見知らぬ世界
トンネルを抜けると花畑が広がっていた。赤、白、黄色の色とりどりに咲き誇っている花々が暗いトンネルを抜けてきたエリザにとってはまぶしすぎるほどで
あった。裏山にこんな素敵な場所があるなんて思いもしなったわ、とエリザは
思った。エリザは大の字で横になると、花々が奏でる香りのハーモニーにうっとりし、ところどころから聞こえる鳥たちの歌声を楽しんだ。そろそろ戻らないと
日が暮れてしまうわとエリザは思って起き上がり先ほどのトンネルに向かおうと
立ち上がり周りを見わたしたが、あるはずのトンネルがどこにも見えなかった。
そんなに遠くまで来たかしらとエリザは少し歩いてみたが、やはりトンネルは
見つからなかった。またしばらく歩いているとエリザは人らしきものを見つけた。そこまで小走りで向かい、たどり着くとエリザは
「すみません、お聞きしたいことがあるのですが」
と声をかけた。声をかけられた人はエリザのほうを振り向きにっこりと微笑むと
「あら、どうかなさいましたか」
とエリザに穏やかな声で話しかけた。蜂蜜色のさらさらしたロングヘアーに
真っ白いワンピース、絹のように透き通った肌に碧眼をした女性にエリザは
思わず見とれてしまい返事をすることができなかった。
「あの、どうかなさいましたか」
再び女性がエリザに聞いてきたところで、エリザはハッと我に返り、
「す、すみません。この辺にトンネルがあるはずなんですが、どこだかご存じないでしょうか」
と聞いた。すると女性は
「トンネルとはどういったものでしょうか」
と聞き返してきたのでエリザは質問を変えた。
「この付近に大きな、ええと、人が入れるくらいの洞窟とかそんな感じのものが
あるはずなのですがご存知ありませんか」
「大きな洞窟ですか。面白いお嬢さんですね。ここは花一面が咲き誇る
ヴィヴィアンの花畑、洞窟なんてありませんよ。」
とおっとりとした口調で答えた。
「ヴィヴィアンの花畑? 聞いたことないわ。私、スピカから来たんですけど、
どこだか分かりますか」
エリザの話を女性はエリザの顔をじっと見ながら聞いていた。エリザが話し
終わってしばらくすると女性は
「スピカがどこにあるか私には分かりません。そのような地名も国も聞いたこと
ありませんし。でも素敵な名前ですね。」
「でしょう。私この名前とっても気に入っているんです。」
とエリザは答えた。
「しかし困りましたね。帰り道が分からないとなると親御さんもご心配する
でしょう。」
「そうよ。キアラおばさん、とっても心配性だから今頃、あっちこっち私のことを探していると思うわ。」
「そうでしょうね。そしたらあちらにイグレーヌの町がありますので、
もしかしたら何か分かるかもしれません。」
と女性は町のある方向を指差しながら答えた。先ほどまでは気が付かなかったの
だが女性が指差す方向には二本の木がまるで門のように並んで立っていた。
「そこまで案内していただけませんか。」
エリザがお願いすると
「ごめんなさい、お待ちしている人がいるのです」
と女性は答えた。
「そうですよね、それじゃあ無理ですよね。色々教えていただきありがとう
ございます。」
とエリザが女性にお礼を言うと、女性はエリザにそっと近づき頬にそっと
キスをした。エリザはびっくりしたが女性は、にこにこしながら
「旅人に無事を祈るこの国のしきたりです。」
と答えた。祝福された気がしたエリザは
「ありがとう、では行ってきます。」
そう言ってエリザは女性と別れ一人イグレーヌの町に向かった。