永訣の創痍
「別れるなら、私は死ぬから」
私がついに悲憤慷慨して精神障害者の自立支援施設から手荷物をまとめて脱走したとき、あなたは泣
きながらシャンパンゴールドのトヨタカローラを飛ばしてやってきた。
私は施設の集団生活にほとほと嫌気がさしての遁走――今朝の塩辛かったポーク缶と密造した模造拳銃
の孤独のせいだったわけだが、あなたは決して理由を訊かなかった。
血相を変えてノーメイクの部屋着で、眼を腫らして私の前にあらわれた。
――勝手に眼前から立ち去ることを「許さない」ともあなたは言ったが、今度は私があなたから遠く離
れていきそうだ。
あなたは悲嘆に掻き暮れてしまうだろう。今度は私を許さないと罵倒するかもしれない。
私はあなたのこころに永訣の創痍をのこすだろう。許されようとは思っていない……