てんせい!
こんにちわ!はじめまして!
序章(10話)までは予約でUP済みです。
僕は、生まれつき体が弱かった。
人生の大半を殺風景な病室で過ごし、部屋の窓から唯一見える外の景色が何度色付き枯れていく様を眺めたか。窓に見える大きな木の枝に止まる鳥に何度成りたいと願ったか。
3歳の頃から病院にいることのほうが多かった僕は、ほとんど外の世界を見ることはなかった。
17歳になったらしい頃には、だんだんと体の自由もきかなくなってきて。
24歳を迎えたころには、指一本を動かすこともままならなくなってしまった。
覚えてるのは、多分自分の28歳の誕生日であろう記憶まで。その日、両親が誕生日のプレゼントをくれたのを覚えている。
諦めと安堵の疲れた作り笑顔。それでも、父と母はこんな僕に最期まで愛情を注いでくれた。文句の一つも僕には聞こえないまま。いつも励まして、元気をくれた。
ありがとう。
もう、ほとんど開かなくなった眼から、涙が溢れた。
……ごめんなさい。
迷惑しかかけられなかった。僕がもっと元気だったら、もっといろんなことができたら。
沢山の思い出を作ったり……もっと楽をさせてあげたかったのに。
またね。
今度生まれ変わったら、お父さんとお母さんに恩返しがしたいな。
ああ、神様。どうか、どうか二人が幸せでありますように。
それから……
「へぶちっ」
「あらあら。やっと寝たと思ったのに……起きちゃったのかしら?」
うん? やけに瞼が重い。
そういえば僕は、あれからどうしたんだっけ? もう体が動かなくなってきて、目も見えなくなった。しばらくは意識があった気がするけど、世界は静かに、静かになっていった気がする。
「おかあ……しゃん……?」
うへっ!? ま、まってまって、違う! 違うから! なんで!? えっ……? あっ、久しぶりに口を動かしたからうまく動かなかったんだ。きっと。
「あうっ」
あるぇ? うまくしゃべれない……
「あ、あ、ああああなたああぁぁぁ! 聞いた!? この子今しゃべったわ! 私のこと呼んだのよ!」
んん? 視界がなんとなく見えてきた……けど、誰だろうこの美人さん。やけに顔が大きく見えるけど……
「んなばかなぁ。まだ1歳にもなってないのに。それに呼ぶとしたら最初は俺だから!」
「はっ、親馬鹿が聞いてあきれるわね。もう現実はひっくり返らないのよ!」
横から大きな男の人が視界に映りこんでくる。
……うん。いきなりで少し混乱したけど、僕の両親だ。
さっきまで夢で見ていたのは、きっと僕の前の人生。
輪廻転生っていう言葉を聴いたことがある。ほんとにあるんだな。
見えるようになってきた視界で両親を見比べる。どうやら日本人ではなさそうだ。
母親は薄緑色のロングヘアーで、抱っこされているからどれくらい長いのかはわからないが、見える限りでは腰くらいはありそうだ。目鼻立ちもはっきりしていて、肌の色素も薄い。瞳が薄い青色で控えめに言って美人だろう。
父親は濃い茶髪で、無精ひげが生えているのが見える。日系3世くらいの欧米顔だろうか? 少しアジアっぽい顔立ちに見える。
着ている服からすると、多分農家のおうちかな? 父親は古臭いツナギを着ており、母もザ・乳母さん! といった格好だ。
……あれ? それだとおかしいよな?
なんで言葉がわかるんだ?
聞き耳を立ててみる。
わーきゃー言い合ってはいるが、言葉が理解できる。どう聞いても日本語にしか聞こえないが、この二人が日本に住んでいる外国人なのかもしれないな。
ただ、一つわかることは前の人生のほとんどを病院で過ごしていたとはいえ、テレビは見ていたし、ゲームもたくさんやっていた。その常識に当てはめるとしたら、もしここが本当に日本なのであれば、今いるこの小屋は……どうやらものすごい貧乏な家に生まれたようだ。
別に悲観しているわけじゃない。正直、自分が健康であって、家族が健康であれば、それだけで本当に素晴らしいことなんだから。
新しい母親の親指をぎゅっと握ると、言い合っていた二人が静かになりにこやかに覗いてくれる。
「あら、やっぱりまだ眠いのかしら?」
瞼が勝手に下りてきた。
「まぁさっきまで寝てたんだろう? 俺は午後の畑仕事に行ってくるよ」
「寝かしつけたら手伝うわね」
「ああ、頼む」
「お休み、レティ」
おやすみ、お母さ……
え?! 僕、女の子なの!?