夏の終わり
夏が終わろうとしていた。
つま先に当たった空き缶がカラカラと音を立てて転がる。
かつん。
蝉の死骸にぶつかって、不気味な音だけ残して空き缶は動かなくなった。
もう一回蹴ろうと思ったけど、もうやめた。
「もう俺がいなくても大丈夫だよな」
白沢先輩が言い残した言葉を思い出す。
「なんだかんだで楽しかったぜ。章一はなんつぅか俺の知らない事を色々知っててよ。今年の夏はいつもと違ってた。ありがとな。また学校で会ったら、飯でも一緒に食おうぜ」
そうだ。また学校で会える。
廊下ですれ違うかもしれないし、食堂で会うかもしれない。
どうしても顔が見たくなったら白沢先輩のクラスまで会いに行けばいい。
きっと彼は楽しそうにしていた友人との会話を一端止めて、「よお、どうした章一」なんて言いながら僕に笑いかけてくれるはずだ。
わかっている。わかっているはずなのに。
僕は白沢先輩が隣にいる事に慣れすぎてしまった。
こんな事なら最初から空っぽのままで良かったのに。
今の僕の顔を見せたら、白沢先輩はまた心配して隣にいてくれるんじゃないか。
そんな馬鹿なことを考えながら僕は歩き続けた。
夏が終わろうとしていた。