第壱話~プロローグ~
雨宮は何も言わずに屋上を後にした。
僕はその背中に一言だけ付け足した。
もう僕が言うことは何もない。
後は雨宮自身が決めることだ。
「どこ行ってたんだよ、次の授業体育だぞ」
教室に戻るとすでに体育着姿の翔がそう言ってきた。
「ごめんごめん、ちょっと用事があってね
すぐ着替えるから待ってて」
僕はそういうと机の横に掛けてある自分の体育着袋に手を伸ばした
その日の放課後、もう一度雨宮と話そうと思っていた僕だったが
掃除当番だったことをすっかり忘れていた。
掃除が終わって教室に戻ると、すでに雨宮の机からは鞄がなくなっていた。
校門までは翔と他愛もない雑談をしながら歩いた。
校門の所で翔は
「俺部活あるから、また明日な」
そういって体育館へ走っていった。
校門から体育館までは結構距離があるのに翔はいつも僕と一緒に校門まで着いてきてくれる。
本当にいい奴だ。
そう思って校門から1歩外に出たとき、驚くを超える何か別の感情が僕の中を走った。
雨宮がそこに居た
こっちをまっすぐ見て
笑って・・・
「遅かったね」
雨宮は掃除が終わるまで待っていてくれたみたいだった
「ごめん、待ってるとは思わなくて・・・」
まさかの待ち伏せ(?)に僕は動揺を隠し切れなかった。
「いいの、私が勝手に待ってただけだし」
そういうと雨宮はこちらに向かって歩いてきた。
「私、あれから色々考えたの」
あれからとはもちろん屋上でのことだろう。
「今まで自分がしてきたこと、今まで自分がされてきたことを」
少しくぐもったこえで雨宮は言う
「あなたの言うとおり私は自分の気持ちを人に伝えようとしたことはただの一度もなかった」
「言っても解ってもらえないって勝手に決め付けてた
だから、友達になろうとしてた人にも冷たく当たってしまった・・・
周りの人は皆、私と仲良くしようとしてくれていたのに・・・」
今までの無表情が嘘のように、雨宮の顔には後悔と悲しみが映っていた。
雨宮は今まで下げていた顔をもう一度僕と目が会うように上げた
「あなたにいわれるまで自分がどんなにひどいことをしてたか、全然気がつかなかった」
「何で私のことをあそこまで気に掛けてくれたの?
私と同じような状況にあったってどういうこと?」
雨宮はまっすぐ僕の目を見て話す
「私はもう一度やり直したい
そのために最初にあなたと仲良くなりたい・・・
私はあなたに私の秘密を話した。
出来ればあなたも話して欲しい・・・」
僕は内心戸惑っていた
雨宮が心を開こうとしている事にではない。
自分自身の事を話すのが怖いわけでもない。
ただ雨宮がここまで積極的な子だったことに戸惑っているのだ。
屋上では散々偉そうなことを言っていた僕だが所詮は高校生である。
このような状況に慣れているはずがない。
ただ、雨宮が自分から変わろうとしていることが僕にはうれしかった
自分も経験したその気持ち、暗く狭い空間に独りぼっちで誰にも助けを求めることが出来ない
自分の心と呼ばれる部分に大きな穴が開いたようなそんな気持ち。
その気持ちをいつまでも引きずって欲しくない、自分は一人じゃないということに気づいて欲しくて
僕は雨宮に声を掛けたのだから。
だから話そうと思った
僕が体験したことを
雨宮の気持ちを多少なりとも理解できた理由を・・・
こんにちはhiveです
第壱話はまだ続きます。
まだ小説家になろうのシステムに慣れていないので
変な所で区切った投稿になってしまいましたが
ご了承ください
今度からはある程度書いてから一度に投稿しようと思います
しかしこの話だけは、区切がつくまで此処に続けて書いていこうと思います