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4(れべる31)

れべる31


 おっさんが、この腕輪や首飾りは、魔力を吸い取ってしまうもので、これをつけていれば、絶対に魔法が使えないのだと教えてくれた。

 実際は、これをつけていても私はふつうに魔法を使える。だけど、ここにいる人たちは、今の私は魔法が使えないと、誤解しているようだった。

 だから、腕輪や首飾りを、魔法で切り落とした。


 その途端、真っ先に切りかかってきた男の人がいた。

 両脇に立っている偉い人たちを守るように、剣を携えて並んで立っている兵士の中の一人だった。

 私の行動に目を見張って、多くの兵士たちが動けないでいたのに、その兵士だけが瞬時に反応して間合いを詰め、流れるような動作で剣を振りかぶった。


 あまりにも早い行動に、私はうわあと慌てて、何とか魔法を間に合わせた。

 万事休す。

 絵本の魔法使いとは違って、私の魔法には呪文なんていらない。

 だから一瞬で発動できる。

 でも、今見たいに不意打ちされると、混乱してしまって、魔法を発動させるのに少し時間がかかってしまう。


 危うく切られるところだった。恐かった。

 急所を切られて即死してしまったら、いくら魔法が使えてもどうしようもない。使い手である私が死んでしまうんだから。


 やれやれ、と思いながら、私は、切りかかってきた男の人に言った。


「あの、もう一度言います。私は貴方たちを、人を傷つけようとは思っていません。私は、魔物やモンスターとは違います。なので、どうか剣を収めてください」

「……収める剣が、どこにある」


 忌々しそうに睨みつけられて、あ、と気が付いた。

 そういえば、たった今、私が剣を魔法で溶かしてしまったんだった。


 男の人は、手には何も持っていなくて、その足元で、鈍色の液体が水たまりのように広がっている。

 その様子を見て、ずっと昔に誰かが私に見せてくれた、水銀っていう液体によく似てるなあ、と思った。でも、水銀なんていう液体、この世界になかったはずだけど、何で私はそれを見たことがあるんだろう? 何で知っているんだろう?


 うーむ、思い出せない。

 悩みつつ、私はとりあえず剣を元通りにした。

 鈍色の液体は、とろりと空中に上って行って、元の剣の形を成すと、私の手に収まった。


「ここに剣があります。お返しします」


 そう言って、私は切りかかってきた男の人に、剣を差し出した。

 男の人は、どうしようか迷う素振りを見せたけど、結局、その剣を受け取った。

 恐い顔で、私のことをじーっと見ている。翡翠色の瞳に、私の姿が映っていた。

 この男の人は、すごい人だ。

 私が腕輪や首飾りを切り落とした時、この部屋にいる多くの人が、有り得ないものを見たというように固まって動けなくなってしまったのに、この人は瞬間的に反応して、私に切りかかったのだから。


 こんな人が近くにいると思うと、ちょっと恐い。

 私はじりじりと後ずさる。

 この部屋には、この男の人以外にも兵士はたくさんいたけど、他の人は、誰も動こうとしない。

 恐がっている人もいるみたいだし、切りかかっても意味がないと分かって様子を見ている人もいるみたいだ。


 もしもだけど、ここにいる人たちに不意打ちで襲い掛かられたら、私はその人たちを、殺さないといけなくなる。

 不意打ちされてしまうと、余裕がなくなって、単調な攻撃魔法しか使えなくなるのだ。

 だから、さっき突然に切りかかられた時は、本当に危なかった。

 今度はいつ切りかかられても良いように、私は身の回りのもの全てを警戒することにした。


 翡翠色の瞳の男の人は、私を眼力で殺す気かというくらいに睨みつけてくる。

 それに冷や汗をかきつつ、私はまた王様の方を見た。


「王様。ご覧のとおり、私を捕まえることはできません。人質にはとれません。でも、私は人を傷つけるつもりはありませんし、勇者になって、お兄ちゃんを倒そうと思っています。この国の人たちが協力してくれると、嬉しいです」


 一生懸命に説明した。

 協力してくれるのか、それともまた切りかかられるのか、ドキドキしてしまう。

 王様は、そんな私に、何も言わなかった。

 意味ありげに、床に落ちた腕輪や首飾りに目を向けている。

 さっき、私が魔法で切り落としてしまったものだ。

 普通に取り外せたら良かったんだけど、見えない力が働いていて、簡単には取り外せないみたいだったので、手っ取り早く切り落としてしまった。


 じーっと、それらを見る王様を見て、私は、焦る。

 綺麗な腕輪や首飾りだったから、もしかすると、とても大切なものなのかもしれない。

 私は急いで謝罪をした。


「あの、私はいま、せっかく付けてくださった腕輪や首飾りを、魔法で切り落としてしまいました。ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げる。

 それから、壊れた腕輪と首飾りを魔法で元に戻して、魔法で宙に浮かび上がらせた。


「今、元通りに戻しました。これで、許してくださらないでしょうか?」


 首を傾げてお願いした。私は王様にお願いしたけど、王様ではなくて、王様の隣に立っている人が言った。


「父上。こやつは化け物です」


 宙に浮かび上がらせていた腕輪と首飾りをひとまず床に置いて、私はその男の人の方を向く。

 私を人質にとると言った男の人が、得体の知れない不気味なものを見る目で、私のことを見下げていた。


「人のような形をして、魔法を使う。そのくせ、自分は魔物でもモンスターでもないと言う。魔物を封じる首輪も効き目がない。お前は、何者だ」

「え」


 はい、えっと、どういうことでしょうか。

 とても衝撃的なことを言われて、私は耳を疑った。

 今、この人は、魔物を封じる首輪も効き目がない、と言った。

 私が喜んでつけていた腕輪や首飾りは、本当は、魔物の首輪だったの?

 人間がつけるものではなかったの?


 何てことだ。

 私はサンタクロースが本当はいないと知った時と同じくらいの衝撃を受けて、落ち込んだ。

 ……あれ、サンタクロースって何だっけ。伝説のモンスターの名前だっけ。

 まあいいや。今は、それどころではないのだ。

 私が何者か、みんなに教えてあげないといけないんだから。


「あの。私はただの魔王の妹です」

「魔王の妹ならば、人に害を為そうとするのが普通であろう」

 と、王様。


 しまった、確かにそうだった。

 だけど、それなら何を説明すれば良いんだろう。私は何者かと聞かれた。

 私は、一体何者なんだろう?

 考え込んだすえに、私は言った。


「……魔王は、昔は魔王ではありませんでした。ただの、私のお兄ちゃんだったんです。だから、私はただのお兄ちゃんの、妹です」

「人間なのか」


 王様の言葉に、私は息が詰まった。

 ……私は、人間なんだろうか?

 よく考えたら、私のことを人間だって言ってくれる人に、一度も会ったことがない。

 故郷にいた人たちは、みんな、私のことを、人間ではないと言っていた。

 そのことをお兄ちゃんに話したけど、お兄ちゃんでさえ、人間だとは言ってくれなかった。

 だけど、私は人間だ。多分。何でか分からないけど、そんな気がしている。

 だから、私は答えた。


「人間です」

「では、何故魔法を使うことができる。魔法は、忌まわしき魔物にしか使うことができぬ。汚れたものだ」


 何ですと?

 本日二回目の衝撃だった。

 人間は、魔法を使うことができないだなんて。お兄ちゃんも私も、普通に魔法を使っていたので、誰でも使えて当然だと思っていた。

 そうか、だから故郷の人たちは、私が人間じゃないって言ってたんだ。それを知ってたら故郷の人たちの前で魔法なんて使わなかったのに。

 お兄ちゃんめ、何で教えてくれなかったんだ。許さん、妹は許さんぞ。

 今度お兄ちゃんにあったら、頭突きかまして肘鉄を食らわせてやる。

 そう決意しながら、私は王様に言った。


「何で魔法を使えるのかは、分かりません。昔から、当たり前のように使えるんです。普通の人たちは魔法を使えないということも、今初めて知りました。でも私は人間です。人間のつもりです」


 信じてくれるかなあ、と心配しながら、じーっと王様を見つめ続けた。

 どうしても信じてくれなかったら、仕方がないから、協力してもらうのは諦めよう。

 そう思っていると、ずっと前の方、王様のすごく近くに立っている人が、両脇の列の中から一歩進み出た。


 ふわふわと波打つ金色の長い髪を持った、綺麗なお姉さんだった。

 着ているドレスは、裾が長くて、腰のあたりから丸く広がっている。宝石みたいなキラキラしたものが服のあちこちに散りばめられている。

 きっと、お姫様だ。私は初めて見るお姫様に、感動して胸が高鳴る。お姫様は、王様を見上げて、言った。


「王。恐れながら進言したいことがあります」

「申せ」

「この魔王の妹と申す娘は、真実はどうであれ、自らを人間だと思っていることに偽りはないようです。見たところ、まだ幼いですし、姿を欺いているわけでもないでしょう」


 庇ってくれるのかな、と期待しつつ、私はお姫様を食い入るように見つめた。


 お姫様……! 絵本に出てきた、本物のお姫様……!


「この際、人間であるか否かは、些細な問題ではないでしょうか。私には、魔王の妹が偽りを申しているようには思えません。自分は人間であり、我らに害を為すつもりはなく、魔王を倒すと申しております。ならば、例えこの魔王の妹が人間でないとしても、勇者として迎え入れる方がよろしいのではないでしょうか。それだけ、現状が深刻であることは、周知の事実であると存じます」


 王様は片眉を上げて、値踏みするように私を見る。

 お姫様に言われて、少し心が動かされたようだった。


 ありがとう、親切なお姫様!

 嬉しさに、私はそのお姫様に向かって、にっこりと笑った。

 しかし、目が合うと、変なものを見たような顔をされた。ええ、何で。


「……私からの進言は、以上でございます」


 そう言って、お姫様は元の列に戻った。

 お姫様のドレスが隠れて見えなくなってしまう。

 ああ、残念。


「他に、進言したい者がおれば、申せ」


 誰も何も言わなかった。

 王様は一通り、確かめるように、この部屋の面々を見渡す。

 最後に私を見た。


「では、そなたを、勇者として迎え入れることとする」


 ありがとうございます!

 私は喜んで、深く深くお辞儀をして、それから、満面の笑みで王様を見上げた。

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