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4件目

 洞窟から抜け出た次の日。

 彼女の頑張りと契約者が話の分かる奴だったため、難なく追試の準備が整った。

 追試の期日は決まっているのだが、どちらかというと期限が決まっているだけでそれより早く合格してしまえば問題はない。

 俺とメアリーは、その日の内にロバート先生のスケジュールを確認して、翌日の昼頃に時間を取ってもらい、二人して追試に挑んだ。


「では、ネグ・ディザイア君、メアリー・カール君。君達の契約者を召喚してください」

 先生は、テストと同じ文言(もんごん)で俺達に言う。

 今更だが、中間テストで追試を受ける1年生は、毎年、少ないものの必ずいるらしい。今年は、俺とメアリーの二人だけだ。

 先生の合図を聞いてから、校庭に設置された白いタイルの上に俺とメアリーが並んで立つ。

 メアリーは、契約した準上級天使エグラネルを呼び出すための札を顔の前に掲げて目をつぶった。

 札に魔力を込めているんだろう。

 チラッと見た彼女の横顔は、とても綺麗だと……不覚にも思った。

「では、ネグ君。お願いします」

 彼女から札を受け取り、この前斧を召喚したときと同じようにそれを前に投げる。

「『召喚』!」

 札は、銀色に燃え始めた。

 銀色の炎は、まずエグラネルのシルエットを表し始める。

 天使系特有の両翼(りょうよく)に人の姿。女性らしい(ふく)らみ……巨乳だな。

 そして最後は、ロウソクの炎が消えるように一瞬だけ強く光り、シルエットに色を付けた。

 俺達が契約した準上級天使系エグラネルの召喚に成功した証だ。

「どうもぉ~! エグラネルでぇ~す!」

 ……フランクすぎる白い翼を持った巨乳のお姉さんが、俺達の目の前に出現した。


「それで? 追試はどうなったんだい?」

 俺は、バイト先のアラクネ店長から追試の結果について訪ねられた。

「一応、合格だとさ。ただ……釈然としねぇよ……アレは」

 あんなにフランクな天使っているのか? どう考えても契約違反だろ? おまけに準上級なワケなんだから余計にダメだろ! ピースしながら召喚に応じた天使なんて聞いたことねぇよ!

 ……良かったのは巨乳のお姉さんってところだけだな。

「まぁ、追試も終わったし、これであのドジッ娘とのパートナーも終わりだろう」

「なんだい? 寂しいなら、ずーーーーっとパートナーにしてくださいとでも言えばいいんじゃないかい?」

「バカ言うなよ店長。俺の野望を知ってるクセに。よく言うよ」

 俺の野望のために彼女を巻き込んじゃダメだろ?

 ……まぁ、彼女以外でもダメだけど。

「いっそのこと、野望なんか諦めて彼女とイチャラブでもしてればいいんじゃないのかい?」

「うるせぇよ……」

 俺は、逃げ出すようにして薪割りへと向かった。

 外に向かうときに何か聴こえた気がしたが、特に気にしなかった。


 俺は、小さい頃に両親を事故でなくしている。

 ただ俺は、それに納得していない。

 いや、別に両親が死んじまった事に納得がいっていない訳じゃない。事故で死んだってところが納得できてない。

 あの事故は、不可解な事が多い。

 だいたい、(がけ)の上から落ちて首に縛られた(あと)なんかつくかよ。

 ……だから、俺は真実を知るためにある契約者と契約をしなければならない。

 俺の探し求めている契約者は、過去に一度だけ契約の席につく事が出来たらしい。

 ただ、その一回を除いて誰も契約の席どころか呼び出しにも成功していない。

 その契約者の名は……


「またか……」

 自分の野望を紙切れに必死に書いている……なんて夢をあの日以来、結構な頻度で見ている。

 特に召喚術を用いた後は、起きてからも覚えてられるほどの強烈な夢を見る。

「……まだ、5時かよ」

 もうちょっといい夢見させて欲しいもんだ。まぁ、文句を言っても……誰も叶えてくれねぇけど。

 俺は布団から出て、今日の支度を始めた。


「えーっと、本日から新しい単元に入っていきます。ここから先は、事前準備を(おこた)ると成功しないと思ってください。では、教科書の52ページを開いてください」

 先生に言われた通りのページを開く。

 開いたページの一番上には、先日俺とメアリーが実践した『代理交渉』と書いてあった。

 おい、ロバート先生。

 ここに教科書の左上に難易度Cって書いてあるけど?

 今回のテストって難易度Fって聞きましたけど? どうなってるんですかね?

 そんな視線で先生を見詰めているが、何食わぬ顔で授業を進めていく。くそっ。覚えてろよ。

「『代理交渉』とは、呼び出しと交渉を別々の人が担当するものだと思ってください」

 俺は魔力が少ねぇから基本的に代理交渉で何とかするしかない。

 メアリーみたいにっとは言わねぇけど、一般人並みに魔力があればとは思う。……思ってても仕方がねぇけど。

「ここで皆さんに宿題を出しておきます。次の授業までに二人一組を作っておいてください」

 えぇーっと周りがブーイングし始めるが、ロバート先生は鉄壁の持ち主らしく、そんなブーイングをお構いなしに続けて言う。

「なお、来週に代理交渉のテストをするんで、そのつもりでお願いします」

 その言葉に全員黙ってしまい、タイミングよくチャイムがなる。

 色んな意味で終わりを告げられた。


「メアリーさん! 私と組みましょうよ!」

「カールさんと組むのは、俺しかいないだろ?」

 授業の終わった教室では、メアリー・カール争奪戦が勃発していた。

「あ、あの……その……」

 周囲の迫力にメアリーはおどおどしている。……まぁ俺には関係ないけど。

「ちょっと! 男子は、メアリーさんの気を引きたいだけでしょ?」

「そっちだって! 成績のためにカールさんを利用するだけだろ!?」

 両陣営の中心となっている人物等が、メアリーの奪い合いを始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。私のために争わないで~」

 いやー悲劇のヒロインっぷりは、半端ないなー。

 マジでメアリーさん、パない。

 そんな風に遠くから眺めていると肩をチョンチョン叩かれた。

「ん? なんだ、ロバート先生じゃないですか。何か用ですか?」

 いつもニコニコ。笑顔のロバート先生が、俺の後ろにいた。

「今回は、メアリーさんと組まないのかい?」

「はぁ……。いや、余った人と組みますよ。どうせ、下等ランクとの契約でしょ? ってか、先生! 難易度Fの試験に対して難易度C以上の成果をあげたのに何にも無しですか!?」

 思い出したから言ってやったんだが……

追C(ついシー)ですからね」

 …………何て言うか…………この人もパない。

 おかげで戦意が喪失(そうしつ)した。

 あまりにも戦意がなくなったので再びメアリー争奪戦を眺めた。

「親父ギャグは……まぁ、いいですが……そうなると今度の課題はなかなか面白くなりますね。」

「へっ? どういう意味だよ?」

 俺が聞こうと顔をあげた時には、教室を出ていく先生の姿しか見えなかった。

 俺の席は窓際なので、教室の扉まで5メートルはある。

 その距離を一瞬で移動したのかよ……。

 呆れていると再び、肩を叩かれた。

「今度は、どな……た…………」

 息が止まった。いや、心臓も止まったと思った。

 だって……目の前に美少女がいたからだ!

 金髪のショートカット。クリクリっとした大きな瞳。柔らかそうな淡いピンクの(くちびる)

「あ、あのー……ネグ君?」

「はっ! す、すまん! ご、ごめん! な、何だった?」

 ボーッとしてしまいテンパっちまった。

 普段から何事にも動じない子として有名な俺が、不覚にもあまりの美少女っぷりに動じてしまった。

「あのさ……パートナーってもう決まった?」

「いいえ、(わたくし)はフリーです」

 えっ? 何? 告白? えぇーでもぉー俺にも選ぶ権利とかあると思うんですよぉー。

 君なら1発オーケーしかあり得ねぇけどな!

「な、なら……僕と今度の課題でパートナーになってください!」

「あぁ! ……喜んで」

 告白と違ったぁー。

 ……まぁ、分かってたけど。……ぐすん。

「っと言うより、俺でいいのか?」

「うん。メリーちゃんから聞いたんだけど、ネグ君が追試の時に代理交渉したって聞いたから。安心して任せられそうだもん」

 だもん……だもん……だもん…………。

 やべぇな。この子もパないぞ!

 このクラスパない奴、多すぎだろ!?

「そ、そういや名前は?」

「僕? デュラ・マグゴナルだよ?」

 ……えっ? 何? 何マグゴナルさん?

「ご、ごめん。……もう一回、教えて?」

「う、うん。……デュラ・マグゴナル…………男の子です」

 …………ウッソだぁー。嘘だよ、嘘って言ってよ。

 オジさん、怒らないから。そういうギャグなんでしょ?

 全然面白くないよ?

「周りからはデュラミーって愛称で呼ばれてます……男の子だけど…………」

「そ、そうか……そうかぁー……」

 男の子だったかぁー。まぁ、いいか。

 男ならそんなに気を使う必要もないしな。うん。

 残念だが……非常に残念だが、仕方がない。……彼から彼女になってもらう方法を模索しよう。

「そ、それで……パートナーの話だけど……」

「あ、あぁ。もちろん、全然オーケーだ。こちらこそ、よろしく頼む」

 俺が手を左手を差し出すとデュラも手を出して握手した。……手、柔らけぇなぁ。

 一方、メアリー争奪戦は壮絶な争いを見せていたが、女子の方が圧倒的有利な展開で進んでいき、女子陣営の中心人物であるアリスが、メアリーと組む権利を勝ち取っていた。

 メアリーは、それに不満を持ったからか俺を睨み付けていた。

 いや、なんでだよ?

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