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ボーダーライン  作者: ダーク半沢マスター
1章:日本は遠い
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visit the city

街編です。重慶は個人的に中国の中では一番好きな都市です。さて、ユウマたちはこれからどうなるのやら・・・

 「重慶かここは」


 ナビゲートシステムに映る地図をみてユウマはそう言った。重慶は中国の中では珍しく超巨大有機生命体による攻撃を受けなかった都市として有名である。昔から発展した大都市であり、北京、上海、天津と同じく県であると同時に省と同じ扱いをする。地理的には四川盆地東南、長江と嘉陵江の合流点に位置。周囲を山に囲まれた盆地のため、交通の便は悪く、水運が発達した。

 また、湿度が高く、風も少なかったため、冬は霧に包まれ、「霧の都」とも呼ばれる。今は三月で霧に包まれるという事態は発生しないが。遠目にも見えてくるのはライトアップされた摩天楼の群れ。そして空気に漂うのは水のにおい。かつて訪れたことのある都市を思い出し、ユウマは回想にふけっていた。

 十分後には重慶と外をつなぐゲートに到着した。【生き残り】の襲来を警戒してか、ゲートは要塞といってもおかしくはない大きさを持ち、所々には銃を持っている兵士が闊歩している。ちなみに銃の種類はアサルトライフルでグレネードランチャーが装着できるタイプだ。ユウマはバイクのスピードを落としてセキュリティチェックに入った。

 ゲートは全長百メートルのトンネル状であり、移動しながら荷物のチェックをする。レーザーやレントゲンやらカオスな光に包まれ出口近くで停車する。軍服を着た人影が目に入ったからだ。緑色の高級そうな軍服を着こなしているその人物は女性であった。小柄で黒髪ショートボブに、黒曜石のような瞳。ただしその目は眠たそうに半開きだったという点を除けば瀬音にも匹敵するかもしれない美少女。ユウマはその顔を見た瞬間に懐かしそうに声を掛けた。


 「  翡翠(フェイツェイ)!」


 発音のいい中国語でユウマは彼女の名前を呼んだ。名前をよばれた翡翠は一瞬驚きの表情と嬉しげな感情を目に浮かべたがすぐに無愛想な表情に戻った。


 「兄さん…久しぶり」

 「相変わらず無口だな。しばらく見てないが、元気にしてたか?」

 「…うん」

 「軍人になったのか翡翠。毎日大丈夫なのか?」

 「…いまは少佐。デスクワークが多い。今は部下を手伝ってる」

 「そうか。無茶はするなよ。じゃあな翡翠!」

 「…兄さんも」


 短い会話だったがそれだけで両者の親密度の高さがわかる。セキュリティ上問題ないと診断されたユウマ達は身分を証明できるものを掲示した。ユウマは【エクシード】ライセンスを、瀬音は拳銃携帯許可証とパスポートを見せ、翡翠は二人の情報を記録すると、通過許可を出した。バイクを走らせたユウマの背に翡翠の声が降った。


 「泊まる場所はあたしの家でいい」

 「そいつはどうも。じゃ、いくか」


 完全に整備された道路をユウマはバイクを走らせた。

 今時バイクを使う人間は少ない。ほとんどホバークラフトやリニアモーターカーを使っている。ホバークラフトは反重力を利用し、空に浮いているものが主流だ。昔は空気を噴射するものがあったがいたずらに空気を汚すだけ、といわれて消えてしまった。ホバークラフト用の道路は空中にレーザーで描かれている。アスファルトで整備された道路は徒歩を好む人達のために作られている。

 瀬音は何となく上を向いた。トワイライトの空を背景に、高層ビルの派手なライトアップ、クルーズ船のイルミネーション。水面に反射し、きらびやかに輝く。光が織りなす魔法は瀬音にとって新鮮でとても美しい光景だった。瀬音はすっかり都会の夜景に魅了されてしまったようだ。


 「綺麗…」


 思わず感想を言ってしまう位に。それを聞いてユウマが振り返った。どうやらこの瀬音志奈という美少女は見た目よりも精神年齢が幼いようだ。一連の行動からユウマが読み取ったことだ。田舎者丸出しで、かつ子供のようにキョロキョロあたりに視線を振りまいている様子はその容貌と相まってさらにかわいらしく見える。思わず通行人が振り返ってしまうほどに。ユウマはそんな瀬音を見てふっ、と小さく笑った。


 やがて光の幻想空間は終わりを告げ、住宅街にさしかかった。瀬音は名残惜しそうに遠くなってしまった高層ビルを見つめていた。

 しばらくしてから瀬音は思い出したようにユウマに質問した。


 「ユウマさん、さっきの・・・ええと翡翠さんですか。ユウマさんとどんな関係なんですか?」

 「ん?ああ。翡翠は俺の妹」

 「・・・全然似てないんですけど」

 「血は繋がっていないからな。でも、大事にはしてるぜ」

 「ふーん…」


 それっきり瀬音は黙り込んだ。ユウマは耳を澄ましていたが瀬音がなにも喋ろうとしないことを悟ると運転に集中した。程無くしてバイクは一つの一軒家の前に停車した。こじんまりとした庭には荒れた芝生が広がっており、ベランダには何の洗濯物もかかっていない。まるで生活感がないがここにはちゃんと翡翠という人物が住んでいるのだ。もっともいまはゲートの所にいるだろうが。


 ユウマはバイクを駐車スペースに留め、今はもう過去の遺物と化した鍵のロックをかける。取り出した鍵は金属製の小さいもの。ストラップには何かのキャラクターがつけられていた。続けてシート下の収納を開けて中の荷物をすべて取り出した。その中に数々のジュラルミンケースがある。一番傷が少ない奴を持って他のものはシート下収納に戻す。取り出したジュラルミンケースを開けると中には【エクシード】の装着に使われるネックレス型のアイテムと水晶のような形をしたアイテム。それぞれ『アーマードサモナー』と『コアブローチ』という名称だ。これは先日ユウマが使用した新型ではなく、その一世代前のものである。

 『アーマードサモナー』を首にかけ、『コアブローチ』をポケットにねじ込み、その他の荷物を持って玄関に向かった。


 「持ちましょうかユウマさん?」

 「いや、大丈夫だ。怪我人には物は持たせられない」

 「めっちゃ重そうですけど」

 「100キロあるぜ」

 「重っ!」

 「筋トレ用のバーベルよりかは軽いから問題ない」

 「バーベルどんだけ重いんですか!?」

 「じつはこれ20キロちょっと」

 「嘘かよっ!」

 

 家の前でもはや漫才と化した会話を繰り広げる二人。ただの近所迷惑である。

 適当に話を切り上げるとユウマはドアの前にあるセンサーに人差し指をあてた。指紋登録というセキュリティシステムなので防犯対策は抜群だ。ピーっという電子音とともにドアのロックが解除された。


 「お、おじゃましまーす…」

 「恐縮しなくていいぞ。俺の別荘みたいなもんだから」

 「その発言はどうかと…」


 庭の様子に反して中は小奇麗に片付けられていた。玄関脇に二階に続く階段があり、ユウマはそれを上って二階に上がっていく。その後に瀬音がついていった。階段を上がってすぐの部屋に入り、ようやく荷物を降ろす。


 「先に風呂に入ってな。部屋を出てすぐ左だ」

 「いいんですか…?」

 「さっきも言ったがここは俺の別荘みたいなもんだ。いいんだよ」

 「ありがとうございます」

 

 さっ、と身を翻すと瀬音はバスルームに駆けていった。


 「着替えは妹のを使ってくれ。たぶんサイズはぴったりだと思う」


 返事が返ってきたのを確認してユウマは今後に必要な分だけの荷物の整理をする。そんなに長くはここにいられないのだ。今日中にでもバイクの整備を終わらせていかないといけない。使い終わったものは出来るだけ捨て、今一度着替えを洗濯機にぶち込む。洗濯機はバスルーム横の脱衣所に設置されており、シャワーの音が聞こえてくる浴場とはすりガラス張りのドア一枚を隔てているのみ。

 着替えをぶち込んでいる最中、なんとなくそのドアを覗き込んだユウマは驚きの光景を目撃した。


 「あいつ・・・意外に胸あるな…」


 シルエットでもわかる大きさである。瀬音はそこそこ背も高いし、予想は出来たのだろうがユウマはほとんどの時間をバイクの運転に費やし、あまり瀬音と顔を合わす時間はなかった。それに、瀬音は皮ジャンの前を開けていたし、ゆったりとした白衣も身に着けていた。それらも重なって完全に胸のサイズはカモフラージュされていたのだ。


 「目測で…Dぐらいはありそうだな」


 ちょっとした思い付きで、ユウマは洗濯機に服を入れ終わってから翡翠の部屋に向かった。レディの部屋を漁るのは不躾だがそんなのはお構いもなしにユウマはクローゼットから白のブラウスと白の強いピンクのカーディガンを選び出す。もちろんブラウスは襟元が大きく開いたやつだ。それと水色のプリーツスカートを選んでわかるようなところに畳んでおいておいた。それを着たときの瀬音は一体どうなるのだろうか。

 不埒な想像がユウマの頭の中によぎった時、誰かのてがユウマの肩をたたいた。それはさながら死刑宣告のように二回。慣れ親しんだ感触にユウマは硬直した。


 「…兄さん、何考えてたの」

 「あ・・・いやなんでも」


 有無を言わさない口調で喋りかけたのは翡翠だった。瞳は光を反射しておらず、それを見ればたいていの人間は逃げてしまう程の威圧感を放っている。


 「…そう。じゃあ説明してほしいのだけれど…あの金髪の女は誰?」

 「え?こ、今回のミッションでの護衛対象だが、何か?」

 「…そう・・・(ちっ護衛対象じゃ殺せないな。ただの女だったら血祭りに上げてやるのに)」


 最後のぼそっと呟いた言葉はユウマには聞こえなかった。翡翠はユウマの肩においた右手を降ろした。


 「おかえり、翡翠。ていうか帰ってくるの早くねえか?」

 「…ちょっと、上司に交渉したの。…ひょっとしてあたしが帰ってきて迷惑…?…そ、そうだよねあたし、空気読めないからやっぱりいないほうが―――」

 「いや、そんなことはねえよ!家族なんだからさ」

 「…ありがと、兄さん」

 

 さも嬉しげに言う翡翠。その目にもようやく光が戻った。ここら辺は最早安定した二人のやり取りである。さすが兄妹というべきか。

 その時、思いついたようにユウマがいった。


 「そうだ。俺さ、この後バイク治しにいくから瀬音の世話を任せてもいいか?」

 「…瀬音ってあの女?」

 「ああ。俺は明日にでもここを出なきゃいけないから。時間短縮だよ。引き受けてくれるか?」

 「…わかった」


 やや嫌なニュアンスを含んだ了承の返事だったが、上手くやってくれるだろうと信じてユウマは家を出て行った。



 


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