透明な魔力?
序章最後になります。
次回から本編!
もうすぐ12歳になる。
まだ雪が解けきらず道端に腰を下している頃。
道幅に広がる馬車の轍は茶色く濁り、とても冷たい。
この山村をよく通る馬車は、村人の荷運び用であったり、小さな商人のもので、轍の幅が小さいのだけど、その轍の一回り外側を走る大きな馬車が村にやってきた。
道脇に腰を下した雪を少しずつ砕きながら、茶色い泥水に溶かしていく。
ボクの魔力測定の調査キャラバンが到着したみたいだ。
ボクの住んでいるフルスト領が所属するグルーネ国では、平民や貴族といった階級を問わず、12歳になる前に魔力測定を行なう義務がある。
もしも、ここで有望な魔力量を検知してもらえると、15歳から入れる専門学校の一つである、魔法学校へ特待生として通うことができる。
それが平民で唯一、魔法学校へと進学できる道だったりするわけ。まぁ、お金持ちの商人の子であれば、魔力さえ感知されれば通えるけど、決して安い費用ではない。
領地にもよるが、フルスト侯爵様は為政者として知られ、各村々に12歳になる子で、魔力測定が終わっていない子供がいると、魔力測定キャラバンを派遣してくれる。
「レティ! ユフィとジークもおいで!」
パパに呼ばれ、家から飛び出す。
ついにこの日がきたのね!
「村の皆にはまだ言ってないが、お前は既に魔法を扱ってるんだから、魔力は感知されるよな。まぁ、なんだ。もし特待じゃなくたって、俺がどうにかしてやるよ! 魔法学校でもなんでも行ってこい!」
パパかっこいい。
パパと、心配そうにママが送り出してくれる。
「お姉ちゃんがんばって!」
「ま、姉ちゃんなら特待間違いなしだけどな」
正直、魔法学校の入学等費用は農村民が支払えるレベルではないので、特待が取れなければ諦めるつもり。
ちなみに、魔力測定は9歳から12歳の間で受けられればよいので、ボクの弟たちも一緒に受けることができる。このボクが12歳ぎりぎりという、このタイミングでキャラバンが派遣されてきたのは、ボクが12歳になるのを待っていたというよりは弟たちが9歳になるのを待っていたと言う方が正しいわけなんだけど。
他にこの村には3歳になる子供もいるが、3歳ではまだ早いため、今回はボクたち家族のためだけにキャラバンが派遣されたのだ。領主様ありがとう。
キャラバンのほうに歩み寄ると、綺麗なローブを纏った女性が大きな灰色の水晶玉を抱えて待っていた。
「あなたがレティーシアさんね? あら、可愛いお嬢さんね」
「はい! あ、ありがとうございます」
そういうお姉さんも美人さんですね! 今、領都ではショートカットが流行ってるのかな? キャラバンに乗っていた女性は皆ショートで切りそろえられていて可愛い。
うちのママのロングヘアももちろん素敵だけどね?
「では、この水晶に手を翳して意識を集中してみてごらん」
つまり、魔力を流し込めばいいってことだ。
手を翳すと、水晶から発せられる冷気がとても冷たかった。
魔力だけを魔法に変換させずに水晶に流し込む。
それを感じ取った水晶が、ボクの魔力を吸い始めた。
灰色に濁った水晶が透明になり、そこに水晶があるのか、触らなければわからないほどの透明度になった。
これは、成功なのかしら……?
「……」
キャラバンのお姉さんたちが何も言ってくれない。
「あの……?」
「……」
誰一人として何も言ってくれない。あれ? 目をぱちくりさせているだけだ。
「あの……?」
「ご、ごめんなさい。見たことのない変化だわ……貴女たちわかる?」
水晶を差し出してくれたお姉さんが、後ろにいたお姉さんたちに確認を取るが、皆揃って首を振っている。どうやら水晶が透明になる現象は一般的ではないらしい。
珍しい現象が特待生の取得に吉と出るか凶と出るか。
そういう困るような現象より、わかりやすい方がよかったんだけどな。
「姉ちゃん何やってんだよ。水晶めちゃくちゃ綺麗にしちゃって」
そう言いながら弟のジークが水晶を触ろうとすると、赤橙色に染まった。
ゆっくりと揺れている。
「あ、あら。貴方はジーク君かな? 君はエレメント能力に適性がありそうね。……ってことは水晶が壊れてるわけじゃないのよね……」
一瞬見たことのある反応に安心したのか、お姉さんも明るい表情をしたが、また考え込んでしまった。
「じゃあユフィも先やっちゃったら?」
妹のユーフェシアも呼んで水晶に手を翳させてみる。
水晶の色は、白緑色が風みたいになびくように変化した。
「あら、すごいわね。あなたの家の子、皆魔力が定着してるわ。水晶の変化量はすごかったし、見たことのない変化ではあったけど、レティーシアさんも魔力感知はあるのよ。とりあえず変化の記録をとって鑑定にまわすから、魔法学校の特待枠が取れるかは後日伝えさせていただくわね」
「お願いします。ちなみに変化量的には、うちのジークとユフィはどうですか? 特待枠取れたりします?」
「可能性は高いわね。特にユフィちゃんの変化は白が多かったから、結構珍しい適性かも。それも一緒にわかるわ。二人は特待とれれば12歳の貴族学校にも通えるわよ」
「お、やったね」
ジークの軽口が聞こえる。
そのほかにも、大きなキャラバンと魔力測定というだけあって、既に村の人が集まっている。
一部では、3人がもう特待生として通ったぞ! なんて声があがっており、お祭り騒ぎをしている。
「いやいや、すごいじゃないか。レティもユフィもジークも」
パパが喜んでくれるのが嬉しい。
「あらあら。3人とも3年後にいなくなってしまったら私たち大変ね」
ママも「大変ね」なんていいながらとても嬉しそうだ。
「大丈夫だよ! 俺が帰ってきて手伝いくらいしてやるよ」
「あたしも! お姉ちゃんは帰ってこなくても大丈夫よ!」
ひどい。
まぁボクの手を煩わせなくてもできるよって意味なのはわかってるけど。
「ちょうどいいや、そうなったら土地でも少し売って、特待じゃなくても入学できるようにしてやれるか」
「大丈夫よ。パパ。ボクは特待取れない限り魔法学校へは行かないもの。そしたら土地を売る必要もないでしょ? ユフィたちの学費なんてボクが稼いであげるんだから!」
そんな話をしていると、魔力調査キャラバンの記録が終わったのか、帰り支度を始めていた。
「それじゃ、結果は追って通達しますので」
そういい残し帰っていった。
結果はすぐに送られてきた。なんと3人とも特待生扱いでの進学が決定したのだ!
こうしちゃいられない。
ボクは後の3年で最低限の基礎知識は学ばなくてはならないらしいけど、正直3歳の頃から図書館通いをしていたのだ。今更学力に劣るところなどない。
弟たちは、貴族学校への入学から始まるため、ボクと同じ時期に王都へ移住となる。
村をあげてのお祭も予定された。
ただ、これで3人とも王都に行ってしまうのだ。ちょっとパパとママが寂しそうではある……かな。
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