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ボーダーライン  作者: ダーク半沢マスター
1章:日本は遠い
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visit the city-2

 次からは自重する…(意味深)

 ユウマは家を出るとすぐさまバイクを起動させた。かぎを差込み、ロックを解除してエンジンを起こすと同時にシートの上に跨る。心地よいエンジンの振動が伝わってくる。アクセルを開けると急な加速と共にバイクが走り始めた。

 今更の話になるが、翡翠と瀬音を残してきてしまったのはいささか失敗だったのではないか、とユウマは考えた。翡翠は見てのとおり、少々アレな性格だ。しばらく自分のいない間に面倒ごとでも起きていないといいのだが。そうなる可能性を作ったのは自分である。皮肉な考えが浮かんできたことにユウマは苦笑した。

 ここ、重慶はユウマにとっては慣れ親しんだ街である。どこに何があるか等朝飯前だ。住宅街を抜けたユウマはバイクをビル街の中央から右に進路を変えた。目指す先は港。そこに変わり者のバイク屋が経営する店があるからだ。ユウマはさらにバイクを加速させた。


 『ちょっと、ユウマ様?まさかこれから向かうのはあの変態爺のところですか!?」

 「失礼だな。あれでもちゃんとバイクに掛ける愛情は凄いんだぞ」

 『ユウマ様のはオッケーですが、あの爺は勘弁ですぅ!』

 「バイク扱いされたのは気にしないんだ・・・」


 あほみたいな会話が広がる中、”メティス”の猛抗議を適当にあしらっていたユウマの視界に何かが映りこんだ。豆粒ほどにしか見えないそれは空中に浮いている。なぜか異様な違和感を覚えたユウマは運転よりそっちの方に目が釣られた。


 『ユウマ様!危ないっ!』


 急なカーブと共にドリフト状態になったバイクはぎりぎりで跳ね飛ばしそうになっていた男の目の前で停車した。”メティス”が瞬間的に自動操縦に切り替えたからだ。男は二、三言ユウマに罵声を浴びせるといきり立った肩のまま歩いていった。


 『ユウマ様!気をつけてくださいよぉ』

 「悪いな。ちょっと気になる物があったんでな。そっちの方に気が向いちまった」

 『はて?その気になる物とは?』

 「見間違いである事を期待したいが…飛行型の【生き残り】が見えたんだ」


 そう言った瞬間に、バイクのアクセルの横につけられたモニターが稼動する。これは”メティス”の音波式探知レーダーだ。一般には聞き取ることの出来ない音波を発信して音波の反射によって探知する。しばらくしてインカムには微妙な声が返ってきた。結果は芳しくなかったようだ。


 『気のせいじゃないですかあ?【生き残り】らしき反射反応は出ていませんよ』

 「そうか…」


 ユウマはどこか腑に落ちないような表情を浮かべながら再びバイクを走らせた。


 やがてバイクは港の前に止まった。お目当ての店は一風変わったところに立地していた。その店は海の上に浮いているのである。もちろん船だが、その大きさはクルーズ船に匹敵するほどであるユウマは『ワイバーン』のエンジンを切り、その百キロ以上の重量を船内に押し込んだ。


 「ふぉっふぉっふぉっ」

 「うおおおわっ!?…なんだ、陳のおっちゃんか。驚かすなよ」

 『にぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!!!?』


 うるさい絶叫がきこえるインカムを毟り取るようにしてはずす。それをライダージャケットの胸ポケットにぶち込んでからユウマは妖怪みたいな容姿の小柄の爺に向き直った。

 顔色は青白く、髪は所々禿げたちぢれた白髪にやたらと長い顎鬚。それでいて眼窩は深く落ち窪んでおり、その奥の瞳が爛々と輝いている。まさしく妖怪と形容するほかないこの人物こそ”メティス”が恐れる変態爺、陳 伍飛(チン・ウーフェイ )である。古ぼけた作業服を陳は着こなし、片手にスパナを持ってユウマを出迎えた。


 「修理が必要になったのか?」

 「ああ。ちょっとE-プラグが故障したみたいでさ。いくらかかる?」

 「ふむ・・・千元もらおうかの」

 「あとから料金増しとか、やめろよ?」

 「わかっとるわい。それより、”メティス”を黙らせておこうか?」

 「ああ。うるさくて堪ったモンじゃない」

 「そうかそうか。じゃ、早速新作を試すとするかね…」


 インカムでもはっきり聞こえるぐらい”メティス”が絶叫した。


■■■■    ユウマ視点

 

 暇なので俺は陳もおっさんの店から出て行った。先ほどまでトワイライトだった夜空はダークブルーへと色を変えていた。遠目に映るビル街が芸術的に美しい。久しぶりに帰ってきてみるとこんなにきれいな場所だなんて思ってもいなかった。

 それより、”メティス”なんだがインカム越しに変な声が聞こえてくる。気になった俺は試しにインカムを装着してみた。


 『ふあんっ!ユ、ユウマしゃま…は、激し、あっ…わたくし・・・も、もうらめれしゅぅぅ・・・』

 「ぬわんじゃこりゃああああああああああ!!!!?」


 全力でインカムをぶん投げた。なんだったんだ今のは…あの”メティス”がものすごく乱れてた声を・・・ってあの糞爺!”メティス”に何しやがった!思わず爺の店に特攻しようかと思った瞬間、後ろから声がかかった。


 「門矢、ユウマ君」


 冷徹な刃物のような低い声が聞こえた。俺は瞬時に背後を振り返る。そこには妹の翡翠と同じ、緑色の軍服を着こなした男が立っていた。とろけるような甘いマスクの優男系イケメン。くそっイケメン死ね。

 そのイケメン男の肩章をみると大佐であった。その後ろに、部下と思しき人影が二人。だが服装は今時信じられないような格好だった。一人はビクトリアンメイドのように飾りの少ないメイド服が似合うプラチナブロンドの長い髪が特徴の女。もう一人は黒のタキシードに身を包んだ…女?貧乳だからわからなかった。くそマジで死ねよイケメン。


 「ハーレム自慢にきたのか大佐さんよ?」

 「はははっ面白いジョークだね」

 「顔が笑ってないぞ」

 「君に話がある」


 俺の突っ込みを無視してイケメン男は話を続けた。


 「単刀直入に言う。君の持っている新型の【エクシード】を渡してほしいのだが」

 「お前…【生き残り】か」

 「違うな。種族的にはそうだがあんな無能な連中とは目的が違う」

 「…どういうことだ?」

 「もう一度言う。君の持っている新型の【エクシード】を渡してほしい」

 

 ちっ、目的については語る気はないか。ばっさり切られてしまった。


 「生憎だが、俺は新型の【エクシード】を持ち合わせていないんでね」

 「…嘘をつくな」

 「嘘じゃなかったらどうする?」

 「行け」


 どんだけ人の話を聞かないんだよ。耳腐ってんのかよ。イケメン男は連れている女の片割れであるタキシードに指示を出すと、残りのメイドと共に一歩下がった。

 タキシード女は殺意全開で俺に向かって歩いてきた。タイミングよく月が雲から顔をのぞかせ、女の素顔が明らかになった。なかなかの美人だった。


 「おいおい、そんな怖い顔をすんなよ。美人が台無しだぞ。…ま、やる気だったらこっちも殺り返すだけなんだが。――――インストレイション」

 『installation』


 『コアブローチ』を『アーマードサモナー』の空洞部分に差し込んだ瞬間、全身に半透明の装甲が形成され、灰色の文字列が包み込む。そして一際強い発光と共に【エクシード】の装着が完了した。こないだ使った新型の【エクシード】とは異なり、一世代前のやつだ。鈍い金属色の輝きを放つ装甲色が特徴だ。そして、使い慣れている。

 対するタキシード女は驚くことに『アーマードサモナー』を身に付けていた。そして『コアブローチ』を空洞部分にはめ込んだ。


 「インストレイション」

 『installation』


 エクシードの装着が完了したタキシード女はフェイスアーマーの放つ赦光をこちらに向けた。全身の装甲が真っ黒に塗装されている。


 「我々が手に入れたものだよ。名前は【終焉(ディマイズ)】。いい名前だろう?」


 黒い【エクシード】―――【終焉】は俺に向かって鋭い右ストレートを突きこんだ。

 

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