「ああ、やっときたか? そろそろだったからな」


「で、あるな。」




もう一度槍を創造しなおす。今度は爆炎槍にしておいた。

え? なんで今まで単なる槍でやりあってたのかって……?

そ、そりゃあ……ほら。単純に槍の訓練の為だよ?

だってどう考えてもこいつで訓練するのが一番手っ取り早いでしょ?


ね?


別に忘れてたとか、今作りなおそうとしたときにあれ?ってなって気づいたわけじゃないよ?


無駄に苦労していた自分に言い訳しておく。


大分訓練は進んでるはずなんだよ?


ふと思いつき、ステータスを表示させた。

ステータス画面に出ていた槍スキルまでの経験値表示が綺麗に消えている。


……ん? 消えている?

あれ? 消した覚えはないんだけど。


あ、なるほど。


槍スキルLv1


ボクが初めて自分の力で取ったスキルになった。


とはいえまだ喜んでいる場合じゃないんだけど。


爆炎槍を構えなおす。


炎モンスターに爆炎だけど、モンスター自体が炎になっているわけじゃないから、別に効果が無いってわけじゃない。まぁ低いは低いだろうけど。

確かに、毛皮の炎耐性はほぼ完全といっていいんだろうけど、狙いは毛皮じゃないんだから関係ないのだしね。


遠巻きに投げつけた槍を払いのけると、そのままヴォルクウルスが地面を横薙ぎに左腕を振るう。

学習しないとかそういうわけではなく、多分この腕と炎爪のコンボが一番強いのだろう。


設置盾(アンカーシールド)で受け止めると、最初の時よろしく槍穴を構える。


肉球に突き刺すと、今度は爆炎をお見舞いした。

流石に突き刺した内部から爆発してダメージを受けないわけもなく、人差し指が吹き飛ぶ。初めてまともにダメージが入った。


……槍がものっすごく軽く感じる。

なんか待ってる時間もものすごく長い。

思考が先を読んでくれるようで、体が勝手に動いてくれるみたい。


設置盾(アンカーシールド)が消える前に自分で飛び上がると、そのまま設置盾(アンカーシールド)に打ち付けたままになっている手首を爆炎槍で薙いだ。


おお!! 傷ができた……。

威力が毛皮を貫通する。


爆炎が自動で発動。


そのままヴォルクウルスの手が捥げ、飛んでいく。

血飛沫が舞い、ヴォルクウルス自身の炎で傷口が焼け付く。


「うひょぃ……」


思わぬダメージの変わり様に、自分でも驚く。




グウゥォォオオッ!!

ッ!?!?


突然声が出なくなり混乱している。


雄たけびをクリアの魔法で消音。

音振透過魔法を、相手に掛ければいいのだ。

対策してみればとても簡単な事だったね。

全身に掛けてしまうと体から発する音も消えてしまうので、口周りにだけ。




千切れ振り上げようとした左腕を、設置盾(アンカーシールド)を相手の千切れた腕の中に発現させて固定させてしまう。


これで楔を刺されたかのように左腕が空中に固定された。


使い方が次元断裂じゃないからいいよね?

ちらっとフラ先生のほうを見たけど、特になんともなさそうだ。




固定された左腕を一気に駆け上がる。疲れはあるのに、体がめっちゃ軽い。

さっきまでとは段違いにイメージしたとおりに体を動かせる気がする。


焼ける肌を無視して額へ進んだ。


右腕でつぶしにかかってくるが、爆炎槍の爆風で薙ぐだけで吹き飛ばす。


もう顔はがら空き。


後は……



「っせい!」



バリン!



額の赤くなった宝石が割れ……爆風でヴォルクウルスが後ろに倒れこんだ。




ズシン……


仰向けに倒れて動かない。

……これで倒して終わってくれればいいんだけど。


崩れたヴォルクウルスを足蹴に最後まで気を抜かずに戦闘態勢を維持していると、足元のヴォルクウルスがどんどん縮んでいく。


「あれ?!」


足元が覚束ない。


グルルルウウウウ。


座標指定が変わってしまい、唸り声が聞こえる。




あ、やば。

まだ生きてるし。


普通の熊サイズまで縮み、もう赤くもなくなったちっちゃい版ヴォルクウルスに、足元から爪で抉られてしまった。しかも丁度”絶対領域”の部分に掠めてしまう。

ちっちゃくなったっていったって、ようやくボクより一回り大きいくらいまで小さくなっただけ。爪の傷も相応に深くて大きい。


「いったぁっ!!」


足元で転がりながら爪を振るヴォルクウルスから距離をとる。


……ぐちょ。


思ったよりも出血量が多いようだ。

すぐに血がブーツの中に溜まり始めて気持ち悪い感覚が溜まっていく。




「レティーシア!! 終わらせろ!! 魔法の使用禁止もなしだ。」


あー、もう倒しちゃえってことだよね?

まぁ、ボクにしてもとりあえず目的の槍スキルは取れたわけだから、これ以上長引かせても意味もない。むしろスキルがとれたからって、これで槍で勝てるかといてば正直厳しいかもしれない。……疲労がね。もう槍を持つ手に力が入らないんだよ……。


結局決着をつけるには、魔法士のボクは魔法士らしく魔法しかないんだよね。




まぁでもさ、折角槍の扱い方がめちゃくちゃ思い通りにできるようになったわけだし、今まで槍という武器で戦ってきたわけだから、せめて格好だけはつけたいじゃない?


「ふぅ。」


もう一度だけ槍を構えなおす。


今まではなんだったのかと言うくらい様になっていると自分でも思う。




立ち上がったヴォルクウルスが突進してきた。


一直線に向かってくると、槍の射程前で真上にジャンプ。右腕を振り下ろしにかかる。


攻撃をすり抜け様に一閃。


槍を180度振りぬいた。


振り返ることもない。

振り返る……必要もない。




着地と共にヴォルクウルスは胸から上がずれ落ちた。


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そのまま体もバランスを取ることなく倒れていく。




……最後の瞬間、凛とした顔で振り返らず格好つけたはいいけど、ちょっと何かあったら怖いので、こそっと後ろを振り返っておく。

流石にゾンビ属性はないでしょ。

ないよね? 大丈夫? 倒したね???


「はぁ。」


終わってしまえば、一瞬で終わらせられる敵に随分苦労したものだよ……。





「え!? 何あの子の最後の攻撃。あの熊を両断したの? かっけー。ってか本当に1人で倒しちゃったよ。やばぁ……」

「何! あの武器。爆発するわ切れ味すごいわ。やっぱ金持ちが持ってる武器は違うねぇ。」

「あんなすごい魔法武器さえあれば、俺だってボスくらい1人で倒せるだろ。」

「え~ほんとー? ダインかっこいいかも~。」




静かになると普通に聞こえる。

あのパーティぶっちゃけて言えば……。目障りだなぁ。

まぁ関わりあうこともないし、いいんだけど。




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