騎士と盗賊
エリザ達はエクトールの港町に向かって歩いて、しばらく経っていた。
道は少し舗装されただけの小道ではあったが一本道なので迷うことはなかった。
バスケットもだいぶ軽くなっていた。あたりもだんだんと暗くなってきたが
家らしきものは何も見えない。まさか今夜は野宿になるのかしら、
とエリザは思った。
「ねえ、アオイデ。あなた、野宿したことある?」
「いえ、無いですけど。」
「そうよね、普通無いわよね。」
エリザ達はまた、前に歩き始めた。あたりも暗くなってきて前がほとんど
見えなくなっていた。いつの間にか二人は手をつないで歩いていた。
しばらくするとエリザは道の両端からカサカサという音がするのを聞こえてきた。
「ねえ、アオイデ。何か聞こえない?」
「いえ、何も聞こえませんけど。どんな音ですか」
「本当に?草むらからカサカサって音がするんだけど。」
「タヌキか何かですよ。」
アオイデはエリザの心配など気にもとめないで前に進む。バタンと突然、
アオイデが派手に転んだ。
「大丈夫、アオイデ。ずいぶん派手に転んだけど。」
「大丈夫です。木の枝か何かに引っかかっただけです。」
アオイデは擦りむいたひざ小僧をさすりながら言った。
「そうだよお嬢ちゃん達、夜道は危ないよ。」
突然、男の声が聞こえてきた。
「まずいですね、囲まれています。」
月明かりが唯一の明かりのなか、アオイデは
夜目を利かして周囲を確認する。エリザも目を凝らしてみるが相手を確認することはできなかった。アオイデってすごいわ。こんな真っ暗なのに周りが見えるなんて。そのアオイデが転ぶなんて。エリザがそんなことを思っている間にも足音は
どんどん近づいてくる。
「おいおい、このお姉ちゃん、ずいぶんと薄い服を着ているじゃねえか。
もしかして俺たちを誘っているのか。」
男の一人がエリザの服を触って言う。
「やめて下さい。人を呼びますよ。」
エリザは男の手を振り払う。
「ギャハハハハ。人っ子一人いないところで人を呼んでも誰も来ないぞ。」
「そうそう、タヌキぐらいは顔を出すかもな」
ガハハハハ、と男たちは大笑いをする。
「我が庭で狼藉をしているものはどこのどいつだ」
凛とした声があたりに響き渡る。
「誰だ、お楽しみを邪魔する奴は。」
男の一人が叫ぶ。
「私だ。名はセミラミス。覚えておくが良い盗賊ども。」
凛とした声で男たちを圧倒させる。
「たった一人で何ができる。おい、野郎共、ぶちのめすぞ。」
うおおおおお!
盗賊達がセミラミスに襲い掛かる。金属がぶつかる音や悲鳴が響き渡り、
そして静まり返った。
「怪我はないか、お嬢さんたち。」
先ほどとは違い穏やかな声でエリザ達に話しかける。
「はい、大丈夫です。本当にありがとうございました。」
エリザは深々と頭を下げる。
「もうこんな時間だ。私の家に来るといい。付いて来い。」
セミラミスはそう言うと前に進みだした。
エリザとアオイデも後に続く。しばらくすると豪邸が見えてきた。