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Lower world~下降世界~  作者: 空野流星
3/3

螺旋階段

光はない


暗い階段を

ただただと

降りてゆく


赫く染まる

僕の手のひら

全てを掴んだ

気がしていた


景色はひたすらに

降下を繰り返すだけ

雪のように

雨のように

繰り返すだけ


底はまだ見えない

そんな螺旋階段を


僕はただ、降りゆくだけ


ただ降りゆくだけ……






いつからこうなってしまったのだろうか?


どこで間違えたのだろうか?


気づけば周りに誰もいなかった。



何故両親は殺されなくてはいけなかったのか。


それはきっとあの日の事件の犯人が陸だけではなかったということだ。


これは陸を殺した僕への報復だ。


そして次は僕を殺すという警告……



面白い、そのゲームのったよ。


どちらが生き残るか勝負だ。


もちろん負けた者は死という名の退場となる……


なんて楽しいゲームなのだろう。 さあ出ておいで、その時が君の最後だよ。



――綺麗に飾り付けてあげるよ。





両親が死んでから3日目、敵に特に動きは見られない。

学校でも特に何も問題はなかった。

もし、敵が攻めてくるとしたら夜中だろう。

だからその時を待つ、そして決着をつける。


そんなに良い親ではなかったが、親は親だ。

殺したからにはそれ相応の報いをうけてもらう。


でもこんなの名目上だ。

僕は本当は人殺しが楽しいんだ。

やめられないほどの興奮と喜びがある。

もう一度あの感覚を味わいたい。

ぐっと右手に持っているナイフを握り締める。



「じきに解体してやるさ、さあこい。」



おそらく、今日敵が来る。


――根拠なんてない、ただの勘だ。

しかし、その勘が時に恐ろしい力を働かせることにも変わりはない。



ガシャーン!



勢いよく窓ガラスが割れ、何者かが侵入する。

僕はすかさず右手のナイフを突き出した。


訪れたのは膠着状態。

お互いの喉元には輝くナイフ。

多分、どちらかがが切りかかった時点で勝敗は決する。 


自分にナイフをつきつけている人物の顔を見る。



……なんだ、オマエか。


「生憎、僕は記憶喪失だから君の名前が思い出せないよ。」


「思い出さなくて結構。 貴方は私に殺されるのだから、そんなの知ったところで無駄でしょ?」



うん、名前は知らないさ。  名前はね……


鏡で見たら僕は今どんな顔をしているのだろうか? 

それはもちろん、満足げな顔だろう。 


初めの時点で気づくべきだった。 

僕はあの日ハンカチを落としてなんかいなかったんだ。



「ふふっ……」


「あら、ずいぶん余裕なのね。」



余裕? 違うね、余裕だからなんかじゃない。 この笑みは……



「――楽しいね。」


「!? この人でなし!」



人でなしだって? 違う、コレがヒトの本質さ 誰もが持っている狂気、影の部分。 

でもその存在を認識した僕は……



「確かに、ヒトじゃないのかもしれないね。 でも、君も同じなんだよ。 

所詮はいい子ちゃんぶっているだけ、根本は同じ。」


「うるさい! 私はお前を殺して仇をとるんだ!」



怒りに任せた一撃が僕に迫る。



「だから……同じなんだよ。」



それは一瞬だった。 どちらが死んでもおかしくない状況だった。 でも僕は、


――ここにいる。


ポタッ……


また赫い液体が滴り落ちる。

これでもう何度目だろう?

このナイフも、僕の手も、血で濡れている。

幾度となく繰り返してきた殺戮。

そうだ、あの日も……



「ははっ、そうだったんだ。 妹を殺したのは……」



――ボク(ソラ)ダ



僕は妹が嫌いだった。

溢だけが充実していて、僕だけがカラだった。

だから僕はソラになりたかった。

どこまでも広がる青い空、穢れの無き宇宙ソラ

だから僕は、妹を殺してソラになりたかった。


準備は万全だった。 上手く陸を利用した。

一時的な記憶喪失を起こす暗示をかけ、ちょっとしたきっかけで記憶が一部戻るようにもした。

全ては自分が計算しつくした結果。

これが僕の望んだ結果なのだ。



「結局、全て計画通りか……」



もしかしたら僕は、自分の計画が多少でも狂うことに期待していたのだろうか。

そうすれば平穏な日常のままでいられたのだろうか?

もう、どうでもいい……


こんな世界に、もう用はない。


僕は右手に握り締めたモノを勢いよく……



「あぁ、今日も月が綺麗だ。」






眩しい……

僕には眩しすぎる。

そんな光が嫌になって手で遮る。

眩しさは多少解消された。


しかし再び眠ることはできなそうだ。

仕方なく目を開くことにする。


白い部屋、知らない天井。

ここは何処?



「お兄ちゃん?」



誰かがいる。誰だろう? 

ずっと昔に見たような気がする。

女は慌てて誰かを呼びにいこうと立ち上がる。

僕は何故か無意識のうちに少女の手を握っていた。



「あぁ、溢か……」



ここにはいてはいない筈の少女がそこにいた。



「ここは、何処?」


「病室よ、お兄ちゃんは3日も眠り続けてたんだから、もう死んじゃうかと思った……」



これは夢? それとも現実?

さっきまでが現実なのか、今が現実なのか、僕には分からない。

ただ一つ言えること、それは日常が戻ってきたことだ。


でも何故だろう?

僕は何も嬉しくない。

何も満たされない。

求めていたはずなのに、やっと手に入れたはずなのに。



「そうか、そうだったんだ……」


「お兄ちゃん?」



そうだよ、僕の本当に望んでいたもの……


僕は右手に果物ナイフを握りしめ、そして……



「ダメじゃないか溢。 ちゃんと死んでいないと……」



後悔はしていない。

これが僕の望んだこと。

本当に欲しかったもの。

大空を飛ぶ翼。 

う、僕はやっとカラを破りソラへと羽ばたいたんだ。


でも、僕が飛ぶのは蒼穹の空じゃない。

僕が飛ぶのは、暗い暗い世界の闇、底の見えない暗闇のソラ。


後はただ



――堕ちゆくのみ





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