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第三話

顔が冷水に晒され、少し落ち着きを取り戻した。

なんとなく目の周りが重たい気がする。


「目の赤み、全然取れないじゃないか……」


ネットで『 泣き跡 消し方』と検索し、片っ端から試していくが、まるで効果が無い。

こんな顔で戻ったら、きっと驚かれてしまうだろう。

病室に戻ったあと、秋奈はきっと──



あまりにも当たり障りのない反応に、逆に傷ついてしまいそうだ。それに、違和感を持たれてしまうのは確定事項だろう。

だからといって、このままトイレに籠っているのも得策ではない気がする……。

最後にもう一度顔を洗い、意を決して病室に戻ることにした。



※※



「おかえり、随分時間かかったね」


一瞬驚いたような表情を浮かべていたが、直ぐに元通りの笑みに戻った。


「もぉー、響輝が戻ってくるの遅いから運動の時間に

なっちゃったじゃん」


上目遣いがちに、拗ねたような声で言った。


「運動するって言ってた日って、今日だったのか」



出来ることなら、もっとずっと一緒にいたい。

そんなイベントほっぽり出して、僕と話していて欲しい。


……どうせ、秋奈の身体じゃ運動なんて出来ないんだから。




「せっかくだけど、今日はここまでだね。また遊びに来てくれる?」


愚問だな。なんなら、呼ばれてなくても会いに行くだろう。


「もちろん。明日はロールケーキでも買ってくるよ」


「あ、ごめん……明日は一日中検査があるから……」


そうか、検査か……

さっきまでそんな話は無かったはずだけど。

僕がトイレに行っている間に何かあったのだろうか。

こういう突然入った検査の後は、いつもしばらく会えなくなってしまう。


「そっか。じゃあ、大丈夫になったら連絡して」


「うん、ごめんね……」


いつにも増して弱々しい態度だ。

なんだか胸がモヤモヤしてくる。


ベットの端に座り、秋奈の手をそっと握る。なんだか、そうしないと後から後悔するような気がした。


「別に大丈夫だから、あんまり無理するなよ」



秋奈が目を大きく見開く。少し茶色がかった美しい瞳孔に、丸い光が差した。

もしも無理して症状が悪化してしまったら、秋奈の前に僕の精神がどうにかなってしまうだろう。


「じゃあ、また。安静にね」


「うん。またね……」



※※



お腹空いてきたな…… 帰る前に何か買っておこうか。


階段を降りる音が静かに響く。一階まで降りてコンビニに入った。

おにぎりと水と……あとゼリーでも買っておこうか。

金額を気にせず、 欲しいものをどんどんカゴに入れていく。なんだか、最近やけに食べる量が増えてきている気がする……


「合計、千八百五十円になります」


ササッと会計を済ませてコンビニを出る。

……少し、中庭でも寄っていこう。




身長よりも遥かに大きい窓が幾つも続いている。初夏の穏やかな陽気が中庭を包んでいた。


「ほら見て、秋奈ちゃん。シャボン玉!」


数多のシャボン玉が虹色に輝いて空へと上っていく。

秋奈の元に、大きなシャボン玉が流れて行った。


「このシャボン玉、手袋すると触れるんだよ」


「えっ!そうなの?」


シャボン玉をしていた青年が、手袋を秋奈の手にはめている。至近距離で笑い合う姿は、とても幸せそうで──

手のひらに乗せられたシャボン玉に、二人の顔が反射して見える。



「僕なんかがいなくても、十分幸せそうじゃないか……」




声をかけようとして、やめた。

袋の持ち手がどんどん皺くちゃになっていく。



呼吸が、上手く……




「あの、大丈夫ですか……?」



薄っすらと誰かの声が聞こえてくる。看護師なのか、はたまた患者なのかすら分からない。


白光りする床だけを視界に、精一杯の早足で病院を出た。


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