四方 楓
うちは今日、21歳になった。――たぶん。
――いやまぁ、スマホの日付は合ってるはずやから誕生日ではあるんやけど。
――でも、今日が誕生日なんやとしても正確に言うとうちの年齢はは5周と1年やなぁ。
これだけ聞くとみんな不思議がりはるんやけど、誕生日言うたらみんな納得してくれる。
っちゅうか、みんなは3月1日に祝ってくれるけど、爺ちゃんだけは2月28日に祝ってくれるってこともあって、わかりにくい。
――そう、うちが生まれたんは2004年、うるう年の2月29日。
だから実質、誕生日は4年に一度しか来ないちゅうことや。
「おはよう、楓。元気しとったか?」
聞いたことがあるの声がしてそっちを見ると、見慣れた、白髪で皺だらけの顔が目に入った。
「ん、あぁ......爺ちゃんか。うちはまぁ......元気っちゃ元気や。」
「そっか......」
一瞬、爺ちゃんの表情が曇って、沈黙が流れた。でも、すぐにいつもの笑顔に戻っとった。
「――楓、今日が誕生日なんやろ?」
「まぁ……そう、か。今日はまだ1日足りひんけどなぁ。」
笑顔を作る。また一瞬、爺ちゃんが悲しそうな顔になった。
「入院生活も少しは慣れてきたんか?」
「飯がクッソ不味いこと以外は慣れてきたでぇ。」
「体調は大丈夫か?」
「喋ってると、少し息が上がってきついくらいや。心配せんでええよ。」
「......わかった。無理だけはせんといてな」
「はいはい。ところで……プレゼントは、何持ってきてくれたん?」
「はぁ......やっぱり楓は変わらんなぁ。」
爺ちゃんは笑ってそう言って、一本の扇子をうちに差し出した。
「――扇子? なんで......?」
「まぁまぁ、開けてみぃ。きっと喜ぶはずや。」
扇子を受け取って、開こうとした。
けど、指がうまく言うことを聞かへん。
「あー、もう……クソ......っ。」
扇子を受け取ったときに握った指は、すぐには開いてくれへんかった。
少し待ってから、ようやく指が動く。
「今日は調子悪そうやな」
爺ちゃんが苦笑した。でも、爺ちゃんの口元は少し引きつっとった。
「まぁ......な。たまにこうやって、指がストライキ起こしよる。」
扇子を開いてみた。真っ白な扇面に、赤と黄色の綺麗なグラデーションがかかった葉っぱがいっぱい舞っとった。
「これって......楓の葉っぱ?」
「そうや。楓、落語好きやろ? せやから喜んでくれそう思て買うてきたんよ」
「なんや、うちの名前......そのまんまやないか。」
自然にうちの口元は緩んどった。
「まぁ、でも......ありがと、爺ちゃん。」
「――おう! 楓も早よ元気なってな......」
「うん……」
「......じゃ、明日のために今日はゆっくり休みぃ。爺ちゃんは帰るから。」
「――明日?明日ってなんかあったりするんか?」
「アホ。明日なんて生きてりゃ誰のもとにも来るんや。だから、毎日全力で生きる。これは忘れちゃあかん。」
「......わかった......」
「ほな、またな」
そう言って、爺ちゃんは病室を後にしてった。
「――扇子......ねぇ。」
扇子を閉じて、ベッドの隣のテーブルに持っていく。
「あぁー......今日は調子悪いなぁ......」
また指がサボって開いてくれへん。でも、ちょっとしたら開いた。
「なぁーに見っかなぁ......」
扇子と交換で、テーブルに置いてあるスマホとタッチペンを手に取った。
うちにとってこのタッチペンは必需品みたいなもんや。ずっと持ってるだけでスマホいじれるからなぁ。
You〇ubeのアプリを開いて、なんとなく阿悪川多熟師匠の『芝浜』を再生した。
スマホをテーブルに置いて、天井を見上げる。見飽きたくらいの、無機質な白い天井や。
広告が終わって聴き始めてたら、ふと耳に引っかかる言葉があった。
『起きて半畳寝て一畳、天下とっても二合半。』
「......なんやそれ。」
――思わず呟いた。




