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魔法と科学と月の詩《更新停止中》  作者: 和瀬きの
SPELL 2 【1】
45/62

死なせない




 波の音だ。鳥の声がする。

 今、海にいるのだ。彼女の知る海はこんなに優しくない。荒れ狂う男性的な海ばかりを見てきた。


 初めて柔らかい海を見たのはヴェス国だった。港町にいる漁師たちの活気ある声と、女たちの激励する声が印象的なヴァイス港町。


 そしてオステ国。アーマイゼ港町は波の音はするのに、静かな雰囲気であった。寂しい町だという印象があった。


 そして今。肌を刺すような日差しと優しい海。潮の香りが微かにわかる。知らない海に、彼女はいた。

 うっすら目を開けると青空があった。雲一つない空と視界の端に見える輝く海。


「わかる? 聞こえる?」


 声の主を探そうにも、動かない身体が邪魔をする。意識を集中させるが、すぐに聞こえなくなる。


 しばらくして、再び聞こえたのは女性の声。覇気のある強いものだ。


「あんた、名前は?」


 全く力が入らないこと。徐々に視界が暗く狭くなってくるのを感じて、彼女は死を予感していた。


「しっかりしな!」


 軽く揺すられ、頬を叩かれ、少しだけ明るくなったそこに知らない女性の顔を見た。


「名前は? わかるかい?」

「わた、し……シエル」


 うまく唇が動かない。それでも女性には聞こえたらしく、口角を上げた。


「あんたは死んじゃいけない人間だ。だから、運命を受け入れてもらうよ」


 ぼんやりしていた頭が急に覚醒したようにはっきりした。それまでしてきたことが、次々と現れては消えていく。


 魔力のこと、仲間のこと、旅立った日のこと、中央都市プルプのこと、オステ国のこと。

 そして、逃げ出したこと。


《運命を受け入れるのです、シエル》


 目を見開くと、女性の顔がはっきり見えた。


「嫌……やめて。このまま、わたし……っ」

「死なせない! 運命だって言っただろ!」


 女性は腰に提げていたナイフに手をかけたる。引き抜いたそれは、太陽の光に照らされて煌めいた。


「お願いっ」

「させないよ!」


 女性は逆手に持ったナイフを振り上げた。




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