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19-ⅱ)急転直下〜押された背中

 盗人が出た時の為に使用する檻(おり)が この物流拠点にはある。つまり、前例があったから作られたのだ。人里離れた場所にあるので、すぐに役人を呼べないのである。

 ローゼンからの報告を受けたカラヤ家当主のカイトと重鎮である六家の家長らは檻に入れられた盗賊を見に来る。サクたちローゼンの一家や、ライトとブランの父(おや)子(こ)も駆け付けた。ブランの一家は女たちは待機させた。ヒカルの元の雇い主であるレイと、ヒカルの身内であるカヲルも呼ばれた。モーとハッサンも自分の目で確かめるべく、やって来ていた。

 たくさんの倉庫がある崖の一角に、倉庫と同じような洞穴(ほらあな)が掘られていて、しかし、倉庫ほど深く掘られてはおらず、入り口を鉄柵(てっさく)で塞いで檻にしている。周辺には背の高い篝籠(かがりかご)がいくつか立てられ、その篝(かがり)火(び)で檻の中も見える。

「武器の流出を未然に防げたのは、不幸中の幸いだった」

「通報者には褒美をやらんとな」

 などと、六家の家長らも一角(ひとかど)の人物らしく事態を冷静に把握し、見極める。数ヶ月前に、ローゼンが継がないと聞いて慌てふためいた時とは大違いである。

 ブランなどは

『こいつはいい。ローゼンの客人の雇われ者が犯人とはな。ますます俺様に有利に働くな』

 この事件でますます次期当主の座が自分の物になると確信して、ほくそ笑んでいる。

 盗人になった檻の中の四人の人足は、ここでもくだらぬ言い訳をして命乞いするが、

『食うに困る者の犯行ではないな。本当に食うに困っている者なら、食品を狙う。どうせ、遊ぶカネ欲しさだ』

『武器を狙うとは、大それた事を……』

『大金目当ての盗みを働く奴は、遊ぶカネ欲しさに強盗でもなんでも、酷(むご)い事をやってのけるものだ。わざわざ物騒な武器なんぞを狙うのも、コソ泥程度のやる事ではない』

 などと、当主のカイトも六家の家長も彼らの性根を見透かして冷ややかな眼で見下ろすだけで相手にしない。

 ヒカルが「出せ! 出せよ!」と、足をバタバタさせて叫んでいると、目の前に人影が現れた。カヲルだ。

「あ…?」と、気付くヒカル。

 カヲルは両手で檻の鉄柵(てっさく)を摑(つか)んで、檻の中のヒカルを睨んだ。

「お、……お前ェ……」

 その声は震えて、言葉にならない。怒りと悲しみでカヲルの頭の中も心の中もグチャグチャだ。

「なんだよ? 俺を裏切ったテメェのせいだからな」

 ヒカルは此(こ)の期(ご)に及んで悪態を吐(つ)く。

「はっ?」

 と、返して、納得いかない顔のカヲル。その向こうにいる人物を見つけて、ヒカルはさらに責める。

「いや、お前だけじゃねぇ。サクもだ! こいつが俺をクビにしたせいだ!」

 その強烈な怨みの言葉にサクは責任を感じ始めて、手で口を覆うが、リナがサクの肩に手を置いて首を横に振り、カーラが「気にすんじゃないよ」と声をかけ、ローキはヒカルに対し

「根性が腐り切った奴だな。解雇されたのは『身から出た錆』だというのに、人のせいにするのか」

 と顔をしかめる。そんな家族の様子にローゼンは安堵した。サクの為に自分が言いたい事を家族が代弁してくれたようなものだったからだ。

 サクにまで当たるヒカルにカヲルは怒(いか)り、硬い鉄柵を激しく前後に揺すった。

「何がサクのせいだッ!! 本当だったら、俺らはとっくにクビになってても、おかしくはなかったんだぞ! お前が仕事中に酒を飲もうとして、サクが間違えて飲んじまった、あの一件だって ──」

「あぁ、あれか」

 レイに説教された時の事をヒカルも思い出す。


「本来なら、お前らは解雇だ。二人一組での護衛の約束を破り、仕事中に飲酒しようだなんて、責任感が無さ過ぎる」

「サクが無事だったから良かったようなものの、あれで もし、死んでたらどうすんだッ!! 酒の一気飲みで突然死する奴だっているんだぞ!」

 というレイの説教を、床の上で正座して聞いていたヒカルとカヲルだったが、実のところ、反省していたのはカヲルの方だ。

 あの時、カヲルと同じように下唇を嚙んだり、拳を固く握り締めていたのは激しい後悔の念からなどではなく、

『なんで俺が怒られなきゃなんねぇんだよ! チクショー!! 間違ってサクに酒を出したのは店員なのによ!』

 人のせいにして怒っていただけだったのだ。そして、反論せずに黙っていたのは

『仕方ねぇ、ここでクビになるのは損だ。美人に囲まれた割のいい仕事なんて、そうそうねぇしな』

 という理由からだ。

 つまり、激しい後悔の念から下唇を嚙んだり、拳を固く握り締めるので精一杯で、謝罪の言葉を出したくとも、上手く声に出せないでいたのは、カヲルだけだ。

『ヒカルの言いなりになるんじゃなかった。ちゃんと止めておけば良かった』

 あの時のカヲルは、そう後悔していた。


 そんなカヲルなので、むしろ、レイやサクに恩義を感じている。

「── レイさんはあの時点で俺たちをクビにだって出来たんだ。サクだって、嫌なら、いつでもレイさんにクビにしてくれって、頼めたはずなんだ。それを…、二人とも俺たちが路頭に迷わない為に契約を切らずにいてくれたのに。それなのに、こんな盗みまで働くなんて……」

 あの飲酒事件をキッカケにカヲルはローゼンに対して尊敬の念を抱いている。それだけに、そのローゼンにまで迷惑をかけた事で、なおさら許せない。

「とにかく、謝れ! サクにも、レイさんにも、ローゼンさんにも、他のみんなにも謝れ!」

 聞いているヒカルは、鉄柵を摑(つか)んで叫ぶカヲルの勢いに圧(お)されていたが、その声はどこまで届いているのかは分からない。ローゼンなどは疑いの眼でヒカルを見ている。

 カヲルがヒカルに要求する。

「そんでもって、今後は一切、俺の言う事を聞くって約束しろ」

「なんで、俺がお前の言うこと聞かなきゃなんねぇんだよ !?」

「俺が嘆願して、お前の罪を軽くしてもらう代わりに、俺が監視役を務めるんだよ。だから、とにかく謝れ。謝るんだ、ヒカル!」

 これは兄弟を救う最後のチャンスだと思うだけに、カヲルは必死だ。

「テメェ、俺に指図すんのか!」

 ヒカルにしてみれば、上から目線で言ってくるカヲルが気に食わない。反発する。

「ケッ! 誰が謝るか! 俺は悪くねぇからな」

 不貞腐れてソッポを向いたヒカルに、とうとうカヲルも愛(あい)想(そ)が尽きた。鉄柵から手を放す。

「……もう、いい。こんな奴、好きにして下さい」

 どこか投げ遣りなカヲルに、慎重なローゼンが念を押す。

「カヲル。本当に後悔はないか。兄弟の縁を切れば、俺たちはヒカルを他の四人と一緒に始末する事になる。武器を盗もうとした罪でバッサリとやる可能性が高いぞ」

 ルークも慎重になり、

「助命の嘆願をするなら、した方がいい。ヒカルは店(うち)と雇用契約のない外部の人間だし、鉄砲も盗まれずに済んだ。武器でなく、商品を盗もうとした『只の泥棒』として役人に突き出す事もできる。その方が罪が軽くて済む」

 そう勧める。

「うわっ。ヒカルだけ狡(ず)りぃ」

 と言う盗人の一人を、人足頭が一睨みして黙らせる。

『ほら、見ろ。兄弟なんだから、誰だって助けたくなるのが人情だ』

 と思うヒカルは片眉を上げて、離れようとするカヲルに疑問を投げかける。

「お前、本当に、俺がいなくても生きていけんのかよ?」

 その言葉で、ヒカルのえげつない本性に気付いたローゼンの表情が険しくなる。

『なんで、こんな場面でそういう事が言えるんだ……!』

「ハァ?」と、怪(け)訝(げん)な顔のカヲル。

 縛られた状態のヒカルが動きづらそうに立ち上がると、鉄柵に歪(ゆが)んだ顔を寄せて言う。

「いっつも迷ってばっかで、自分で決められねぇじゃん」

「…………」拳を握り締めて沈黙するカヲル。

 ヒカルとしては、美形で金持ちのローゼンなんぞに土下座だけはしたくないし、実のところ、いつもカヲルを低く見ている。

『ほら、どうした。カヲルぅ? テメェがローゼンに土下座して謝れ。「どうか、ヒカルを助けて下さい」ってな』

 という魂胆を持つヒカル。つまり、頭を下げるのは自分ではない。罪も無いカヲルに謝らせて、自分は無罪放免となる気だ。

「俺ら、二人っきりの兄弟だぜ?」

 ヒカルの「二人っきりの兄弟」という言葉で、また、情にほだされるカヲル。

『本当に、このままヒカルを罪人にしていいのか、助けなくていいのか。やっぱり、ヒカルを立ち直らせるべきじゃないのか。ヒカルには俺しかいないのに……』

 難しい選択を迫られて、胸の内で自問を続けて沈黙するカヲルの背中を、皆が見つめる。

 その時、サクの前に一羽の青い蝶が現れた。

 大方の者は蝶の存在に気付かないが、霊感の強いレイには、それが普通の蝶ではないと気付く。


── 鳳蝶(あげはちょう) ──


 金色(こんじき)の輝きに覆われた青い鳳蝶(あげはちょう)を見るレイの脳裏に昔の花畑の光景が浮かぶ。そこで見たのは、どこにでもいる黄色い揚(あげ)羽(は)蝶(ちょう)だ。

 おたふく顔の幼いレイに

「鳳蝶(あげはちょう)はな、神様のお使いなんやで?」

 あの時、母は笑顔で そう言った後、

「ほんでもな、本物はそう簡単には見してもらえん」

 その瞳は遠くを見つめた。


 輝く青い鳳蝶(あげはちょう)はカヲルの所へ飛ぶと、光る金色(こんじき)の鱗粉だけを残して姿を消す。その鱗粉がカヲルの頭の隣で『天堂カヲル』という筆文字を形作る。そして、その名前が上から砂のように崩れ落ちてゆく瞬間をサクの瞳が見ている。

『カヲルが “天堂カヲル” で無(の)うなっていく』

 それは、すなわち、

『カヲルの人生が変わっていっきょる』

 そんな予感がしたサク。しかし、最後の『ル』の一(ひと)文字(もじ)だけが残る。

『これは兄弟への……』


── 未練 ──


 と、気付いたサク。あと、もう一押しがいる。

『カヲルを助けたい!』

 そう願うサクがカヲルの背中に向けて叫んだ。

「カヲルみたいな優しい人は、もっと自分の気持ちを大事にせな いかん! 悪い人の言いなりにやこなったら いかん !!」

 カヲルがサクの方を振り向いた。サクの言葉に何かが腑に落ちる感触を覚える。

 周りには異国の言葉が分からない者が多いが、サクの切実な叫びが胸に響く。

 周りへの通訳も兼ねて、ローゼンがファルシアスの言葉でカヲルに自らの思いを伝える。

「サクの言うとおりだ! 悪人の言う事を聞いてやる必要なんて無い。優しい人間が悪人の為に犠牲になるなんぞ馬鹿げている。そもそも、これはヒカル自身の罪だ。カヲルが庇(かば)う事は無い!」

 カヲルの気持ちや、自らの立場から慎重な発言をしていたが、それがローゼンの本音だ。その言葉に檻の外にいる者たちは深くうなずいている。

 兄と同様に、さっきまで慎重に事を運ぼうとしていたルークも拳を握って叫んだ。

「そうだ! 喧嘩してたって、本当の兄弟なら、罪を犯してまで兄弟の足を引っ張るような真似なんてしないぞ!」

 自らの過去の兄弟関係と照らし合わせても、ルークにはヒカルの所業は非道に見える。

「俺やったら、親兄弟の立場が悪うなる事 思うたら、犯罪にやこ手ェ染めようとは思わへんけどな」

 と、剣の達人のレイはヒカルを睨み付ける。その鋭い眼光にヒカルの傍らにいた盗人仲間も震え上がる。今、レイの左手に長剣があるのはサクを守る為だけではない。

『事と次第によっては、こなな奴、俺の手で斬り捨ててやる!』

 武器を盗もうとしたヒカルを斬るつもりでいるからだ。

「俺なんて天涯孤独の身だけどさ、ちっとも寂しくなんかないぜ?」

 おどけたように肩をすくめるハッサンにはローゼンを初め、カラヤ商店の仲間たちがいる。

「わたしも家族とは仲悪いけど、無理に一緒にいる事なんてないよ!」

 そう叫んだのはモーだ。彼にも色々と事情があるようだ。

 力強い言葉をかけてくれる仲間たちの顔を見るカヲルの目に涙がにじむ。

 サクの護衛の一人であるキルスは

『なんだよ。サク様の一声で、一気に流れが変わっちまったじゃねぇか』

 と、内心で驚き、それは顔にも出ている。

 カヲルの気持ちがぐらつくのを恐れたヒカルが周りの声をかき消そうと躍起になる。

「なに言ってんだ! テメェら、黙れッ! カヲル! 騙されんじゃねぇぞ! お前、すぐに感化されんだから、気ィ付けろよ。やっぱ、お前は俺が見てねぇとダメだな」

 ところが、ヒカルの思惑は外れ、カヲルの怒りが爆発した。

「馬鹿にすんなッ!! 俺は、お前がいなくったって、生きていける!」

「ハァッ!? なんだと、偉そうに!」

 言い返すヒカルは気付いていない。カヲルはすでに自分の生き方を自らの意思で決めていた事を ──。


 飲酒事件の謹慎が解けて、サクに頼まれた踊り子姉妹への差し入れを届けた帰り道、

「サクが元気になったのは、きっと、ローゼンさんが遊び半分な気持ちじゃないからだ」

 と、気付いたカヲルは

「僕もローゼンさんを見習うよ」

 純粋な気持ちから、そう決めていた。


 腹を決めたカヲルの目が真っ直ぐにヒカルを見据(みす)える。

「今まで二人っきりの身内だと思ってやってきたけど、こっからは別々の人生だ」

 ヒカルの目が大きく剝(む)かれ、一瞬、意識が遠のくような感覚に見舞われる。

「こ…、こここここ、こら、待て! おい、待て! ちょい、待て! 俺を本気で殺す気かァ!?」

 動揺するヒカルがカヲルを繫ぎ止めようと必死になる。

「な? な? な? 考え直せよ、な? 俺が死んだって、何一つ良(い)い事ねぇぜ?」

 と、見苦しいヒカルは鉄柵に顔や体を擦(こす)り付けるが、バランスを崩して倒れ込む。

 それに同情するでもなく、カヲルは最後の一言を放った。

「あばよ!」

 そこには何一つ未練は無い。

 檻の前から離れるカヲルをヒカルが罵る。

「待て、待てよォーッ!! 兄弟を見捨てんのかよォー! この薄情モぉーン!」

 ヒカルの無様な姿を見て、気力を失った他の盗人たちもゴロンと上体を地に投げた。そのうちに、ヒカルも叫び疲れて大人しくなる。

 こうして、身内からの助命嘆願がなくなった。その上で、カラヤ家当主のカイトと六家の家長が五人の処分について話し合う。

「最新兵器の威力を知った上での犯行を考えると、軽い罰という訳にはいかない」

 と、カイト。

「確かに。役人に突き出す程度では事足りぬ」

「しかし、これだけの大罪だ。どうする?」

「ローゼンの意見も聞きたい」

『はっ!? なんで、そこでローゼンなんだ! こいつに関わる者の不祥事だぞ!』

 と、ブランは声を上げたいのを抑えて、顔を歪(ゆが)める。

 ローゼンは処分をどうするかを家長らに問われ、人差し指を天に向けて提案した。

「ここは一つ、荒野に放たれたハイエナに任せるというのは、いかがでしょう?」

 皆が頭上にある満天の星空を見る。

 家長の一人が腕組みして「うん…」と唸った後、こう言った。

「運を天に任せるか。我々ファルシアス人らしい始末の仕方だ」

 また、別の家長は、こう言う。

「罪人ゆえ、このまま死んでも良し」

 と広げた右手を見つめると、次に左手を広げて、その先を見つめる。

「運良く生き残っても、その後の生き方を ──」

 そして、星々が輝く天を仰ぐ。

「天に問われる事になるだろう」

 賛成する家長らの口からは、ファルシアス人の死生観を窺(うかが)わせる言葉や、意味深長な言葉が紡ぎ出される。

「皆、異論は?」

 という当主カイトの重々しい問いに、家長らは「同意!」と答えた。それに、前当主のローキは腕組みして黙って うなずいている。

 人の生き死にを左右する残酷な場面である為、リナはサクを気遣って肩の辺りをさするが、カーラは肩をすくめて「当然だね」と言った。

 ヒカルたち盗人の処分が決まり、ローゼンとルーク、連行する人足たち以外はテントへ戻る。

「さて、寝るとするか」

「ご苦労だが、後を頼むぞ。ローゼン」

「はい」と、ローゼンは家長らに返事する。

「終わったら、朝もゆっくり休め」

 と、中にはローゼンの肩を叩いて労(いたわ)る家長もいる。

「ありがとうございます」と、ローゼン。

 重鎮らの覚えめでたきローゼンに苦々しい思いで、ブランは「じゃあな」と無愛想に言って去る。そんな息子に難色を示すライトは甥のローゼンやルークに「お疲れ様」と言って帰る。

 ローゼンの父である当主カイトや、祖父で前当主のローキは

「よく防いだ」

「見事だ」

 短い言葉でローゼンらを労(ねぎら)った。それに、

「みんなの働きが良かったからだ」

 と、答えるローゼン。横でうなずくルークは内心で『そういう配慮は、さすが、兄さん』と、恐れ入る。

 息子らに微笑で答えたカイトは、人足らに声をかける。

「みんなも始末を終えたら、ゆっくり休んでくれ」

「へい!」

 当主と前当主を見送る人足らが威勢よく返事する。

「お疲れ様。みんな、後で ゆっくり休んでね」と孫たちと人足らを気遣うリナや、「お疲れ〜」と息子たちの肩を叩いて、人足らに手を振るカーラにも、「へい! ありがとうございます」と人足らが挨拶する。

 ハッサンやモーも、ローゼンたちに「お先!」「お先に失礼します」と言って去った。

「フーン…。大変やったな」鼻息ついて言うレイには、

「まぁな」「うん」と笑って返すローゼンとルーク。二人は事件が一段落(いちだんらく)したので、武器の流出を防げた事に今になって、ほっとしている。

「あんな馬鹿の為に、お手数おかけします」

 と頭を下げるカヲルに、ローゼンは「気にするな」とだけ答えた。

 サクも「皆さん、お疲れ様です」と挨拶すると、人足たちから「へい! 若奥様」と当然のように返されるが、サクはまだ呼ばれ慣れていないので、気恥ずかしそうに ほほを人差し指でかく。

「おやすみ。サク」

「サクも、お疲れ」

 ローゼンとルークのカラヤ兄弟の笑顔に安心したサクは笑顔で「おやすみ」と手を振ると、すぐそこで待つ兄レイと共に戻る。キルスら護衛もローゼンらに挨拶すると、サクに続く。

 サクは去り際に、もう一度、ヒカルを見たが、

『ヒカルの未来、見えへん……』

 地面に額を付けて、

「くそぉ、くそぉ…! なんで俺がこんな目に……」

 と、泣き崩れるヒカルの未来は何一つ見えなかった。


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