第壱話~プロローグ~
「そんなこんなで僕は今、ちゃんとした高校生活を送ることが出来るんだ」
話し始めはまだ明るかった空もだいぶ暗くなり、街灯がつき始めた公園で
僕と雨宮は話していた。
長い話になりそうだったので、場所を校門前から歩いて十分ほどのところにある
この公園にしたのはどうやら正しかったらしい。
まだ四月に入ったばかりの夜の公園は、昼間の暖かさの残滓を残すことなく
吹く冷ややかな風が僕たちの頬を撫でていた。
話終わった後、沈黙の影を察知した僕は寒くなってきたからと自販機にコーヒーを買いに行った。
雨宮には僕の過去にあった事をすべて話した。
雨宮がどう思ったかは分からないが、僕としては言いたかったことは言えて、若干肩の荷が下りた気分だった。
「お待たせ」
温かいコーヒーと緑茶を買って、ベンチに戻る。
ちなみにコーヒー(in砂糖とミルク)は僕で緑茶は雨宮だ。
ありがとうとかすかに聞こえるくらいの声を出して雨宮は緑茶を受け取った。
「ありがとう」
一口緑茶を飲み、残りのお茶をカイロ代わりに両手で包みながら雨宮は言う
「あなたが話しかけてくれなかったら私は多分、残りの命を無駄にするところだった」
初めて会った時と比べて、雨宮の口調からは他人を拒むような固さが消え、友達と接する時のような口
調になっていた。
「まだ、病気のことは自分の中で整理できてなかったんだ・・・」
「でも、あなたのおかげで残された時間を楽しく過ごそうって思えたの」
ドキッ
本当に心臓からそういう音がした
周りが暗いせいか公園の街灯に照らされてこっちをまっすぐに見る雨宮の顔がはっきりと見える。
その顔は今まで以上に綺麗に見えた。
もともとかなり顔立ちが整っている雨宮だったが、入学以来自分の気持ちに抗っていただけに笑顔を見せることは皆無だった。
普通の人がごく当たり前に行っている自分を周囲にアピールするということを
まったくしていなかったのだ。
しかし
目の前にいる雨宮は満面の笑みを此方に向けている。
まるで今までの自分を塗り替えるように、今までの分を取り返すように笑っている
、これが本当の自分なんだと・・・
「よかったよ」
急に雨宮を異性として意識してしまった僕は、そのことを隠すように話題を変えた。
「でも、僕は未だに家族のことを引きずっているんだ」
「気を抜くと何で僕の家族がこんな目に会わなければならなかったのか、何で自分は生き残ってしまったのか、そんなことを考えている自分がいる。」
「今まで散々えらそうに言ってきたけど実際は僕も肝心なところで心の整理はついていないんだ」
そういって僕は空を見上げた、もう日の光の余韻も消え去った夜空には薄い雲が所々にかかりながら
それでも夜空の中で一番輝く月があたりを照らしていた。
「それに、屋上で言ったことはほとんど翔が言っていたことだしね・・・」
「僕の言葉じゃない・・・」
だから君を助けたのは翔なのかもねと続けようとして
「それでも私のことを助けてくれたのはあなたなのよ。」
「!!」
その言葉で僕は吐き出しかけた台詞を飲み込んだ。
「私の事情に気づけたのはそんな経験をしたあなただからでしょう?」
「私は長くは生きられない。でも、残された人生を精一杯生きるって決めた。」
「だから、あなたもいつまでも過去に縛られないで・・・」
「人生はもっと楽しいんでしょう?」
それは僕が屋上で最後に言った言葉だった。
これが僕と雨宮の出会いだった。
この出会いのおかげで僕は変わることができた。
でもそれはまだ先の話・・・
え?僕の名前をまだ知らないって?
そういえば言ってなかったね
僕の名前は上田広人っていうんだ。
今まで書いてきたものを自分で読み返してみました・・・
感想としては密度が無い{泣}
というわけでこれからしばらくは先の話も書きつつ前の話の手直しも加えていきたいと思っています。
これからは不定期で前の話を修正していくのでたまに読み返してみてください
ここまで読んでいただいている方、本当にありがとうございます
この小説をもっと楽しんでいただけるよう努力していきたいと思いますので
お付き合いしていただけたら恐縮です。
尚第壱話はこれで終了です
テーマはずばり「出会い」で書いてきました
これから第弐話に取り掛かろうと思います。