ぐう。1家に1台欲しい万能マスコット!
むぎゅう。
「!?」
あまりに可愛かったので、後ろから包み込むようにウルさんを抱きしめた。
ボクの身長的にこの人、すっごい丁度いいサイズなんだよね……。
「れてぃーしあちゃんっ!! 子供みたいな扱いしないでってばぁ!」
いやいやっ!
と体を震わせて振りほどかれてしまった。
「おい、レティーシア。お前も手伝えよ。」
詰め寄っている3人を物ともせずにフラ先生が解体を続けている。
まぁ実際詰め寄っているのはメルさんだけで、他の2人はほぼ諦めているようだけど。
「もうっ! この子は一体なんなの? 天才だとかそういう領域の話じゃなくない?? 何かをさせたいから私達を同行させたんでしょ?」
一瞬先生の手が止まった。
「わかってんじゃねぇか。お前らってか、特にお前にだな。メル。」
「……何?」
「まぁこいつは見てのとおり規格外の魔力と、あたしらでも理解のおいつかねぇ魔法を構築できる。お前らも今日少し見てきてわかってんだろ?優先対象だよ。お前らだって、先に価値を見ておいた方が納得できんだろ?」
……ん?
ボクを守ってくれるっていう相談ですか?
それならね? 先生、もうちょっとボクを普通に守ってくれていいんだよ?
ま、まぁね? ボクは大人だから、自分で自分の身を守れるように? 最後まで見守ってくれているんだって事はわかっている……よ? 最後には守ってくれるよね? ……大丈夫かな。
「まぁそれは見てもわかるけど……。私にってことは、そういうこと……よね?」
「そうだ。」
「でもあれは……。」
「もちろん最初にあたしを使っても構わねぇからな。」
「フラっ!……。」
……え? あれ? 何の話? 守ってくれる話じゃないのかな……?
周りのみんなも聞いていない振りをしているのか、会話に入ってこようとしない。
「優先度の違いくらいみりゃ判るだろ?」
「……っ! それを言ったらあんただって大分高いのよ。」
「……ま、そんときが来たらな。」
「こないように……しておきなさいよ。」
2人の会話が終わると、あたりは静まり返った。
大蜘蛛を解体する音だけが聞こえる。
この層には冒険者もそれなりの数いるんだろうけど、遠いのか音は聞こえてこなかった。
「あっ!! 肉はこれから食うんだから粗末に扱うなよ!?」
「……え? 蜘蛛のお肉……?」
「こいつの肉はうまいんだぞ! 高級料理にも使えるくらいだ。」
「わたしが腕によりをかけて作るよ!」
「……え?皆食べる……の?」
「おお!ウルがいてくれるだけで、さらに期待できるのであるな!!」
……え? まじで???
まっ……て……? え? 蜘蛛食べるって……え? 想像しただけでやばいんですけど??
ちなみに、この大蜘蛛から取りたかった素材は、眼球と硬い外皮なんだそうだ。
丁寧に身をほぐして抜き出している。
身を抜き取る際に、外皮と身がねとぉっと糸を引くのが何とも気持ち悪くていただけないけど。
この洞窟の通路のど真ん中で夕食にするらしい。
ウルさんが既に支度を始めていた。
次元収納だろうか。どこからか取り出した色とりどりの食材がテーブルの上に並んでおり、大きな寸胴がぐつぐつと音を立てて煮えている。
ほぐした大蜘蛛の身はと言うと、鍋の沸かした湯煎でさっと火を通すだけ。
筋繊維がほぐれて直径3センチから4センチ大に切られた丸い身が重ねられていく。もともとこの蜘蛛の足はボクの横幅と同じくらい大きかったからね。身だって抜き出したときはボクの胴くらいの太さだったんだよ?
……きも。
でも、ここまで調理が進むと大して見た目的な嫌悪感もなくなってくるわけで。
似ているのは、蟹の足の中身を取り出したような感じかなぁ。
湯煎にかけると白い身が少し赤みがかるのも、とてもよく似ている。
まぁボクが知っている蟹の足身に比べると、切り分けてあるとはいえ大分大きめのサイズではあるけどね。
とても気になるウルさんの料理を横目に解体を終えると、メルさんが風呂敷のような1枚の布を取り出した。皆が解体した素材を乗せていくので、ボクもそれに習う。
「ふぅ。」
一通り乗せ終わって解体作業も終わると、メルさんが風呂敷を畳んでいく。
あれ? どうみても……容量が……?
最終的に手のひらサイズの大きさまで畳まれてしまった。
「おお?」
「あ、これ? 魔道具よ? 便利でしょ。」
「すごいちっちゃくなるんですね。重さも軽くなるんですか?」
「そ。見た目通り小さくなるの。冒険には必須アイテムよ? めちゃめちゃお高いけどね。」
そりゃそうだよね。次元収納アイテムみたいなものだし。
あの状態でさらに次元収納を使えば、かなり少ない常駐魔力で、すごい大量の物が持ち運べそうだ。
その理想通りにメルさんが風呂敷を次元収納にしまう。
傍らからは、ものすごくいい匂いが漂ってきた。
ぐぅ。
お腹が鳴るよ……。
お腹の半分が出ているので、ダイレクトに聞かれそうでとても恥ずかしい。
寸胴にはあめ色のスープが出来上がっており、取り分けられたお皿には沢山の具材が顔を出している。あんなに大きな寸胴で作っているから、何食分かを纏めて作っているのかな? 流石に6人で食べる量ではない。目測で見ても30人前くらいあるだろうか?
テーブルには他にも、干し肉と野菜を炒めた料理に、農家のボクが見ても新鮮そうなお野菜の盛り合わせに、硬くもなさそうなパン。
そして本日のメインディッシュ? 蜘蛛の切身……。
見た目蟹にしか見えないから、調理されるとそこまで抵抗感は感じられない。
テーブルに置かれた1人分の料理を手に取ると、皆が思い思いの場所に座って食事を始めた。
岩肌はまだ高温を発しているので、次元の壁は出したまま。
食事中にモンスターに襲われるのは勘弁願いたいので、追加で通路にも次元の壁を張っておいた。
この次元の壁って、つまりは設置盾と同じものだけどね。
もちろん、上部を一部開放して空気道はちゃんと空けておく。
……地べたに座ってお食事。
できないわけじゃないけど、とても食べづらい。
次元牢獄を何も無い空間に設置し、簡易的な椅子とテーブルを作った。
薄い木材がテーブル用と椅子用に2枚宙に浮いているイメージでね。
傍から見れば空気椅子に空気テーブルだけど、食材が浮いているから、そこに何かあるのはわかるんだけど。
「ね、ねぇレティ子ちゃん。その魔法ってそんな使い方までして魔力がなくならないの……?」
「え? あ、はい。単一魔法構造なので魔力消費量は少ないんです。今ここ一帯に張ってる壁と、このテーブルに椅子を一度に作っても、1,2分で魔力は回復しちゃいますよ?」
「へぇ……そ、そうなの……。便利すぎるわね……。私も座っていい?」
「あ、どうぞどうぞ。皆さんもどうぞ?」
そういうとウルさんも近づいてきた。
小さいからだに慣れてるから違和感がないんだろうけど、
ひょこっていう感じで椅子に座って、足をぶらぶらさせてるの。
すっごい可愛い。
先生とアルト様とホーラントさんは遠慮しているのか、別にいらないのか、胡坐でいいようだ。
3人は3人で話しやすい様に円を描いて座り、地面に料理を置く。
地面と言っても次元牢獄で壁とは隔離してあるから。まっ平らなんだけどね。
「なんか境界も見えないし落としそうで怖いわね。」
そういうと、メルさんが次元牢獄の空間内に煙を充満させる。
真っ白な煙で満たされたテーブルが可視化された。ついでに椅子にもね。
……
なるほど。次元牢獄を自分で使ってた時はあまり気づかなかったけど、たとえ次元の壁で直接的な物質は防げても魔法の発生点を次元面を超えて設置されると防ぎようがないのか。自分でやる分にはなんとも思っていなかったけど、やられることだってあるのね。
子蜘蛛が魔法を使ってこなくてよかったと心から思った。
ボクがメルさんと並んで。向かいにウルさんという構図でキャンプのような椅子とテーブルで食事。
ウルさんの料理は皆が絶賛するだけあって本気でおいしかった。
ごろごろとしているのに、具材がとろけるようなスープ。
柔らかいパンを浸して溶かす。
スープの香ばしさと食欲を満たす具材が喉を流れていくかのように進んでいく。
瑞々しさが取れたてのような野菜と、干し肉なのに調理されているからかな? ものすごい柔らかい肉炒め。これまたパンに挟んで食べると絶品だった。
どれも箸が進んで止まらない!
実際にはフォークだけど。
そして最後はやっぱりこれ。蜘蛛の身肉。
端っこを恐る恐るかじってみる。
じわぁ。
おおお?
ぱくり。
ふぉぉぉおおおお!?
じゅるり!
おおおおお!!
こ、これは……
「美味しいっ!!」
歯ごたえのあるぷりっぷりの食感に、染み出る肉汁!!
蟹の身よりも弾力感がすごい。歯ごたえが十分にあって、ぷっつり切れる食感もたまらないけど、肉汁が中からあふれ出て来るんだよ!!
す、すごい。こんな食べ物初めて!!
「もったいねぇから出来る限り食っちまえよ。そうそう食えるもんでもねぇからな。」
「え?! こんな大量に今日食べちゃうの?? もったいなくない??」
「食わねぇほうがもったいねぇんだよ。こいつの身は倒してから1日も経つと大分味が落ちて、3日もすりゃ食えなくなっちまうんだ。劣化が激しすぎてな。だから高級食材なんだぞ?」
「ほぉ。なるほど。」
それは……もったいない。
「ウルさん、このまだ調理してない蜘蛛肉って貰ってもいい?」
「うん? なんに使うの?」
「うん。保存してみようかと思って。」
「保存……?うん。大半は捨てないとだし、いいけど……?」
昔から気になっていた部分でもあるし、この機会にやってみよう。
今ボクが扱っている次元魔法構造は、空間の中の平面を切り取って設定している。
例えるとするなら……
目の前に人差し指を立てて横に線を引き、そのまま下にずらし。
最初に引いた線と平行に線を引き、そのまま上にずらすと、四角い平面がイメージできる。
この平面空間の位相をずらすことで、次元壁ができる。
次元牢獄はこれを箱型に6つ重ねる。
これは空間上に座標を定義してしまうので動かせないのだが……。
次元収納内に設置する事は可能なのだろうか?
……
うん。普通にできた。
さて、次に。
もらった蜘蛛肉を次元収納の中に設置した次元牢獄内に敷き詰めていく。
大きさ的には、結構大き目の水槽くらいはあるだろうか?
いくつかの方法を試したいので、次元牢獄の箱を3つ用意。
1つは単純に氷風魔法術式で凍らせる方法。次元収納内には時間概念も温度概念も存在する。ただし、次元壁には熱伝導効率が一切ないのを利用し、急速冷凍しておけばそのままになるはず理論で保管。
1つは不凍液で満たして保管する。一番簡単な不凍液は、飽和食塩水だろう。凍らないように慎重に冷却していき、保管。
最後の1つは、1つ目の氷風魔法術式で凍らせる際に、磁場と電磁場を作っておく冷凍方法。正直ボクにはこれだけで食品鮮度があがるのかわからないけど、実験してみて1より3の方が美味しいのであれば成功と言っていいのだから、やるだけやってみればいいのだ。
そして最後に次元収納内に設置した次元牢獄に十分以上な魔力を流し込み続けてっと。
これで固定完了。魔力を固定しておかないとボクが寝たりしたら次元牢獄が勝手に解除されて消えちゃうからね。これだけ魔力を流し込んでおけば数ヶ月くらいは保つだろう。
どうせ食べきれないだろうと思い、体肉の部分と、足肉の部分をまるごと4本分収納しておいた。
「おいおい、もったいないことするんじゃないぞ?」
「う~ん、どっちかというともったいないものを無くしてるんだよ?」
残りの足肉4本分は綺麗になくなっていた。
……足1本分でも結構大きいんだよ?
ボクの体くらいの体積があったはずなんだけど……。
皆のどこにそれが入ったのだろうか?
そればかりか、ウルさんが作っていた大きな寸胴に入っているスープが、もう殆ど無い。
あれ1食分なの!? 確かにボクもいつの間にか3杯くらい食べた気もするけど。それにしたって30人分くらいはあったよ……?
スープと足肉4本分だけで、体積的に言えばボク4人分くらいだった物が、6人の胃の中に納まったことになる。……一体どこへ行ったというのか。
軽くホラーだ。この中の誰かの胃袋は、別の次元に繋がっているに違いない。
ここはダンジョン内。
満腹に食べるというのは認められない……はずなんだけど。
……誰の胃袋が……宇宙だ?
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