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6件目

 ロバート先生改め、陰険(いんけん)ロバートの課題に頭を抱えること数日。

 休日中に作戦が練れたらと思っていたのだが、どうしても考え浮かばなかった。

 デュラが女の子だったらなぁーってどうでも……よくないな。やっぱ、女の子だったら俺の何かが覚醒したかも知れねぇのに。

 現状なら俺がホモかゲイに目覚めることしか期待できない。


 っとまぁ、そんな感じで、休日を消化して、今にいたるわけだ。今週中に3つの契約を確実にする必要がある。

 欲を言えば、かなり強い契約者と、契約が結べれば万々歳だ。


 そして、模擬戦闘の前々日になったわけだが……

「デュラは、どのランクまで契約の席に呼び出せるんだ?」

 まずは、俺達の現状確認をすることにした。

 敵を知るには、まず味方からってな。

「う~ん……種類によるけど…………どの種類?」

「そうだな……ゴーレム系と天使系、それから、小鬼系か悪魔系かな?」

「小鬼系と悪魔系は、呼び出したことがないから分からないよ。ゴーレム系は、中級までは確実にできる。天使系は、準上級までならなんとか……かな?」

 俺は、デュラの呼び出し範囲の広さに素直に感心した。

 確かに大抵の召喚術者(コールマスター)は、数十種類も契約の席につけるもんだが、1年生だと……少なくとも俺が知っている限りでは、メアリーの15種類くらいが最高だ。他の奴らは多くても4種類くらいだからな。

 そんな中デュラは、成功率を考えなければ、8種類も召喚の席につけるらしい。

 ちなみに俺は、3種類くらいしか無理だ。しかも全部、下等ランク……。

「なら、脚の速い奴がいい。そう言うのは居ないか?」

「う~ん……魔獣系なら中級もいけるけど…………大丈夫?」

 魔獣系か……交渉がなかなか難しい種族だな。

「話が通じればなんとかなる。というより、なんとかする」

 とりあえず、契約する相手は決まった。

 後は、術者の方の対策を考えねぇと。

「そういえば、メアリーさん達の方は大丈夫かな?」

「あぁー……たぶん大丈夫だろう?」

 あっちもある意味俺達と似てるからな。

 ただ、術者のスペックに差がありすぎるが。名門のカール家の次女。それに体育系の部活……確か、陸上部だったか? に属してるアリス。

 それに引き換え、トンデモ美少女のデュラに魔力スッカラカンの俺だ。

 ……不公平じゃねぇか? この組み合わせ。

「相手の心配をしてる余裕があればいいんだけどな……俺にもっと魔力があればなんとでもなるんだが」

 無い物はねだっても出てこねぇから仕方がねぇ。

 最悪、その場その場でやり過ごすか……。

「ネグ君……こんなのはどうかな?」

 なにか良いアイデアを思い付いたのか、俺に耳打ちをしてくるデュラ。……スッゴいこそばゆいです。

「ってのだけど……やっぱりダメかな?」

「………………いや、イケるんじゃねぇか? いや、むしろその作戦しかねぇな! その作戦で行こう!!」

「えっ!? でも、ネグ君。かなりキツいと思うよ? それでもやるの?」

「大丈夫だ、問題ない」

 むしろ、やらせてください! だろ。こんな幸せな作戦は。

 その日中に3件の契約を済ませ、俺達は解散した。

 準備は整った。後は決戦を待つだけだ。


 そして、模擬戦闘の当日。

 俺らは体操服に着替えて、校庭に4列横隊で並んびロバート先生の前に集合していた。

 腰には召喚術者の必需品である道具を入れたポーチを全員がしている。

「えー、みなさん。初めての模擬戦闘になりますが、怪我に気を付けて正々堂々戦ってください。では、名前の呼ばれたペアは、円の中に入ってください。そこからアルフレッド先生に『逆召喚(リバース)』してもらいますので、戦闘開始のピストルの音がするまで待機していてください。それじゃ名前を呼ばれた生徒は、円の中に。アレン君とショーン君………………」

 いよいよ模擬戦闘の火蓋が切って落とされた。


 今回は色々と特別ルールが用意されている。

 1つはチームで戦うことだ。

 通常は、各チーム一人のバトルロワイヤルなんだが、今回はチーム戦。これは俺達にとって有利なルールだ。


 次に障害物の有無だ。

 本来なら体を隠せるような障害物は無いのだが、今回は森林のようなフィールドで戦うことになる。


 最後に、これがなかなか辛いルールで、契約者が一度でも戻った場合は、その契約が破棄されるってものだ。

 つまり、一度出したらもう終わり。同じ契約者が二度も召喚されることがないってことだ。

 ヒットアンドアウェイをしようと考えてたんだが、さすがに無理になった。


「以上、8チームで第一回戦を始めます。呼ばれた生徒たちは、各人円の中に入ってください」

 呼ばれた生徒らは、言われた通りに円の中に入った。

 俺達は、第2試合だ。

 メアリー達は第3試合なので、互いに勝たなければ勝負する事はない。

 ……正直、勝負したくない。


 第1試合が開始されてからだいたい一時間経った。

 長い戦いの末、残った3組のチームが決勝戦へと駒を進めた。

「ネグ君、体調はどう?」

「大丈夫だ。たとえ死んでも動き続けてやるよ!」

「それだとアンデット系の契約者になっちゃうね」

 デュラの冗談にクスクスと二人して笑う。

 どうやら、デュラの体調も問題ないようだ。緊張もほどよく解けている様だし。

「まず一勝するぞ」

「うん! 目指すは優勝だね!」

「名前を呼ばれた生徒は、円の中に入ってください」

 俺とデュラは、あと二人くらいなら入れそうな赤色の円の中に立ち、呼び出されるのを待った。

「全員入りましたね。アルフレッド先生、お願いします」

 アルフレッド先生は、召喚技術の理論の部分『基礎理論』の単元を受け持っている先生だ。

 その先生は、俺達をフィールドに呼び出すのと審判の役目を担っている。

 あの先生の授業って結構好きなんだよな。

 魔力が少ないなら少ないなりにどうすれば交渉の席につけるのかとか、そういったことを丁寧に面白おかしく話してくれる。

「ネグ君! 始まるよ!!」

 デュラも興奮しているのか、手をワシャワシャと振っている。

 まったく、デュラは可愛いな。

 そんな風に考えてると、視界が青白い炎で包まれた。正確には円の外側が炎に包まれているからそういう風に見えるだけだ。

「召喚されるってのは、こんな感じなのかな?」

「さぁな? 暇なときにでも契約者に聞いてみるか」

 そして、その炎が消えると辺りはジャングルのような大森林に包まれていた。

 先生が用意した森林ステージってところだな。

「よし、今のうちに準備するぞ」

「う、うん! 重たいけど、よろしくお願いします!」

 あぁ! 任せろ!

 君の笑顔のためなら何でもやれちまいそうだぜ!!


 逆召喚で呼び出されてから3分くらいで戦闘開始のピストルがなった。

 まずは、様子見からだな。

 ただでさえ俺の体力勝負だから、あまり派手に動きたくない。

 手の内をさらすのも辛いからあまり目立たないように……

「いたぞ!」

「な、何でオンブしてんだ? あいつらは?」

 ……早々に見つかった。おかしいなぁ、あと5分はいけると思ったのに。

「何でもいい。あんな状態で召喚なんかできるかよ」

「そうだな、サクッとリタイヤしてもらおうぜ」

 言いたい放題……

「言いやがって! デュラ!」

「『召喚』! お願いします、デュラハムさん!」

 デュラが魔力を込めた札を二人の野郎に投げつける。

 札は、紫色の炎で契約者のシルエットを写し出す。

 デュラハムは、中級悪魔系に属していてギリギリだが、デュラの魔力で召喚の席につくことができた。

「我が主の元に!」

 ……代理交渉は、面白くない進みかたをしたけどな。

 最初は渋っていたくせに、デュラの悲しそうな顔を見たら手の平を(かえ)しやがった。

 ……気持ちは痛いほど分かるから責められねぇけど。

「「でゅ、デュラハム!?」」

 西洋の鎧を身にまとった、首なしの悪魔を見て驚く二人。

 まさか、初戦から中級ランクと戦闘だもんな。俺だって驚くぞ。

「あの二人は、デュラを罵倒した。……軽くオシオキしてやれ」

 ちょっとイラッとしていたので、俺がデュラハムにそう言うと

「我は姫の言うことしか聞かん。……だが、姫の名誉を著しく傷付けた罰は、しっかりと与えなければなるまい!」

「「ひぃ!!」」

 迫力あるなぁ。さすが、伊達に鎧を着てねぇな。ガタイもいいからそこも、迫力があるポイントだな。

「僕……男の子なんだけどなぁ……」

 ……ま、まぁ、若干1名は、精神的ダメージをおっているが……問題ない。気にしない方向でいく。

「デュラハム。姫様から殺してならぬっとさ。ホドホドに頼むぞ?」

「うむ。姫の言うことだ。守るに決まっておるであろう。……瀕死の一歩手前で手を打とう」

 いや! それダメだから!

 瀕死のじゃなくて、半殺しの一歩手前にしてくれませんかね!?

 俺がそう忠告するよりも早く、デュラハムが動く。

「「『召喚』!」」

 相手も、ただで殺られるわけにいかないから、自分達で契約した契約者達をその場に召喚させる。

 下等の(けもの)に下等の小鬼だ。どちらもデュラハムの相手にならないな。

 安心して、事の成り行きを見守ることにした。


 デュラハムが、自分の身長の倍くらいのランスを突き出し、体長3メートルはある下等の獣を串刺しにする。

 刺された獣は、痛さに激しく抵抗するが、そのまま小鬼の方に投げ飛ばされ、小鬼を踏み潰した。

 小鬼は潰された事により『退喚(リャード)』し、光の粒子となってその場から消えた。

 体からドバドバと鮮血を流す獣も小鬼と同じように退喚させられた。

 ちなみに退喚させられた契約者達は、死ななければ元の世界でピンピンしているらしい。

 そんでもって、そんな激闘を繰り広げるのは、上級以上の契約者でないとよほど起こらない。

 これで相手の契約は、残りひとつ。

 俺達の勝利が決まったといっても問題ないが……油断はできねぇ。召喚術者を直接狙ってくることもあるからだ。

 ルール上、なんの問題もないから全然いいんだけどよ。

「我が姫に謝罪の言葉は、あるか?」

 デュラハムが所持している血がベットリ付いたランスを突き付けて聞く。

「「す、すびばぜんでじだ!!」」

 ……戦意喪失したようだ。とりあえず、勝利。


 俺達は、戦闘が終わったあと、草むらに隠れてチーム数が減るのを待っていた。

「先にデュラハムを召喚したのは間違いだったな」

 っと俺が呟くと

「何を言うか! 我が先陣をきらずして、誰が姫を守ろうぞ!」

 ってすごい勢いで言い返してきやがった。

 そういう所も込みで、俺は間違いだと思ってるからね?

 だいたい姫って単語が出る度に、デュラの精神がガリガリ削れてるから、少し黙っててくれねぇかな? 敵にも見つかるだろ?

「はぁ…………それより、このままずっと草むらに隠れてるの?」

 俺にオンブされているデュラが、俺の耳元で(愛を)ささやいてくる。……いや、愛はささやいてないからな。幻聴だ。

「いや、チョクチョク移動するつもりだ。今日中に決勝戦までやるだろうから、体を慣らしておかねぇと。咄嗟(とっさ)に動けねぇなんてシャレにならん」

 一応、そんなことがないようにパートナーを組んだときから筋肉トレーニングしてるけどな。……有酸素運動もしとけばよかった。

「それじゃ、ちょっと移動するぞ?」

「うむ」

 デュラに言ったつもりだったが、何故かデュラハムにうなずかれた。

 ホント……イラッとくるな。


 初戦闘から20分くらい経った所で終了のピストルが鳴った。

 その音と共にデュラハムを退喚させ、俺達もアルフレッド先生によって校庭へと戻された。


 負けたチームは、次の試合を観戦するべく、校庭の(ふち)でポジション取りをしていた。

 負けたチームの特権で俺達の戦いっぷりを観ることが出来る。

 勝っているチームは、一切観ることが出来ないので俺達のオンブ作戦は、勝利したチームに未だバレていない。

「デュラ達のチームは、オンブして戦ってたんだぜ?」

「マジかよ!? あのデュラを背中にか!?」

「あぁ。マジで許せねぇよな?」

 ……試合のあとに死闘(リンチ)が待ってそうだな。

 ってか、そんな大声で話すと他のチームにも聞こえちまうだろうが!!

「オンブ……」

 ほら! 一番厄介なチームに聞かれちまったよ!?

「ネグ君が……デュラ君を…………オン……ブ…………」

「メアリーさん? どうかしたの?」

「ふぇ? な、何でもありませんよ!」

 ナイス! アリス! マジでありがとう!!

 メアリーに睨まれて冷や汗ダラダラだった。デュラハムより怖いと思っちまった。

「デュラとイチャラブしやがって…………殺す」

 おい!? ふざけんなよ!?

 そんな大きい声で何て事言い出すんだ!?

 イチャラブしたいのはやまやまだが、それはデュラを女の子にしてからに決まってるだろ!?

「イチャ……ラブ…………」

 アリスの消火作業も、どうやら『イチャラブ』って火薬の前では無力だったようだ。

 ……メアリーが再びご機嫌ななめになっている。もう、ななめっていうより垂直って言った方が正しいくらいだ。

「第3試合をします! 残りの生徒は、準備をしてください!」

 遠くでロバート先生の声がする。

 それに応えるようにゾロゾロと生徒が動き出した。

「アリスちゃん……いきましょうか」

「う、うん」

 プッチンきているメアリーに、アリスが怯えてるよ。

 ……あんなので勝てるのか?


「では、正々堂々と戦ってください。アルフレッド先生、お願いします」

 俺はなるべく平らな地面の所に腰を下ろして、その様子を見ていた。

 愛しのデュラは、お花を摘みにいっている。

 メアリー達、第3試合の面々が青白い炎に包まれ、その炎が消えた時には、生徒の姿はなかった。

 っと思ったら、再び青白い炎が出現し、生徒達が戻ってきた。

 いや、訂正。メアリーとアリスだけがピンピンして、他の生徒らはボロボロだった。……何があった?

「では、決勝戦を行います。勝利したチームは、円の中に入ってください」

 ………………マズイ。

「せ、先生!」

「何ですか? ネグ君」

 俺は時間稼ぎのために冗談半分で口にした。

「俺のお姫様が、お花を摘みに行ってるので待っててくれませんか?」

 ……ホント、何でこんな冗談を言っとんだろうか、っとあとになってものすごーく後悔した。

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