表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8(れべる38~42)

れべる38


 お兄ちゃんの直属の配下がいるというお城まで、あと一日と少し、というくらいの所までやってきた。

 偶然、小さな村を発見したので、私たちは今晩、その村に宿泊することにした。

 小さな村なので、宿屋はない。だから、私たちは村長さんの家に寝泊まりさせてもらうことになった。初めは寝床を借りるだけだったけど、お金を渡したら、村長さんの奥さんが喜んで、ご飯もごちそうしてもらえることになった。

 手作りのご飯が食べられるなんて、久しぶりだ。私は飛び上がるくらいに喜んだ。


 食卓に通してもらって、六人で向かい合ってご飯を食べる。

 こんなに大勢でご飯を食べるなんて、初めてのことだから、何だかわくわくする。


「それにしても、こんな村までやってくるなんて、奇特な人たちだねえ」


 白髪の村長さんが、のんびりとした口調で言った。

 それに呼応するように、白髪交じりの奥さんがはきはきとお喋りを始める。


「しかしねえ、あんたたちも変わった顔ぶれだね。剣を持った男が二人に、女一人に子供一人かい。どこかの良い所の娘さんと護衛っていうならまだ分かるけど、どっちかというと、男のあんたたちの方が身なりが良さそうじゃないか」

「私たちは、もともとは近衛兵を務めておりましたので。今は……どこぞの厄介者のせいで、魔王を倒す旅に出ています」


 珍しいな、リーハルトさんが敬語を使ってる。

 ご飯をもぐもぐと頬張りながら、私はリーハルトさんの方をちらりと見た。それから気付いた。


 あれ? 私いま、厄介者って言われた?

 抗議しようとした時、私の声は、奥さんのどでかい声にかき消された。


「魔王を倒す旅だって!?」


 耳が、じーん、となった。奥さん、驚きすぎだ。


「そりゃあ、ありがたいねえ。ほら、近くに魔王の部下が住み着いてる城があるだろ? この村は小さいもんだからまだ無事だけど、あたしらも気が気じゃなくてねえ。もしかして、これから魔王の部下を倒しに行ってくれるのかい?」

「はい、そのつもりです。必ずや討伐しますので、ご安心ください」


 大真面目な顔で、リーハルトさんが答える。なんかリーハルトさんがすごくマトモに見えるぞ。というかむしろ、まるでリーダーだ。


「おや、それじゃあ、そこの小さい女の子も、魔王を倒しに行くのかい?」


 おもゆを飲みながら、のほほんと村長さんが私を見る。

 話をふってもらって、私は自信たっぷりに頷いた。


「はい。私は魔王を倒す勇者なんです」

「そうかい。勇者なのかい。すごいなあ」


 ほっほっほ、と笑う村長さん。

 その横で奥さんが慌てた声をあげた。


「ちょっとお待ちよ。こんな小さい子が魔王を倒しに行くだなんて、冗談だろ?」

「冗談ではありません。非常に残念なことに、事実です。しかし、見た目に反してこいつの中身は化け物ですから、問題ありません」


 残念なことに、は余計だと思いながら、私はにこにこと肯定した。


「はい。大丈夫です。安心してください。魔王は私が倒してみせます」

「そ、そうなのかい……」


 怪訝そうな顔の奥さんは、本当なのかというように、ハンスさんとアンゲラさんの方を見たけど、二人は気付かないふりをして、黙々とご飯を食べていた。どうやら説明するのが面倒らしい。

 そうだよね、私が魔王の妹だなんて知れたら、ちょっとした騒ぎになってしまう。


「しかしだなあ、おちびちゃん。お父さんとお母さんは、おちびちゃんのことを心配していないのかい?」


 村長さんに聞かれて、私はちょっとだけ考えた後で、答える。


「お父さんとお母さんは、私が魔王を倒す旅に出ていることは知らないんです。だから、平気です」

「そうかい。なら良かったねえ」


 ぼけた返事をしながら村長さんが微笑んだ一方で、今までずっと、会話に入らなかったハンスさんとアンゲラさんが、急に私のことを見た。驚いているみたいだ。


「お前、両親がいたのか」


 リーハルトさんも、目を丸くして私を見た。


「はい。本当のお父さんお母さんは死んでしまいましたが、血の繋がらないお父さんお母さんはいます。でも、ずっと遠くに住んでいるので、しばらく会っていません」


 そう言って、私は、奥さんが作ってくれた野菜のスープの汁を、くーっと一気飲みした。

 くはあ、おいしい。



 ご飯を食べ終わると、寝床で私はごろんと寝転んだ。お腹いっぱい、幸せだ。

 私はお腹をさすりつつ、わらぶきでできた寝床の上で、ごーろごろごろと転がる。

 周りを気にせず、ごろんごろんと転がっていたら、がす、と何かにぶつかった。リーハルトさんの足だった。

 がし、とリーハルトさんの足に蹴られた。ちょっと痛かった。

 仕返しとは大人げないぞ。

 寝転んだまま、立っているリーハルトさんを見上げると、悪びれない顔で、リーハルトさんが私を見下ろしていた。


「悪い。仕返しというわけではないが、邪魔だったから足がすべった」


 ……一応、謝っているから許してあげよう。

 しかし、邪魔だから足がすべったとは、如何なものか。

 今のは一応私も悪いけど、普段からリーハルトさんの私への対応がことごとく酷いので、そろそろ何かしらの対策を講じねばなるまい、と私は思案した。


 そうしていると、アンゲラさんが話しかけてきた。

「さっきの話ですが、妹ちゃんには、血の繋がらないご両親がいたのですね。遠い所と言っていましたが、どちらに住んでいらっしゃるのですか?」


 ごろんごろん。転がりながら、私は頑張って記憶の中を掘り返した。

 ……どこだったっけ。

 大好きなお父さんとお母さんが暮らしている場所なのに、思い出せない。


「勇者さんのご両親だということは、魔王にとっても両親になるんですか?」

 ハンスさんに聞かれて、むくりと起き上がって座り込むと、首をふった。

「お父さんとお母さんは、私だけのお父さんとお母さんです。お兄ちゃんは、違います」


 答えながら、他にも思い出せないことがあることに気が付いた。 

 いつ、私はお兄ちゃんと離れて、血の繋がらないお父さんたちと一緒に暮らしていたんだろう。

 私はずっと昔から、お兄ちゃんと一緒に暮らしていたのに。数年前にお兄ちゃんがいなくなってから、私はずっと一人で暮らしていたのに。

 でも、私にはちゃんと、血の繋がらないお父さんとお母さんがいる。それは間違いない。


 何で、思い出せないんだろう。ちょっとだけ、不安になる。


「……思い出せません。お父さんたちが、どこに住んでいるのかも、私がいつお父さんたちと一緒に暮らしていたのかも」


 思い出せないと分かると、急に お父さんたちが恋しくなる。

 私は消沈して下を向く。

 ぽん、と頭に何かがのった。それは、頭を優しく撫でてくれる。アンゲラさんの手だった。


「元気出してくださいな、妹ちゃん」

 小首を傾げて、アンゲラさんは心配そうに微笑んでいる。

 胸がほんわかと、温かくなる。


「アンゲラさんは、優しいですね」

 アンゲラさんにつられて、ふわあ、と微笑んだ。

「私、アンゲラさんのこと、好きです」


 つい告白してしまった。

 その時、ちょうど視界の端っこで、リーハルトさんがこっちを見ていた。

 そっちに目を向けてみると、明らかに馬鹿にした顔をしていた。

「……もしかして、リーハルトさん。いま、私のことを馬鹿にしてますか?」

「言いがかりはよせ」


 言いがかりじゃありませんってば。

 文句を言うと、リーハルトさんは嫌味な顔で笑った。


「馬鹿は幸福だと思っただけだ」

「リーハルト」


 怒ったように、ハンスさんが語気強く言った。

 あまり怒ったところを見たことがないから、ちょっと恐い。

 怒られたリーハルトさんは、恐がる様子もなく、ただ肩を竦めた。


 その様子を、ぼんやりと眺める私の顔のすぐ目の前に、アンゲラさんがしゃがみこんだ。ハンスさんとリーハルトさんの姿が、アンゲラさんの後ろに隠れて見えなくなる。


「妹ちゃん。眠くなるまで、お話しましょう」


 アンゲラさんはとびきり優しい顔をして、鈴の鳴るような綺麗な声でそう言った。



れべる40



「ついに、れべるが40まで上がりました! これで、私もかなり強くなりました」


 ぴょんとはねて、みんなに報告をした。

 アンゲラさんは不思議そうに、ハンスさんは無表情で、リーハルトさんは、何言ってんだこいつ、という顔で、それぞれ私を見た。


「れべるって、何なのですか?」

 アンゲラさんに聞かれて、私は、こほんと咳払いをして答える。

「戦うと、前よりも強くなったという感じがする時があるんです。そういう時、レベルが上がったって私は思っています。レベルというのは、戦いの強さの尺度のことです」


 ちなみに、戦いの後でレベルがどれくらい上がるかについては、私が何となく勝手に想像している。つまり、架空のレベルなわけだ。

 でも、実際に、前よりも体力も筋力もついてきているから、架空のレベルもそれほど間違ってはいないと思う。

 今度はハンスさんが質問する。

「れべるの意味は分かりましたけど、そのれべるという言葉は、どこから出てきたんです?」

「RPGの用語です」

「あーるぴーじー? それは何だ」

「四角い箱の中にいる人を操って、戦ったりお金を稼いだりしながら、冒険する遊びです」

 とっても楽しい遊びなんですよ。

 自分が発明したわけではないけど、私は自慢げに胸を張った。

 リーハルトさんには胡乱な目を向けられた。

「どこでそんな遊びを覚えてきた。お前の頭の中か」

「私の頭の中ではなくて、どこかにそういう遊びがあったんです。でも……どこでしたっけ?」

「俺が知るか」

 私は時々、変なことを言いだすので、リーハルトさんは、またかという顔をした。


「何でも良いが、その物騒な遊びに俺たちを巻き込むなよ。箱の中に入るのも、操られるのも御免だ」

 リーハルトさんの言葉に、私は戸惑いの声をあげた。

「え」

 あの、違う。そういう遊びじゃないです。

 箱の中にいるのは、実在しない人だと教えるのを忘れていた。

「魔王の妹は、やはり普通の子供とは違うな」

 待ってください、誤解です。


 誤解を解こうと、リーハルトさんに一生懸命になって説明したけど、真面目に聞いてくれなかった。

 ハンスさんは興味がなさそうだったので、アンゲラさんにせめてもの弁明をした。アンゲラさんは、うんうん、と相槌をうちながら、きちんと聞いてくれる。何て良い人。

 もうすぐ、お兄ちゃんの配下がいる城につく。アンゲラさんと、ハンスさんのことは、私がしっかり守ろうと決めた。

 リーハルトさんは余裕があったら助けてあげよう。



れべる42



 今日も今日とて、リーハルトさんに引きずられる。見下される。嫌味を言われる。罵倒される。暴力はふるわれないから、まあ、よしとする。

 でも、私もちょっとだけ、嫌味を言いたくなる。だから、リーハルトさんに言った。

「リーハルトさんは、お兄ちゃんよりも意地悪です」

「……何が言いたい」

 冷ややかな目で、リーハルトさんは、私を見た。

 この時点でやめておけば良かったけど、ついつい続きを喋ってしまった。

「リーハルトさんはお兄ちゃんよりも意地悪。つまり、お兄ちゃんが魔王なら、リーハルトさんは大まお」


 私はリーハルトさんの剣を溶かした。切りかかってくる気配を察したためだ。

 リーハルトさんは、水たまりなってしまった剣を見下ろして、忌々しそうに吐き捨てた。

「二度と言うな」

 思っていたよりも、逆鱗に触れたらしい。

 最後まで言っていないからセーフです。ということに、してくれないかな。してくれないよね。

 そういえば、お兄ちゃんは、私にとってはお兄ちゃんだけど、リーハルトさんにとっては悪逆非道の魔王なんだ。

 反省。

 私はぺこりと頭を下げる。

 「ごめんなさい。悪ふざけがすぎました」

 顔を上げると、リーハルトさんは、害虫を見る目をしていた。

 そんなリーハルトさんを見て、私は、しばらく悪乗りした冗談は控えようと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ