生理的に受け付けない奴があぁ!
「いたっ!!」
聞きたくないメルさんの声が遠くから聞こえる。
聞こえない振りしてしばらく立ち止まっていると、向こうから近づいてきた。
こっちにこないでいいのにっっっ!!!
あああああ!ほらぁ!やっぱり!!!
でっかい蜘蛛じゃんかぁぁぁ!!!
ボクの3倍はあるだろう図体の蜘蛛がメルさんを追いかけてこちらに走ってくる。
……縦にだよ!! 縦に3倍あるんだよ!!!
うわぁぁぁぁ!こないでよぉ!!!
毛が!音が!眼が!!動きがぁぁ!!!
毛の擦れる音がカサカサカサカサ言ってるのに、足音が殆どしない!!!
あああああ……背筋が震える!
すべてが気色悪い!気持ち悪い!!きもぉぉぉぃい!!
「右側の足だけ切り落とすぞっ!!」
通路脇の細い道に避けていたフラ先生が、通過していく巨大蜘蛛の足を目掛けて大剣を薙いだ。
キィィン
という、ものすごい甲高い音が鳴り響き、蜘蛛の右前足が3本一気に刎ね跳ぶ。
後ろ足も後1本残っているが、後ろ向きについているためその1本でバランスを取る事は不可能。バランスを崩した大蜘蛛が、地震が起きたかのようなものすごい振動で地面をすべりながら倒れこむ。
続いてホーラントさんが真後ろからめちゃめちゃ大きな槌のようなものを振りかぶり、その図体を潰しにかかった。
大蜘蛛が必死の抵抗でお尻を上下させ糸を撒き散らした為、威力を激減させられる。
「ぐぬぅっ! しくじったのである!!」
「糸吹きかけられたくらいで引いてんじゃ……ねぇっ!!!」
さらに後ろから追いついてきたフラ先生と、逆サイドで待ち構えていたアルト様が、位置を入れ替える様に交差し、両脇から大蜘蛛の胸と腹部の間の細い部分を両断した。
キンッ
という短い金属音のような音が鳴り響き洞窟内に響き渡る。
そのまま息絶えたのか、大蜘蛛は力の抜けた左足がすべるように伸び、崩れた。
うん。ボクは特に何もする事はなかっ……た……ああぁぁぁぁぁ!!
切り裂かれたお腹から無数の子蜘蛛がわらわらと這い出ててきた!!
視界が10cm大の蠢く子蜘蛛一色で染まっていく。
全身の鳥肌が止まらない。毛穴という毛穴が逆立つ。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
「げっ。」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
メルさんの嫌そうな声とウルさんの悲鳴も聞こえてきた。
……こっ……これは無理!!マジ無理!!!
次元牢獄の中に閉じこもってやり過ごそうと思います!!
閉じこもるや否や視界がすべて蜘蛛で覆われました!!
うぅ……。目も開けたくありません!!!
あああぁぁぁ……
しばらくすると、どんどん!と次元牢獄を叩く音が聞こえた。
薄目を開けて確認すると、精霊武装化したフラ先生が目にはいる。先生に取り付いてくる子蜘蛛がすべて焼き爛れて落ちていっている。
メルさんにはホーラントさんが。
ウルさんにはアルト様がそれぞれついて守っている。
ホーラントさんの周りの子蜘蛛は、なぜかメルさんには向かわずホーラントさんの全身に取り付いており、ホーラントさんの体の安否など気にしないレベルでメルさんの魔法がホーラントさんごと焼き尽くす。
アルト様は……なんだろ? あれ。殺虫魔法みたいなものかな?
背中合わせになった仲良し夫婦が白い霧のような魔法を噴射しており、子蜘蛛がそれを嫌がって近づこうとしない。おい子蜘蛛、もっと頑張れよ。
逆にそこに行かない分の子蜘蛛はホーラントさんかフラ先生に集まっていた。
……ここの大人っておかしいよね?
……15歳の女の子を先に守ってくれるのが普通じゃない?
「おい。情けねぇなぁ。早くでてこい。」
「や、やだよ!! 蜘蛛まだいっぱいいるもん!!」
「子蜘蛛くらいなんだよ。んな大したこたねぇよ。」
「いーやっ!! 絶対嫌! 全部いなくなるまで出ない!!」
「じゃぁ焼いちまえばいいだろ? 親蜘蛛以外別にいらねぇからよぉ。」
「親蜘蛛の素材さえあればいいの? 全部焼いても?」
「ああ、い……い……いやまて!!! レティッ……!」
親蜘蛛とパーティメンバーの皆全員を牢獄に匿う。
あ。アルト様とウルさんが殺虫魔法を吸い込んでむせている。
ふっ。
黒い笑いがこみ上げた。
突然現れた見えない壁に全員が驚いているけど、今のボクにそんなことを気にしてる余裕なんてないんだよっ!!!
跡形も無く消し飛ぶがいい!!!
「三重構造・広域爆炎術式・超速爆轟!!」
アセチレンよりも高温で爆発が爆発を起こす爆薬の祖!
ニトログリセリン。
広域にっ!!
跡形も残さずっ!!
殺しきるにはっ!!
これしかない!
…
‥
・
やりすぎたっ!!
次元牢獄で守られた空間以外が、火山の中にでもいるような高温空間へと成り果てている。
蜘蛛の欠片どころか、塵の欠片すらも燃え果てた風景。
「あっつい!!!!」
次元牢獄を解くと高温の空気が肌を焼いた。
空気に触れているだけでジュウジュウと音を立てて焼けていく。
「うわぁっちっ……いててて……!」
「馬鹿!!やりすぎだ!! 壁からの熱を全部遮断しろ!!」
「わ、わかった!」
焼け爛れた壁に這わせて次元の壁を作っていく。
あ。温度が高すぎて親蜘蛛の毛が燃え始めた。
「ご、ごめんなさい。」
「レティーシア。パニックになるな! 仲間を巻き込んだらどうすんだよ。」
次元の壁の強度だって検証したわけじゃない。
もしかしたら仲間を巻き込んでしまうかもしれなかったんだよね。
冷静になったら反省しかない。ごめんなさい。
しばらく熱源を次元の壁で切り離しておき、辺りの熱気を単一風魔法で送風して換気しておく。
温度で焼けた肌は、ウルさんに治してもらうまでも無く自分の自己強化治癒魔法で治癒をする。
「……あ~さすがに私も理解がおいつかないわ~。」
「自分もであるな……。」
「流石にちょっとこれは……。ほんとにあの子、数ヶ月前に僕が助けた子かなぁ……?」
「しょ、消火! 消火しないとっ! 素材が! 素材が焼けちゃうよぉぉ!!」
1人慌てるウルさんが、水魔法で消火にかかっているけど、高温すぎて焼け石に水状態だ。
ボクのせいなので、ボクも手伝おう。
こういう場合は蒸発してしまう水よりも、冷えた土などの不燃性物質の方がいいよね。
それを見たウルさんも、真似て水魔法を土魔法に切り替えた。
消火作業が終わった所で、風魔法を使って土を払うと、豚のような赤紫の表皮が現れた。
毛がすべて焼かれて綺麗になっている。
……蜘蛛の顔を見ない限りは、これなら見てても大丈夫そうだ。
子蜘蛛の方は、すべて跡形も無く消し飛んでくれており、さらには親蜘蛛も大分見やすくなったお陰で、大分余裕がでてきた。見てて大丈夫とはいえキモイのに変わりはないけど。
「ちょっとフラ、説明してよ。」
何事も無かったかのように解体を始めるフラ先生に、パーティメンバーの3人が詰め寄っていく。
ウルさんはボクの隣にいてくれた。
この人、最初からわかってたけど超いい人なんだよね。
さっきはちょっとざまぁとか思ってごめんなさい。
何も知らない単なる嫉妬は醜いだけ。それじゃなんにも理解できない事を、つい最近ボクは学園で知ったばかりなんだよね。
あ~あ。
”いいなって思った人には先にいい人がいる。”って書いてあった恋愛物小説って、どこで読んだんだっけなぁ。前世だったかなぁ。それとも今世だったか。
その通りだ。
あー……。
ボクにも守ってくれる人……。
いないかなぁ……。
いるんだよなぁ……。
はぁ。
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