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ボーダーライン  作者: ダーク半沢マスター
1章:日本は遠い
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first battle

昔は街道だったのだろうか、あちこちひび割れた石畳は時代を感じさせる趣があった。古ぼけた住宅がたち並び、何かが死に絶えたのかそこに骨だけとなった亡骸が転がっている。わびしい静寂の中それを突き破るかのように今は珍しいガソリンエンジンの爆音が聞こえてきた。野戦用に迷彩柄に塗装された軍用のジープだ。これもまた古めかしい。それに乗って必死にハンドルを操作している長い黒髪の少女はガタガタ揺れるジープに悪態を吐きながらもどこか使命感に燃えた目つきをしていた。なぜか着ている物は白衣。やや乱れたその裾からは細い足を強調するようなジーンズが見える。少女は助手席に置いてあるトランクと後ろを交互に見ると、さらにアクセルを踏んだ。瞬間直前までいた位置が爆発した。吹っ飛ばされた石がジープのボンネットに跳ね返り、地面に転がり落ちる。次に、少女はブレーキを踏みつつ大きくハンドルを回した。滑らかなドリフトで、次の爆発をかわす。ジープの向きが左向きになったためそのままさらに加速する。視界前方にぼんやりと橋が見えた。少女はこれもまた旧式のカーナビを見てこの先に駐屯兵団がいることを確認すると、クラッチを操作し、トップギアに切り替えて最大まで加速する。向こう側まで続いていると思った橋は途中で崩れていた。それでも少女はさらにスピードを上げつづける。そして、飛んだ。


 だがこの判断が命取りになった。目測以上に距離があり、さらに平面からのジャンプは高く飛べない。とどめに重力も加わった結果、ジープは対岸の崖にボンネットを衝突させ、少女とトランクを吐き出すという大惨事を引き起こした。とっさに受身をとった少女は激しく地面にたたきつけられ、二、三回ほどバウンドしてやっととまる。まだ草むらだったということも幸いして少女はまだ生きていた。朦朧とする意識の中、少女は右手をトランクのほうに伸ばす。辛うじてつかんだトランクを支えにしてゆっくり立ち上がる。満身創痍。まるでぼろ雑巾の気分だ。少女は血を吐き出すと歩き出した。左肩は脱臼し、肋骨も何本か折れているだろう。死ななかったのが不思議だ。


 「△●×□#$%@」


 奇怪な言語が聞こえ少女は凍りつく。後ろを振り返ると化け物としか形容できない生物がそこに立っている。全身とげとげしいうろこに覆われ、背中に翼が生え、さらに顔は鳥のようである。うろこに覆われた手を差し出し、しきりにさっきと同じことを繰り返して喋っていた。やがてその動作をやめると今度は少女が使っている言語で喋り始めた。


 「そのトランクを渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」

 「―――だっ誰が渡すか!」

 「こちらもできるだけ乱暴はしたくない。渡せ」

 「信用できるか!」

 「そうか。ならば仕方がない」


 化け物は少女に向かって長大な爪の生えた右手を振りかぶった。ほぼ同時に少女がトランクをほうり投げ、拳銃を発砲した。偶然に目にあたり、化け物は目を抑えてあとずさる。その隙に後ろに放ったトランクを拾い上げた瞬間、化け物の蹴りが少女の腹部にめり込み、さらに吹っ飛ばした。


 「ぐぁっ」


 今度は右肩から突っ込んだ。全身が軋む痛みに少女は声もない叫びを上げた。もう駄目だ。お終いだ。そんなネガな思考が頭を支配している。かすむ視界の中、化け物が何かにぶっ飛ばされた。


 「・・・え?」


 眼を瞑って見開く。そこには金髪の細身で長身の男が立っていた。


 「生きてたか。だったら都合がいい」


 見かけによらない低い声で彼は少女を抱き上げると素早く走り始めた。いきなりお姫様抱っこされた少女は慌てて男を問いただした。


 「だ、誰ですかあなたは!?」

 「名前なんてあとでいいだろ。・・・ここら辺でいっか」


 一方的に話を切った男は少女を木陰に隠すとトランクに手を掛けた。何をしようとしているか気づいた少女は男の手を払おうと身を乗り出すが痛みに負けて倒れこむ。


 「使う気ですか・・・?」

 「当たり前だろ。この状況じゃ仕方がない」

 「・・・もぅ、どうなっても知りませんからねっ!」


 男はネックレスのような装置と宝石のようなものを持って姿を現わした。男の姿をみて化け物が怒りの雄たけびを上げる。男はネックレスを首にかけ、それの胸のあたりにある空洞の部分に縦長の宝石を差し込んだ。


 「―――――インストレイション」

 『Exceed installation』


 機械で合成された音と共に、男の全身に半透明で青色に光る装甲が形成され、数々の数式が流れる。装甲のサイズを装着者に合わせるため、転送位置の把握などが数式の正体だ。そして閃光がほとばしり、【エクシード】の装着が完了した。全身にぴったりとした黒いボディースーツに軽量であるが十分な耐久性をもった白色の装甲。そしてフェイスアーマーは広い視界を確保できるように目の部分が広い。なにより他の【エクシード】と違うのはその動力部。胸部装甲に覆われるようにして接合部から光が漏れているそれは間違いなくディザニウムだった。


 「それが新型か。蹴散らしてくれる!」

 「おまえに出来るならな」


 【エクシード】は飛び掛ってきた化け物をカウンターの右ボディブローで迎撃した。空中にいた化け物はそれだけで叩き落される。


 「どうした?」

 「図に乗るナァ!!」


 化け物はかぎ爪のついた右手を振りかざし、再度突進してくる。常人では斬られたことに気づかない程のスピードで振るわれる斬撃を身を屈めてかわす。それと同時に一回転して化け物の後ろに回り、勢いのままに左の裏拳を後頭部にかました。


 「●×”&#(&$&#(!」


 よくわからない叫び声を上げて化け物は攻撃する。かぎ爪の攻撃はどれも単調で【エクシード】にとってはかわすのは造作もない。たたきつけるような一撃を【エクシード】は左腕一本で受け止め、その顔面に無造作なパンチを食らわせた。三発目で化け物はよろけ、続く膝蹴り、ミドルキック、二段蹴りを防御も出来ずに受けつづけ、ばねを利用した渾身の正拳突きの直撃を浴びて十メートルほど吹っ飛んだ。砕けた鱗が威力を証明するかのように舞いながら飛び散る。


 「終わらせるか。ディザストアンロック」

 『Disast unlook』


 ディザニウムの発行が凄まじくなる。【エクシード】は灰色のクリスタルのようなものを取り出し、ディザニウムが収納された装甲に翳す。翳すと同時に、【エクシード】の右腕にツーハンデッドソードが転送された。それを両手で持ち、柄の部分がディザニウムに当たるように構える。ディザニウムの光がツーハンデッドソードに流れ、剣自体が発光し始めた。


 ようやく立ち上がった化け物目掛けて【エクシード】は横なぎの斬撃を放った。剣の光が極太のレーザーになり、化け物を一刀両断した。【エクシード】は剣を放り投げると急いで化け物の元に走った。


 「教えろ。おまえ等はどこでこの運搬情報を手に入れた」


 化け物は左手で【エクシード】の肩をつかんだ。瞬間大爆発が起こり、爆風でエクシードは大きくぶっ飛ばされた。何とか立ち上がった【エクシード】の装甲には傷がない。だが中身の男はやるせない思いでいた。


 「口封じか・・・くそ」


 男は装着を解除すると少女の所に向かって歩き出した。


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