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2件目

「『契約者』についてですが、主に階級と生命体の種別名で大別(たいべつ)しています。階級は、下等から中級、準上級、上級、最上級の五つに分類されます」

 ロバート先生が担当の『召喚』の単元で、一番始めに教えられた内容だ。

「大体の種別は、階級が上がるほど契約が難しくなってきます。(まれ)に最上級でも簡単に契約できる場合がありますが、本当に希ですし、そもそもその場合、交渉の席に着くのが大変な場合がほとんどです」

 そう言って、俺たちに背中を見せて黒板に真っ白なチョークで書き始める。

 俺ら生徒は、先生の書いている内容を真っ白なノートの上を鉛筆に走らせて書き写す。

 どうでもいいが、ノートの書き始めは凄い丁寧な字になるんだよなぁ。フッシギ~。


 図書室で本に埋もれながら、おおよそ2ヶ月前の授業を思い出していた。

「ってかあの先公! 中級どころかもう1つ上の準上級と契約してこいとか! 頭悪いんじゃねえの!?」

 おかげで難易度が跳ね上がったぞ!

「だ、ダメですよ、ネグ君!」

 隣で黙々と図鑑をめくっていた、この学校のアイドル的存在となっているメアリーが、俺の先生に対する悪口を注意してくる。

 ……おかげで、肩身の狭い思いをしている。

「図書室では、静かに本を読まないと」

 ……訂正、悪口じゃなく、素行の悪さを注意された。いや、確かにそうだけど。ちょっと、ズレてませんかねぇ?

「はぁ~」

 俺はため息をついてから準上級生物との交渉材料について調べ始めた。


 結局、一日でどうにかなるような代物でないので、その日は解散になった。

「そんじゃあな」

「はい! また、明日です!」

 学校の校門前で彼女と別れる。

 そもそも、家の方向が真逆だし、俺はちょっと、よるところがある。

 校門から5分程度歩くと商店街のゲート(っていうか、アーチ?)にぶち当たる。

 その商店街を奥に歩いていくと一軒の怪しい店が見えてくる。

 まぁ、店前に置くようなものじゃ無いのに堂々と置いてるからな。

 正直、このドラゴンの骨格なんかを堂々と置いてるから客足が遠退(とおの)くんじゃねぇの?

 その無駄に客を威圧している置き物を盛大にムシして、木製のドアを開けて中に入る。

「いらっ……なんだ、ネクラ君かい……」

「誰がネクラだ! ネグだって言ってるだろ。ネグ・ディザイアだ」

 男性客の視線を独り占め出来そうな程の美人(スタイル抜群)だが、性格が残念すぎて未だに独り身の店長は、俺の顔を見るなり葉巻に火をつけた。

「タバコもたいがいにしたらどうですか? アラクネ店長」

 俺は、荷物をレジ裏に置きながら、店長の健康を心配して聞く。

 が、

「大丈夫よ。肺も健康そのものだから」

 っと返してきた。そんなわけあるか。

 今ごろお腹と同じくらい真っ黒になってるだろ?

「それより店長。準上級との契約の仕方を教えてくれ」

「……種別は?」

 少し真面目な顔をして俺に聞いてくるバイト先の店長。

 召喚術に関しては、真面目に仕事をしてくれるから頼りになる。

 ……婚活も真面目にすればいいのに。

「特に決まってない。俺でも交渉できる相手がいい」

「なら無理だね」

「おいおい、諦めるの早くねぇか?」

 諦めたらそこで試合(ついし)終了だろ?

「だって、アンタに準上級の意識を呼び出せるだけの魔力がないじゃない?」

 ゴモットモですけど。

 『契約者』の意識を具現化させるのにも魔力が必要になる。

 しかも階級が上がれば上がった分だけ必要な魔力も上がっていく。

 更に言うなら俺は、下等でも種別によっては魔力が足りずに呼び出せないこともある。

「『代理交渉』だから、呼び出すのに魔力は必要ない。呼び出しは……カール家の次女がやってくれる」

「あぁ、あの娘ね」

 納得してくれたのか急に饒舌(じょうぜつ)に話し始める店長。

 店長も昔は、『召喚術者(コールマスター)』だったらしい。しかも有名だったとか。本当かどうか知らんけど。

「なら、天使系がいいんじゃない?」

「えぇー」

 天使系とか……俺、ウマが合わないんだけどなぁ……。

「文句言っても仕方がないじゃない。だいたい、天使系ならこっちが我慢すれば大抵話の分かる奴等ばかりよ? あなたの得意分野でしょ?」

 そう言われると……そうなんだけど。

「そもそも男の癖に『代理交渉』って時点で文句言えないでしょ? しかも、きっつい呼び出しを、か弱い女の子にやらせるなんて」

「うっ」

 さっきもチラッと説明したが、呼び出すにはそれなりの魔力が必要となる。

 だが、交渉は魔力でなく、知恵とか魅力みたいなモノが必要になる。その分、力じゃねぇけど、大変なんだよ。

 だから、大抵の代理交渉は男性が契約者の呼び出しをして、女性にその契約者と交渉してもらうのが一般的でこっちの方が契約成功率が高い。

 あれだ、ティッシュ配りで男より女から貰った方が嬉しいだろ? そんな感じだ。

「だ、だけど、逆の場合でも成功例はあるだろ? 例えば、去年はあるカップルが上級悪魔の交渉に成功したって話がニュースになってたじゃねぇか」

 聞いた事実を少しだけ曲げて説得を試みる。

「10年以上のベテラン夫婦が、上級悪魔との契約に成功しただけじゃないの。そんなのは、珍しくないわよ」

 いや、珍しいと思うぞ?

「まぁいいわ。悪いことは言わないから、天使系にしときなさい。じゃなきゃ1年坊にはキツすぎるわよ」

「分かったよ。……なら、天使系に有効そうな手土産を売ってくれよ」

 手土産があるのと無いのとでは、またしても、契約成功率が変わってくる。ある方が断然、有利だ。

 そう思って、俺が言うと店長は

「い」

 頬を少しずつ上げながら

「や」

 おもいっきり俺をバカにするような感じで

「だ」

 売るのを拒んだ。よし、わかった。戦争だ!

「何でだよ!?」

「可愛い女の子とキャッキャッうふふな展開で素材集めでもしてこい! って店長様の最上級女神クラスの優しさからだよ!」

「何処が女神だ!? 大魔王クラスの間違いだろ!? そんなんだから、貰い手がいねぇんだろ?」

「言いやがったな、クソガキ!! 今度こそ、その素行の悪さを叩き潰してやる!」

「上等だ! やれるもんならやってみろ!!」

 そう言って取っ組み合いが始まる直前にチャリンとお客さんの入店を報せる鈴がなった。

「「いらっしゃいませ!」」

 お客さんが来たので一時休戦だ。

 くそっ! あのままやっていたら今度こそ勝てたのに。

「全く。授業のときもそれくらい元気があればいいのに」

 そう言って入店してきたお客さんは、深めに被った帽子を手に持って挨拶をしてきた。

「こんにちは、アラクネ女史。相変わらず賑やかで何よりです」

「ロン坊か」

 ロバート先生は、アラクネ店長の教え子だったらしい。

 まぁ、先月起きた事件のせいでバイト先として紹介された時に知ったんだが。

「なんだい? 今はクソガキの担任なんだろ? なんであんな問題を出したんだよ?」

 珍しく俺の追試について、擁護(ようご)してくれるのかと少しーー砂漠からダイヤモンドを見つけるくらいの期待値でーーアラクネ店長を見ていた。

「いっそのこと最上級とでも契約させてやりゃあいいのに。ついでに失敗して留年確定だね」

「このクソ店長……」

 ある意味期待通りの回答に怒りしか沸かなかったぞ。

 ロバート先生は、そんな残念店長の言葉も笑顔で返してきた。

「成功されては、教師陣の面子が保てなくなりますから困りますよ」

「「いや、さすがに無理だろ?」」

 最上級クラスの召喚って……。

 同意見だったのか、俺と店長の声がハモった。

「まぁまぁ。可能性は低いですが、ゼロでは無いですからね。何が起こるか分かりませんし、ただでさえ今回も追試の範囲を越えているんです。準上級程度で充分すぎますよ」

 俺としては、下等3件で納得して欲しかったけど。

 それっきりロバート先生は、棚に掛けられた召喚術に必要な道具を眺め始めた。

「クソガキ、薪割りを頼んだよ」

「へいへい。斧、使わせてもらうぞ」

 俺は、札を1枚抜き取って裏口から外に出た。


 斧を召喚するため、札に魔力を込める。

 契約者を呼び出すためには、札に一定量の魔力を込める必要がある。

 場合によっては、余分に魔力が必要な時もあるし、全く要らない場合もある。

「『召喚』」

 魔力を込めた札を投げると、俺の目の前に鉄製の斧が出現した。

 『契約者』は、生物だけに限らないのが『召喚術』の面白いところだと俺は思っている。

「まぁ、生物以上に難しいけどな」

 召喚術者としては、道具と契約できて半人前らしいけど。

 俺は、召喚に応じてくれた斧を使って薪割りを始めた。


「ふぅ~疲れた」

 今日の客数は、ロバート先生を含めて5人。結構多い方だ。

 ……こんなのでよくこの店は耐えられていると俺は思う。

「薪はいつもの場所に入れといたぞ。そんじゃな」

「待ちなクソガキ」

 さっさと帰ろうとした俺を店長が呼び止めた。

「なんだよ?」

「ほれ。時間のあるときにカール家の次女と一緒に素材を集めてこい。じゃなきゃ、本当に留年になるよ」

 振り替えると真面目な顔をして、紙1枚を俺につきだしている店長の姿があった。

 俺は素直に受け取ってバイト先をあとにした。

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