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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ここはなにかが欠けている

落としもの

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/04

冒険者が初期に請け負える雑用依頼に、清掃業務がある。


重要とはいえ、誰もがあまりやりたくない仕事という事もあり、

冒険者の中でも見習い以外はあまり手を付けようとしないが、

逆に言えばたとえ見習いでも受けられる依頼とあって、

彼らの中では受ける者が多かった。


だが、そんな清掃業務でも、見習いの受けられないものがある。


下水清掃。

同じく水関係では水路清掃があるのだが、こちらは見習いも可。

だが視界の利かない下水溝では、その危険度が格段に上がる。

周囲もろくに見えず悪臭漂う中で、汚水に浸かりながらの仕事。

清掃の中でも飛び抜けて不人気だが、やらぬ訳にもいかない。


よって、年に何度か「強制的に」指名依頼が発生するのである。

大抵はそれを立場上断りづらい、下級冒険者達に。



今回も、不満顔の一つ星、二つ星が二十人ほど集められていた。

特に不満が大きそうなのは、女性の魔術師達。八人もいる。


薄暗い中、清掃作業を行うために当然照明が必要なのだが、

松明や蠟燭は使えない。誤って下水に落とせば消えるからだ。

さらに、以前下水内に松明を持ち込んで爆発事故があった。

理由は分からないが、幾度も事例が続いたため使用は禁止に。

必然的に《付き従う灯り》を使える魔術師にお声がかかる。


そして、魔術師はほぼ全てが貴族か準貴族の出自であった。

名ばかり貴族とは言え、不潔な暮らしだった訳ではない。

かなりの心理的抵抗があるのだ。女性であればなおさらだろう。


もっとも逆に貴族出身であっても、三つ星以上に上がった者は、

汚物まみれの戦闘も、男女の雑魚寝も、気にしなくなってくる。

非常時に見栄や外聞や羞恥心など無意味だ、とばかりに。


ちなみにこの翌月から。

安価な魔道具照明が売り出され、特に女性下級魔術師は喜んだ。

「もう下水清掃に指名されても堂々断れるぞ」と。



時は戻り、今。

駆り出されて不満顔の連中をよそに、表情の明るい者がいる。

ひょろりとした二十歳の一つ星、手槍使いのアンバという男。


他の者は変わった奴だと思いつつ、特に理由は聞かなかった。

せいぜいが「仕事にあぶれていたので嬉しいのか?」程度だ。

実のところ彼の意識は清掃ではなく、別のところにあった。


前回、強制参加を喰らったアンバは、当初当然不満顔だった。

それでも仕事には違いない、不真面目とは言えないギリギリで、

アンバは下水を網で攫い、そりで汚泥を運んでいたのだが。


泥の中に、何か光っているものを見つける。大銀貨である。

それも一枚二枚ではない。清掃後に数えてみれば二十一枚。

数か月は何もしないで普通に暮らせる額だ。


アンバは汚泥まみれのそれを懐にこっそりねじ込んだ。

どうせ誰のものか分からねぇんだ。有難くもらっちまおう、と。


周囲には何かの金具なども結構落ちていた。

集めれば結構な小銭稼ぎになったのだが、アンバは無視した。



今回も、前回の場所を希望して網で汚水を攫う。

前に見つけられなかった大銀貨がまだあるかもと思いつつ。

魔術師達はここから離れた場所にいるので、手元は薄暗い。


何かが網に引っかかった。いつもの泥よりちょっと重量がある。

大物か?ひょっとすると大銀貨じゃなくて金貨かもしれない。

逸る気持ちを抑えながら、丁寧にボロ布で泥をぬぐう。

腕輪だった。見た感じ銀色でかなり値打ちものに見える。


いや。腕もついてきた。正しくは腕の骨がついてきた。

なにかやばい。目を凝らせば人骨があちこちに散らばっている。

雑に作業していたのが災いした。ここは未知の何かの寝床だ。


ここを離れよう、と決めた瞬間、アンバの視界は暗転する。

上から落ちてきた黒いものに全身を覆われた。身体がしびれる。

声も出せない。これを最後に、アンバの意識も途絶えた。



清掃作業終了を大幅に過ぎても、男が一人戻って来ていない。

現場監督の冒険者が、その男の担当区域に行ってみれば、

そこには無数の人骨と、男の冒険者認識票が落ちていた。


食性変異したスライムが一体確認され、その場で駆除される。

行方不明の男は、消化されたと判断。冒険者登録も抹消された。


下水清掃は危険が伴う。視界の悪さ、足場の悪さだけではない。

魔獣が棲みつくことも稀にあり、だから指名依頼となるのだ。

アンバは気づけていなかった。最後まで。

この世界のスライムは攻撃の際に溶解液を放ちますが、獲物は包み込んで窒息させています。

大抵は死肉や腐肉を食するスカベンジャーですが、変異すればその限りではありません。

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