兄と妹の仲が悪くなった理由
どうも、佐崎 祐です。
出戻り前に掲載していた、意外と好評だった短編です。
元々はだいぶ前に執筆したため、かなり稚拙な文章ですが、読んでくれたら幸いですorz
それは、テスト三週間前のクソ忙しい時の事である。
俺──澄川和は、高校二年の秋の中間考査はガチで受けようと思い、珍しい事に三週間前にしてテスト勉強を始めたのだ。もちろん普段はテスト勉強なんかしないぞ。基本ノー勉で受けるからな、俺は。
しかし今年は違う。そろそろ真面目にならないと、進学にしても就職にしても、この先の進路がなくなっちまうかもしれない。
というわけで、俺は本気を出して勉強を始めたんだけど……。
「お前ら何しに来たんだよ!?」
「あ?」
「勉強会じゃねーの?」
床に寝転がって漫画を読み、お菓子をバリボリ食べている長身茶髪の男。しかも、どちらかと言えばブサイク側の顔をしているのに、何故か彼女がいる三沢慎吾。
逆立った金髪に、学校指定のスラックスに灰色のパーカーという、どこから見てもヤンキーにしか見えないこの男の名前は長谷川翔太。人様のゲームを勝手にプレイしていらっしゃる。
この二人は俺の友人で、テスト勉強をしに来たと言っているんだけど……。
これのドコが勉強会だよ……コイツら勉強してねーじゃん!
「まず慎吾! なに人ん家でお菓子食いながらエロ漫画読んでるんだよ!?」
「あ? うるせえな、欲求不満なんだよ俺は」
「お前彼女いるだろ! 彼女にエッチな事してもらえばいいだろ!」
「そんな事頼めるかよ……まっ、澄川の性癖チェックも兼ねて、な?」
「な? じゃねーよ! 俺の性癖チェックするな、あとお前意外と小心者だな!?」
コイツ、付き合って一年だと言うのに、未だに純潔を保っているらしい。もし俺だったらさっさとがっついちゃうかもなのに、慎吾……一年ってそれ、彼女もまだなの、って思ってるぞ。
私って魅力ないの? とか思われたら、もう色々とお終いな気がするぜ。
「それから翔太。お前ゲームの何処が勉強なんだよ!?」
「テメェ、ゲーム難しいだろ? ゲームがダメならお前の妹のパンツくれよ」
「ふざけんな! 俺が殺されるっつーの!」
はぁ……このクソ忙しい時に、この馬鹿共はホントに何しに来たんだ。これじゃあ折角テスト勉強する気が起きたっていうのに、全然勉強が捗らないじゃねえか。
しかも、なんでこの2人は揃いも揃って変態なんだよ……。
公然とエロ漫画読んだり、人の妹のパンツくれって頼むヤツが何処の世界にいるんだ。
いや、ここにいるけどさ……。
「頼む、用事ないなら帰ってくれ……っ」
「用事ならあるぞ、澄川……お前のエロ本貸してくれっ」
「貸すかボケ! だから慎吾、そういうのは彼女に頼めよ!」
「いや、だから無理だろ? 俺は普通に純粋な学生らしい普通の恋愛をだな……」
「エロ本貸せって言うヤツの何処が純粋だ! いいからお前らもう帰ってくれ……っ!」
ホントに小心者だな慎吾のヤツ……だからそれ、彼女のほうが可哀想だろ。
俺はまあ……あと13年で魔法使いになっちまうから、よくわからねえけど……。
「和、テメェにちゃんと用があるぜ?」
「なんだよ、翔太」
「ふふ……これを見ろ!」
その時、翔太が右のポケットの中から取り出した、薄明るいピンク色の布。
さらに左のポケットからは、同じ色の全く違う形の布。
そして、ズボンの中からは──赤っぽい色の髪飾りが取りだされる。
翔太はニヤニヤしているが、それを見た瞬間──全身から嫌な汗が噴き出てきた。
「おおおおおおお前っ! そ、それ妹のパンツとブラと髪飾りじゃねえか!」
「おおすげえ……生じゃんそれ。澄川の妹の生下着じゃねえか」
「正解!」
翔太はウインクしながら、嬉しそうに親指を立てる。
いや、グッショブじゃねえから……なに地味に変態行動してるんだよ。
つか、いつ妹の部屋に侵入したんだこの馬鹿は?
「翔太、お前……俺が殺されるだろ!」
「大丈夫だって澄川。長谷川の妹はパンツ盗っても怒らないぞ?」
「そうだ、三沢の言う通りだぞ。今時パンツ程度で怒る女なんていねーさ」
「翔太の妹がおかしいんだよ! 俺の妹は普通の女の子なの!」
パンツを見られても怒らないのは、それって俗に言うビッチじゃねのか。まあ、確かに翔太の妹ってビッチっぽいけど、俺の妹はごく普通の女の子であり、特にエロネタは嫌いな子なの。
つまりどういうことは分かるよな……そう、この場合──俺は殺されるかもしれない。友達がやらかした馬鹿の為に、妹に明日動くのが辛くなるまでシバかれるだなんて……。
ああ、嫌だ。それだけは何としても回避しなくては──!
「……で、翔太。お前、それでな何するつもりなんだ?」
「決まってんだろ? もちろん──お面ランダーごっこだ!」
「お面ライダーかぁ、懐かしいなぁ……俺も姉貴の下着で昔やったわ」
「昔話してんじゃねえよ! 何がお面ライダーだ、春日部の5歳児かよ!?」
アホだ翔太。それに乗っちまう慎吾もアホだけど、翔太が一番のアホだよ。まず妹の下着でお面ライダーごっこって、発想の源が変態すぎる上に狂ってやがるよ。
今更確信した……コイツら、真性の馬鹿だ。
「よし、和。テメェがパンツを被れ、ついでにブラをアイマスクにしろ」
「なんで!?」
「いや、ぶっちゃけ澄川が適役だろ?」
「ああ、和が一番イジり甲斐あるしな」
「お前ら俺をイジりたいだけだろ!? 嫌だよ俺、妹のパンツなんか被りたくねえよ!?」
ぶっちゃけた話をしよう。世の中には妹で興奮する人達もいるし、漫画なんかでも兄がシスコンだったり、妹がブラコンだったりする設定は頻繁に見かける。しかし、ソイツは間違いだ。現実の兄貴がシスコンだと思ったら大間違い。現実の妹がブラコンだと思ったら大間違いだ。
少なくとも、俺は妹の裸見たって興奮しねえし、むしろ気持ち悪く思えるぞ。別に妹との仲が特別悪いわけでもないが、かと言ってイチャラブってわけでもない。
ある程度の距離ってのがあるんだ。
つまり結論を言うとだな……俺は妹なんか好きでもねえ!
従って──妹のパンツなんかキモくて被れるか!
「なんでだよ、妹だぜ? テメェ妹に興奮しねえのかよ?」
「そうだぞ澄川。なんたって妹だ……彼女の次に妹って響きが好きだぜ、俺は」
「少なくとも俺は違うわ! 全国の妹愛好家を敵に回してでも言ってやるぜ、俺は別に妹なんか好きでもねえし、妹のパンツなんか気持ち悪くて被れるかあああああああああああああああっ!」
と、叫んでいた──まさにその時であった。
ドゴッ! という鈍い音が炸裂し、凄まじい衝撃が背中に伝わる。何をされたのかに気付いたのは倒れてからだが、倒れる際に顎を打ち、意識が一瞬朦朧としていた中で──俺はなんとなく予想はしていたものの、起きては欲しくなかったイベントが発生していたのだ。
そう、部屋の扉に蹴りのポーズのまま佇んでいる──我が妹の姿があったのだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!」
「す、澄川の妹……ッ!?」
右手には妹のパンツ、左手には妹のブラを持っていた翔太が大声で叫び、妹の髪飾りを持っていた翔太が硬直している。あはは、こりゃあまずい……弁解の余地なんてないよね。
寝ている体勢から床に座り込み、俺は妹の様子を窺う。やばい、怒ってる。妹の肩がわなわなと震えており、両手の拳は硬く握り締められ、俯いたままギリギリと歯軋りをしている。
うん、どうみたって怒ってるよね……これは人生詰んだか?
「兄貴の……ばか、兄貴の馬鹿! 兄貴なんかもう大っ嫌いだっ!」
目に涙を浮かべた我が妹がバタン! と、乱暴に扉を閉めて廊下を走る。そんな足音が聞こえたが、おそらく自分の部屋へと向かっているのだろう。
直後、ドアが荒々しく開閉される音が聞こえた。
やっぱり、妹は自分の部屋へ向かったらしい……。
あぁ……終わった、色々な意味で終わっちまった。
「澄川、お前の妹……ブラコンだったんじゃね?」
「ああ確かに。あの泣き方は……やっぱ裏切られてショックって感じだよな?」
「やっぱさ、澄川の妹キモい発言がダメだったんじゃね?」
「まあ、和にキモいって言われたらショックだよな、妹ちゃんも……」
えっ?
ちょ、待て……な、なんなんだ、この俺が悪いみたいな空気は?
ちょっと待てよおい、俺ってそんな……悪い事言ったっか?
「澄川ないわー」
「和、お前ホントねーよ……」
「ちょ、お……俺が悪いの? やっぱ俺が悪いのか!?」
「あたりまえだろ」
「妹キモいとか、お前妹だけじゃなくて妹愛好家も敵に回したぞ?」
「あーあ、知らねえぞ。最近のオタってのは行動力もあるらしいからな」
「男ならまだしも、801とかは個人特定して情報晒すらしいしな」
いや、それは今関係ねーだろ。
問題は俺の発言が、そんなに妹を傷つけたのかって事だ。
ていうか俺、普通の兄貴の意見を言っただけなのに……。
まさかアイツ、本当にブラコンだったんじゃ……う、ウソだ、こんなのってアリかよ?
「…………」
「ま、まあ……なんだその……ドンマイ、澄川」
「少年よ、大志を抱け」
「長谷川……そのセリフは違うと思うぞ?」
終わった……本当に色々な意味で──俺の家族は終わってしまったかもしれない。
その後、俺と妹の関係は最悪……というか、口すら聞いてくれなくなったよ。仲のいい兄妹からリアルな兄と妹の関係に一気に転落。親父やお袋からもその事に色々突っ込まれ、最終的には俺が悪いという結論に至る。親父からは拳骨されるし、母親からはお小遣い半額にされるし……。
……あんまりすぎる。
ちくしょう……これも全部──あの2人が来たからだ。
この日以降、俺は友達と遊ぶ場合、大抵外が友達の家で遊ぶようになった。
要するにこの日以降──俺は二度と自分の家に友達を上げなかった。