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3件目

 召喚術は今から2000年ほど前に産まれた。

 最初の契約者は、最上級ドラコン種『バハムート』だったとか。

 正直、よくそんなモノが契約に応じてくれたと思う。

 歴史の教科書には、契約の内容までは書かれてないから、なんでとか、どうやってとかは分からない。

 ただただ、この世界で初めての契約者の情報と年号が歴史として勉強させられる。

 まぁ、知りたければバハムートと契約すれば教えてくれるかも知れねぇけど、そこまで知りたい情報でもない。

 今知りたいのは、何でこうなったのかって事と、どうしたらこの現状から打開できるのか具体的なアイデアだ。

「全く……洞窟の中で道に迷うとか洒落にならないぞ」

「……すいません」

 俺とメアリーは、バイト先のアラクネ店長から貰った紙切れに従って竜族の住み()と言われている洞窟を探索していた。

 探索は、順調に終わったんだが……帰り道が分からなくなった。簡単に言うと迷子だ。


 バイト先から帰った俺は、独り暮らしをしているマンションの一室で明日の準備をしていた。

 紙切れに書いてあったのは、準上級天使系との交渉を有利に進めるための材料の名目と個数とそれらの材料が採れる場所だ。

 しかも俺たち無契約者(ノーコール)でもケガに気を付ければ問題ない場所なので早速、明日にでもメアリーと合流して採ってこようと俺一人で準備をしていた。


 翌朝。忘れ物がないようちゃんと確認をして家を出た。

 洞窟での採取がメインだから、ランタンとか縄とか小さいスコップとかを持って学校に行く。

 かなり重くて登校だけで疲れたが、無事、遅刻せずに着いた。

「おはようございます、ネグ君」

「おっす。突然で悪いが、今日の午後って空いてるか?」

「今日の午後ですか? ちょっと待ってくださいね」

 彼女は、茶色い皮張りの手提(てさ)げ鞄の中からピンク色のスケジュール帳を取り出して、今日の予定を確認している。

 本来なら互いの連絡先を交換しておいて、昨日の内に予定を共有しておければこんな土壇場にならなくて済むんだが……なんせ学校のアイドル的存在だからな。

 面倒が多すぎる。主に野郎共の嫉妬で。

「はい! 今日の午後でしたら大丈夫です! ……やっぱり連絡先を交換しておきませんか?」

「面倒な事になるから断る。それより、追試のために『竜の巣』まで素材を集めにいくぞ」

 余程、連絡先を交換したいのか彼女が少しだけ寂しそうな顔をしたが、余り気にせずにこっちの用件を伝える。

 ……顔は反らさしてもらうけど。

「契約者は決められたんですか?」

「バイト先の店長から天使系にしとけって言われた」

「天使系……ですか…………」

「どうかしたか?」

 俺が聞かれたことに答えると彼女の顔色が少しだけ暗くなった。

 天使系に嫌な思い出でもあるんだろうか?

 …………長い話が苦手なのか?

 彼女の性格からしたら何でもなさそうだけどな。

「な、何でもありません!」

「ならいいけど。今日の授業後に取りに行くから、校門で待っててくれ」

 そこまで言うとタイミングよく始業のチャイムが学校に鳴り響いた。


 そして、なんの問題もなく採取も順調に進んでいざ帰ろうとしたら道に迷ったってわけだ。

 なんも面白くねぇな。オチすらねぇからな。

「うぅ……すいません。私のせいで」

「いや…………まぁ、俺もウッカリしてたからな」

 ほんと、何でランタンを彼女に持たせてしまったんだろうか。

 今一番の後悔はソコだ。

 ランタンさえあれば、何も迷わずに帰ってくる事が出来たはずなんだが…………ドジッ娘に渡したのが運の尽きだった。

「何も無いところで見事に転び、ランタンを犠牲に自分の身を守ったんだ。ランタンも可愛い女の子を守れて本望だったろうに」

「えっ……可愛いって……そ、そんな! わ、私なんか……」

 ……やっぱり彼女は、パない。

 この状況で嫌みの一つすら通用しないとか。無敵なのか?

「まぁいい。明かりになりそうな物は何か持ってないか?」

 明かりさえあれば、マーキングしてきたおかげで帰り道が分かる。

「残念ながら……お役に立てなくてすいません」

 まぁ、全面的に悪い訳じゃないし、彼女を責めても迷子から脱出できないから仕方ない。

「ハァー。あんまり良くねぇけどこのさえ仕方がねぇ。『召喚術』の準備をするぞ」

「えっ…………えっ!?」

 俺がさりげなく言った内容に二度も驚いている。

 そんなに大層なこと言った覚えもないけど。

「こ、ここでするんですか!?」

「出られねぇから……そうだな」

「こんな、真っ暗の中で!?」

「ランタンがねぇからな」

「ゴツゴツした岩場で!?」

「洞窟の中だからな」

「未だに契約したこと無い二人で!?」

「出来てたら追試の話は無いな」

「そ、そんなこと……」

 騒ぎ疲れたのか、それとも現状に怯えてしまったのか。シュンとしてしまう彼女。まぁ、俺も今のバイトをして無かったらまず無理だとかなんとか思って歩き回っていただろうな。不安になるのも分かるが、彼女は不安そうな顔をしたまま俺に聞いてきた。

「で、出来るんですか?」

「魔力が足りねぇから呼び出しをお前がやって、『代理交渉』で俺が何とかする」

 幸い魔方陣の描き方は覚えている。しかも、都合がいいことに準上級天使系の奴を。

「かなりキツいが……やれるか?」

「………………」

 やっぱり、土壇場は無理か。

 俺は諦めてリュックの中を漁ろうとした時。

「やります!」

 暗い洞窟の中で彼女は、自信に道溢れた声ではっきりとそう俺に告げた。

 今日までどこか不安げだった彼女が、大きな声で応えてくれたことに全身が震えたね。

 ……真面目にやらねぇとな。

「分かった。ちょっと準備するから待ってろよ」

 そう言ってさりげなく予備のランタンを取り出して灯りを付ける。

 ゴツゴツした床の中から、なるべく平らな所を選んで記憶にある紋章を白色のチョークで描いていく。

 描き上がったところで灯りを消した。

「よし、出来たぞ! まずは、メアリー。君の番だ」

「はい! 頑張ります!!」

 紋章の前に立ち意識を集中させる。

 俺は、彼女の邪魔にならないように後ろで待機して、その様子を暗いながらも見守る。

 彼女の魔力量なら問題なく契約の席に付けるはずだ。

「お願いします」

 彼女が小さく呟くと銀色の炎が、紋章の上に現れた。つまり、

「こっからが俺の仕事だ」

 メアリー下がらせて俺は、炎の前に立つ。

 『代理交渉』の時に気を付けないといけないことの1つだ。

(なんじ)の呼び掛けに応えようぞ』

 炎から女性の声が聞こえて来る。

 天使系の契約者は、大概が女性だからな。

 別段驚くことは無いんだが……何で後ろにいる方は、ご立腹なんですかね?

 まぁいい。今は、正面の契約者様に集中しねぇと。

「俺は、ネグ・ディザイア。メアリー・カールの『代理交渉人』だ。貴女の名前は?」

『我は、エグラネル』

 おっ? 名前を応えてくれたって事はかなり脈あり?

「エグラネルさんに2つ頼みがある。契約してくれれば、こっちが用意した報酬を渡す」

『まずは、我の話を聴くことが契約の条件となる』

 ……相変わらずマイペースに進めますねぇ~天使系は。

「その話なんだが、後にして貰えねぇか? 今洞窟の中にいて凍え死にそうなんだよ」

 コイツらの話ってながーい布教話だからな。退屈この上ない。

『ならぬ』

 …………ちょっとイラッとしちまったぞ?

 まぁ、怒ったらこの契約がパーになるから怒らねぇけど。

「ここから外に出してもらうのが契約の1つなんだよ。それを()んでくれれば、一時間くらいなら話を真剣に聴くからさ」

 彼女(メアリー)が。

 ここで布教話に馴れておくことも必要なことだぞ? メアリー君! っと心の中でだけ思っておく。声には出さない。

『…………うむ、了承した。契約の履行は、もう1つの用件を聴いてからとする』

 おおっ!? 話の分かる方だな今回の天使系は。

 前回のは本当に頑固だったからなぁ。しかも布教話を延長しやがったからな。

『もう1つの用件を話せ』

「俺達の呼び出しに1回だけ応えて欲しい。ただそれだけだ」

『…………2時間だ』

 へっ?何が?

『我の話を2時間聴くのであれば、用件を呑む』

 ………………マジで?

「わ、分かった。……交渉成立だな」

『では、第一の契約を果たす』

 なんか……釈然としねぇなぁ…………。


 こうして、追試のための準備も整ったし、洞窟から外に出られたし万々歳なわけなんだが……

「2時間の話は、ハードすぎた……」

「それは、ネグ君が予備のランタンを出し惜しみするからです! バチが当たったんです!!」

 外に出た時に彼女はランタンの存在に気付き、俺も一緒にエグラネルの布教話に付き合わされた。

 しかも俺だけ正座で。足がシビレてうまく歩けん。

「ですが、これで無事に単位が貰えますね」

「あぁ……そうだといいけど…………」

 何か嫌な予感がするんだよなぁ。何もないと嬉しいんだが。

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