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ボーダーライン  作者: ダーク半沢マスター
1章:日本は遠い
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visit the city‐3

■■■■   瀬音視点


 やっぱり風呂に入るのはいいと思う。あったかいし、気持ちいいし、体もきれいになるし。私はぎゅっと髪を絞ってから体にバスタオルを巻いてバスルームを出た。脱衣所が設置されているのでこの姿をいきなり人に晒すということはない。ふと、脇にある荷物置き場を見た。そこには丁寧に畳まれた服がおいてあった。ユウマさんいわくこれに着替えろということらしい。それとその上にドライヤーがおいてある。

気の利く人だなユウマさんは。私はドライヤーをコンセントに差し込んでスイッチを入れた。熱風が吹き出す。それを髪に当てながら左手で髪を梳る。鏡に映る私の顔は風呂に入ったせいでわずかに赤く上気していた。

 それにしても、今時ドライヤーだなんて…つくづくユウマさんは古いものが大好きみたいだ。ドライヤーなんてたまたま私の住んでた研究所に置いてあったから使い方を知っていただけであって、今はバスルームで自動乾燥機というものが設置されていてそれで一瞬で乾く。いちいちタオルで拭くのがめんどくさくないのかな。

 今のはさすがに失礼か。せっかくお風呂に入らせてもらったんだし。大体髪が乾いたところで私は下着類のおいてあるボックスを開けた。

 …ここで問題が。ブラがきつい。下のほうは大丈夫なんだけど上のほうが…。私の胸の大きさは普通の人よりは大きい。測ったことはないけれどなんとなくわかっている。うーん…最悪ブラなしで…

 その時、脱衣所のスライド式のドアが勢いよく開いた。いきなりの来訪者に私は驚くと同時にバスタオルで身を覆い隠す。来訪者は翡翠さんだった。その眠たそうな黒曜石のような瞳は一切の感情をたたえていない。


 「…大きめのやつ買ってきた」


 翡翠さんはぶっきらぼうに買ってきたブラを放り投げた。私がキャッチした瞬間にバスタオルがはだけた。

 

 「…!?」


 同性の相手に見られても大して恥ずかしくないのだが、さすがに私のやつを見て驚かれると恥ずかしい。私は慌てて翡翠さんに背を向けると急いでもらったブラをつけた。今度はちょうどいいサイズ。私はユウマさんの置いていった着替えの服をつけ始めた。…なんかすっごい翡翠さんの視線を感じるんだけど気のせいだよね?さりげなく振り返ったらドアのところから半分身を乗り出して見てた。覗き魔みたいだからやめてよ怖い…。

 プレッシャーを感じつつ、白ブラウスと水色のプリーツスカートを身につけ、その上にピンクのカーディガンを羽織る。他人の服だが、いざ鏡を見て確認すると恐ろしいほど似合っていた。髪を黒いゴムでまとめてポニーテールにして浴室を出た。…ユウマさんがいないことに気づいた。


 「あの、翡翠さん、ユウマさん知りませんか?」

 「…兄さんならバイク直しに行った」

 「そ、そうですか」

 「…なにか食べる?」

 「ふえ?」

 「…お腹が減ってそうな顔してる」

 「あ、はい。なんか頂きます」

 「……」


 まったく感情の篭っていない声で言われると怖い。本当にこの人は人間なのだろうか。翡翠さんに着いていってリビングに入ったとき、なにかの着信音が鳴った。すかさず翡翠さんがポケットからケータイを取り出す。ホログラム映像でメニューが映し出され、通話している人と顔を見ながら会話できる。もれて切る声からして老人のものだとわかる。一分にも満たない通話の後、翡翠さんは緊張した面持ちで私に向かった。


 「…いまから兄さんのところに行く。瀬音。あなたは銃が撃てる?」

 「?ま、まあ撃てますけど」

 「…付いてきて」


 翡翠さんはいったん家を出ると物置らしいコンテナを開け、中から一丁のライフルを取り出した。

 それを私に手渡ししながら言葉を続ける。


 「…兄さんがピンチ。あたしがホバークラフトを運転するからあなたが敵を狙撃して」

 「ふええ!?そ、そそそんなの無茶ですよ!」

 「…無茶かどうかはやってみてから言って!!」

 「ひ!す、すみません…」


 はじめて翡翠さんが感情らしき感情を見せた。だがそれは怒りで、その剣幕に小さく悲鳴をあげてしまった。

 それと・・・ユウマさんがピンチらしい。あの人に限ってそんなことはないだろうと思っていたが思い違いだった。銃を使うほどのピンチということは・・・テロでも起こったか【生き残り】が出現したかのどっちかだろう。私は翡翠さんの運転するホバークラフトに飛び乗った。すでに脱臼はなおり、骨折の痛みもそれほどではなくなってきた。私はライフルを担いで意識を集中させた。



■■■■  someone


  繰り出された右のストレートパンチは寸分違わずに顔面を狙っていた。だがその前に、ユウマは左腕をを曲げて肘の部分でその攻撃を受けた。そのおかげでたいしたダメージを彼は受けていない。曲げた左腕を戻すと同時に【終焉】の右腕をはたき、懐に潜り込んだ。すかさずミドルキックが飛んでくるがそれを左足でけることによって防ぐ。黄色い火花が散った。次に近距離であることを生かして、正拳突きを土手っ腹に打ち込む。この威力に【終焉】は体を折り曲げて何歩か後ろによろけた。俺ユウマは体勢を整えようとする【終焉】の顔面を蹴り上げた。強制的に体勢は起き上がる。さらに続けて胸部装甲に渾身の前蹴りを食らわせた。勢いに負けて大きく吹っ飛ぶ【終焉】。

 追撃をかけようとしたユウマは走り出すと同時に首に巻きついた物体によって地面に倒された。それは触手であった。きつく首に巻きついており、呼吸が困難だ。そのまま空中に引き上げられ、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。深々とアスファルトに埋まったユウマが装着している【エクシード】がその威力を物語っている。

 なんとか立ち上がったユウマは鞭のように飛来する触手の攻撃を受けた。その一撃に全く容赦はなく、喰らっている装甲から火花が散っている。最後の一撃が顔面をとらえ、トリプルアクセルでもしたかのようにユウマは回転して地面に倒れた。


 「痛ってえな…だがもう次はない!」


 ユウマは倒れこむと同時に触手をつかんでいた。膝立ちの姿勢で触手をつかんだまま勢いよく反対側にもっている拳を叩きつける。急激にかかった触手の負担にその持ち主が宙を舞い、アスファルトに落下した。蛸みたいな外見をした【生き残り】だ。強いて言えば蛸を人間がかぶり、その全身にフジツボが付着しているといった方がわかりやすい。

 ユウマが蛸のような【生き残り】に向かって走った瞬間、その背中に光弾の直撃を受けた。その威力に耐えきれずにあおむけに倒れこむユウマ。

 光弾の射手は黒い【エクシード】の【終焉】。その右手に持つぎりぎり拳銃といえるサイズの銃は不気味にバチバチと帯電している。


 「電磁砲(レールガン)か…ちくしょ――――ガハッ」


 立ち上がろうとしたユウマを蛸の【生き残り】触手の攻撃が襲った。再び地面に倒れ伏すばかりかさらに首に巻きつき、引きずられて立ち上がらされる。直後ユウマをすさまじい電磁砲の砲撃が襲った。一発一発が強力な炸薬弾だ。いかに【エクシード】であろうと無傷ではいられない。一世代前の【エクシード】ではなおさらだ。銀色の装甲がたちまちひび割れていく。

 その時、一発の銃声が戦況を変えた。音より早く着弾し、【終焉】のフェイスアーマーが火花を散らして吹っ飛んだ。間髪入れずに二発連射で打ち込まれ電磁砲が手元から離れ、川に落下した。さらに、触手にも何者かの狙撃が命中し、触手にダメージがあったようで、ようやくユウマは解放された。


 蛸の【生き残り】はまだ地面に這いつくばっているユウマに向かってもう一本の触手を振り上げた。だがそれはマシンガンによって防がれた。【生き残り】は周囲を見渡すと自分たちが囲まれていることに気づいた。いずれも歩兵だけだが、そのすべてがロケットランチャーを構えていた。さすがに何十発もの爆撃を食らえば多少なりともダメージは食らう。どう動くか。それを思考する時間が命取りになった。ユウマが触手の威力が発揮できない位置まで接近していたのだ。


 「ディザストアンロック」

 ≪disast unlook≫


 低い電子音声とともにユウマの右拳の装甲が展開し、ドリル状となって猛回転を始めた。そして容赦なく【生き残り】の頑強な皮膚をぶち抜き、背中へと拳が突き抜ける!

 ドリルパンチは正確無比に、【生き残り】の心臓を玉砕していた。

 

 「これで…一体目」


 ユウマは血に染まった右腕を引き抜き、【終焉】の姿を探した。すでに立ち上がっており、そばに例の大佐が立っていた。この包囲された状況の中で大佐の表情は笑っていた。次の瞬間、その姿は幻であったかのようにかき消えた。ユウマは自分の目を疑い、瞼をこすろうとしたが腕がフェイスアーマーに当たっただけだった。

 【エクシード】の装着を解き、ユウマは力なく倒れかかった。あれだけの激戦である。兵士たちが来るのがもう少しでも遅かったらユウマは死んでいた。このまま意識を投げ出さんとするユウマを抱きとめたのは意外にも瀬音であった。なにやら柔らかいものが顔を圧迫するが当にユウマは気絶していた。


 

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