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ボーダーライン  作者: ダーク半沢マスター
1章:日本は遠い
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jorney day2

 『起きてくださーいユウマ様―!!』

 「やかましいわポンコツ!!」


 ユウマは条件反射で叫びながら立ち上がった。インカムを装着したまま寝てしまったので”メティス”の声が至近距離から聞こえるのだ。インカムからけらけらと楽しげな声がする。それに呼応するかのように『ワイバーン』のライトも明滅を繰り返す。終いには瀬音まで笑っている始末だ。


 「そんなにドッキリが楽しいのか?」

 「『楽しいです』」


 即答されたユウマはやれやれと首を振り、今は何時だと瀬音に問い掛けた。瀬音の代わりに”メティス”が3115年3月15日8時32分と答える。当初の出発予定が10時だったのでまあまあ早起きである。片付けの最中、ユウマは瀬音の三角巾で吊られた左腕を見た。・・・昨日の会話を思い出す。本音を言えばもっと早く到着できれば瀬音が怪我をせずにいられたかもしれない。だが後悔しても今はどうしようもない。それから視線は顔のほうに移った。今更ながらだが瀬音志奈という少女はかなりの美形に入る。大人しげな若葉色の瞳にバランスの取れた日本人よりの精悍な顔立ち。昨日まではストレートの長い腰ぐらいまでの金髪だったが今日は黒いゴムでポニーテールにしていた。その上の黒色のベレー帽がよく似合っている。赤色のフライトジャケットに細い足を強調するようなジーンズ。だがジーンズの方はあまり似合っていない。こういうタイプはスカートのほうが似合う。


 「あの、ユウマさん。私の顔に何か付いてるんですか」

 「瀬音は何も化粧(付けなくても)かわいいと思ってな」

 「…ふえ!?今なんて…?」


 ふざけてそう言った瞬間に瀬音の顔が一気に真っ赤になり、ユウマと視線を逸らして俯いた。おまけにぶるぶる震えている。ばっさりと切られるかと思ったが予想外な反応にユウマも慌てた。いまどきここまで天然で純情な女はいないのだ。誰彼も恐怖で心がすさんでいる時代なのだ。正直こんな女は扱ったことのないユウマは愛想笑いを浮かべてジョークだと弁解した。・・・実はほんの少し本音が混じってたりするのは内緒に。


 「わ、わかったか?」

 「・・・ジョ、ジョークだって言うのはさ、ささ最初からわかっていましたよ。ふ、ふん」


 そういう顔はいまだに赤い。あんなあからさまな反応をしていまさら強がってどうするんだ。とにかく調子に乗ったユウマは何回かナンパの時にでも使うようなキザな台詞を言った後とうとう瀬音を泣かしてしまったというのは余談である。


 

 紆余曲折を経て予定通りに事は進んだ。ちょっと違うのは瀬音がふてくされたような顔で『ワイバーン』の後部座席に座っていることだ。腕は昨日のようにユウマの腰に回されていない。両サイドにある手すりをつかみ、そっぽを向いている。


 「なあ、瀬お―――」

 「ふんだ」


 といった具合に瀬音はご機嫌斜めだった。困り果てたユウマはとうとう”メティス”に助けを乞うはめとなった。


 「”メティス”プリーズヘルプミー・・・」

 『じゃあ、日本に着いたら一つ言う事を聞いてくださいね?』

 「わかった。後は頼む」

 『あ、その前にインカムを志奈ちゃんに』

 「?・・・ま、いっか。瀬音、”メティス”が話したいってさ」


 そういう言って瀬音にインカムを差し出す。やや訝しげに瀬音はインカムを受け取った。



 私がこの門矢ユウマという人に対して抱いた第一印象は「不思議」だった。私は生まれてこの方、親の顔を知らない。所長―――瀬音高次に道端で捨てられていたのを拾われたらしい。そこから私の旧四川省【エクシード】研究所での生活が始まったのだ。私に接してくれる人たちは温かく、優しかった。軍隊の兵隊さんたちはいかつくてちょっと怖かったけど気さくな人たちが多く、彼らと話しているととても面白い。それと幼いころの記憶ははっきりとしていないが、今でも聞かされる話がある。私がパソコンのキーボードをたたき始めたのは三歳からだったという話だ。そして気が付けば私は15歳になり、新型のディザニウムを用いた【エクシード】を開発し、その装甲に使われるδ――チタンモリブデン鋼も作り出していた。

 これが完成した時、研究所の皆は涙を流して喜んだ。ただ、私にはその涙の意味がわからなかった。私は与えられた部屋に引きこもって、気分の赴くまま適当にキーボードをいじっていたら出来ただけの話。周囲からは天才だとか、救世主だとちやほやされたがそれが本当に凄い事なのかよくわからなかった。だから精々皆に混じって騒いだりすることでこの空虚感を紛らわした。その後で所長のところに行った。そして一つ質問をした。私の作ったものは凄いのですか、と。所長は一切表情を変えずにこう言い放った。「君は天才だからこれぐらいは当たり前だ」。するとあたりまえのことを研究所の皆は涙を流してまで喜んでいることになる。

 私はずっと引きこもってたから世間一般におけるまともな感情を持っていない。少なくともその自覚は私にはある。例えば昨日、初対面の人にいきなり怒った挙句泣き出したりと、例をあげていけばきりがない。そんな中で門矢ユウマという人物は新鮮だった。泣き出した私をなだめたり、照れくさいけど私にかわいいとか、言ってくれたり。たった二日のことだけど私には門矢ユウマは本当に「不思議」な存在だった。能面な所長、研究所の皆、軍の兵隊さん達には持ち合わせていない何かが彼にはあったのだ。

 私は今はっきりと言える事がある。

 周りに流されつづけた私がはっきりと自分の意思で言えること。

 私はキーボードよりも何よりもこの門矢ユウマという男に興味を持っていると。


 差し出されたインカムを受け取り、耳につけると”メティス”という名のAIの声が聞こえた。


 『どうもどうも志奈ちゃん。ごきげんよろしか?』

 「いえ、ぜんぜん」

 『むむ!これはうそをついていますね!わたくしの嘘レーダーが鳴ってますよお。びびびびびいー!」

 「ふふっ”メティス”さんって面白いですね」

 『おお、神よ。とうとうわたくしがさん付けで呼ばれる日が来るとは・・・アーメンラーメン味噌ラーメン!』

 「あははっ」


 とてもこれがAIだなんて信じられない。まるで人みたいだ。本当は通信しているだけで実際に人が喋っているんじゃないのだろうか。気になったから質問してみた。


 「実は”メティス”さんって中身が人間だったりします?」

 『うーん・・・延髄と小脳が機械製であと大脳が部分的に機械?かなあ。あとは生身ですよ♪』

 「え・・・?」


 衝撃的な内容だった。一瞬言っている意味を理解できなかった。体の損傷部分を機械で補っている。要約すればそういうことだ。だが一体なぜそうなったのか。私が聞く前に”メティス”さんが語りだした。


 『えーとですねえ・・・今から五年前、私はロシアルス共和国の王家であるスニェーク家の三女でありました。本名フランチェスカ・スニェ―クです。えへ、いい名前でしょ?その時わたくしは16歳。戦争が休戦になって、わたくしは安全で、幸せな生活を送っていました。ですが、その時悲惨な悲劇が起こりました。当時女王であられたお母様が倒れてしまったのです!看病空しく一日後にお亡くなりになられました。でも、悲劇はこれからですよ。女王制のロシアルス共和国の後継ぎ決めが酷かったんです。長女、次女、三女の中で一番成績がよく、ルックスもよく、国民の支持が高かったのはわたくしでした。もちろん他にも選考基準がありますよ。まあ話すと長いんでえ、カットしますけど。その結果、わたくしはお姉さま達の恨みを買って暗殺されました。頭をライフルでずどーん!うわーやられたーみたいな感じですねえ。雪の降っていた日でした。そこに現れたのがユウマ様です!あ、これ聞いた話なんですけどね。わたくしを連れて有名な科学者の所に連れて行ってくれたんですって。そこでわたくしは脳に機械をはめて、傷を塞がれて見事復活です!不死身の美少女フランチェスカ!みたいなノリですね。その時お姉さま達が雇った殺し屋に殺されたことを知って一時期廃人状態になりました。だってそれまで無垢なお姫様でしたのよ。そんな私を元気付けてくれたのがユウマ様です。これ、宝物の言葉ですから志奈ちゃんには聞かせませんよ!それでえ、わたくしユウマ様に一目惚れしちゃいました。えへへー。それからしばらくしてわたくしがまだ生きているということを聞きつけたお姉さま達の刺客が襲い掛かってきました。ユウマ様は刺客をボッコボコにして私と逃亡。わたくしは王家の身分を捨ててユウマ様から”メティス”の名を頂き、それで今に至ります。ちなみに本体は日本のユウマ様の家に置いてあって、脳のデータのコピーがこのバイクにって感じですね。』

 「・・・そんな壮絶な人生を歩んできたんですか、”メティス”さんは」

 『ええ。それが何かあ?』

 「よく、自分の人生を明るい声で語れますね・・・」

 『だってぇ、今はものすごく楽しいですし。今と比べたら昔の事なんか屁でもないですよー。ていうかユウマ様凄いですよね。わたくしを復活させるような科学者と知り合いの上に【エクシード】になれるんですから』

 「私も、そう思います」


 それは紛れもない私の本心。【エクシード】を装着して戦う門矢ユウマは凄い。というよりかっこいい。でも私にむかってかわいいとか言ってたときはなんか嫌だったけど。私は目の前にある門矢ユウマの背中を見つめた。なんだか大きくも小さくも見える。


 『一つ言っていいかな志奈ちゃん』

 「なんですか?」

 『ユウマ様はわたくしのものですから』

 「?」

 『ユウマ様のこと好きなんでしょー?』

 「ふええ!?そ、そそそそんなことはぜえーったいないですから!!誰があんな人!」

 「うるさいぞ瀬音。トンネルで喚くな」

 「す、すみません」

 『うらやましいですユウマ様に構ってもらえるなんて。しかもデレデレしてる…あージェラシー!!』

 「し、してないです・・・」


 恥ずかしい・・・。よくよく考えてみたら”メティス” の声は聞こえないにしろ、私の返事はすべて聞こえているのだ。なんとなく話の内容を知られたのではないか。もし、そうだったら・・・。あまりの恥ずかしさに涙が滲み出てきた。


 『まあまあ。でも、ちょっと素直になってみたらどうですか志奈ちゃん』

 「・・・もうやめてください…」


 その時タイミングよく門矢ユウマが私に話し掛けてきた。


 「志奈。ちょっとインカムを返してくれ。『ワイバーン』のエンジンにつながるE-プラグがおかしいんだ。いいか?」

 「あ、はい。どうぞ」

 「悪いな。楽しい話の途中で」

 

 やっぱり話を聞かれていた。私はやや八つ当たり気味に前の背中をポカリと殴りつけた。特に痛がってなさそうだった。



 『はいはーい。どうされましたあ?』

 「E-プラグが上手く機能していない。これはそれなりの設備がないと直せないんだが・・・近くに街はあるか検索してくれないか”メティス”?」

 『はいな、おまかせください・・・・・ありました。ここから南西に12キロ。予定コースとずれちゃいますけど』

 「それでいい。直しておかないとまずいからな」

 『了解です。本部に連絡しておきますね』

 「すまない。助かる」

 『いいえいいえ。お気になさらずに』


 ユウマはバイクのハンドルを左に切った。しばらくして道が少しまともなものになってきた。少しづつ道路が舗装されてきたのだ。ここでユウマがいい事を思いついた。


 「なあ瀬音。いいもん見せてやるよ」

 「いいもの?なんですか?」

 「しっかり俺につかまってろよ・・・そら行くぜェ!」

 「えっちょっわわわっわわっわあああああ!!!??」


 あわてて瀬音の腕がユウマに回される。ユウマはバイクの前輪を浮かし、ウィリー走行を開始した。

 バイクは、アクセルを開けると、荷重が後方にかかり、前輪の接地圧が減少する。逆にブレーキをかけると、前方に荷重移動し、前のめりになる。これら前後の荷重移動を極端にしてやれば、後輪や前輪での1輪走行になるのだ。

 ユウマは巧みにクラッチやアクセル、ブレーキなどを操り、前輪を上げたままの走行を一分間続けた。前輪を地面に下ろすと同時に瀬音の歓声が聞こえた。


 「すごい!とってもすごいですユウマさん!!」

 「ふっ・・・伊達にバイク乗ってるわけじゃないんだぜ」

 「他に何かできないんですか?」

 「んー・・・できるっちゃ、出来るんだけど坂道がないとな」

 「えー…」

 「街に着いたらなんか奢ってやるから」

 「むー、わかりました」


 ユウマは街へ向かうスピードを上げた。

”メティス”解説回ですねもはや。ユウマ君坂道があればといっていましたがあれでやるつもりなのはバックフリップです。二人乗りでやるとか危なすぎますね。次回は街編です

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