005
「お疲れ様でした」
「お疲れ様~」
今週も終わったな。
恋人もいない、友達も近くにいない。
金曜日の仕事終わりに飲みに行くこともない。
金曜日の夜なんて、土日なんて楽しみにしたこともないな。
社会人になって10年以上。
俺は何を楽しみに生きていくんだろう。
妄想以外に何もないのかもしれない。
憧れすぎたのか妄執しすぎたのか。
キラキラ輝いて苦しくて甘い恋に拘りすぎたのが間違いだったのかもしれないな。
もうどうにもならんか。
このまま俺は一人で生きていくんだろうな。
祖父母も両親も死んだ。
兄弟はいない。
親戚付き合いもしていない。
本当に独りだ。
悲しい……違うな。
虚しい……違うな。
全てを諦めたような感じなのだろうか。
もう、何もかもわからない。
「いらっしゃいませ!」
なんで俺はここに来たんだ?
「あっ、またいらしてくれたんですね!」
この子に会いたかったのだろうか。
「今唐揚げが出来上がったところなんです、良かったらいかがですか?」
眩しいな。
笑顔が眩しすぎる。
学生の頃の気持ちを思い出す。
いつもワクワクしていた。
毎日期待していた。
何かがある。
今日こそ変化がある。
「唐揚げはお嫌いですか?」
いかん、何をぼーっとしているんだ。
妄想してたわけでもないのに意識を飛ばすな。
「こんばんは、また来てしまいました」
「いつでもいらしてくれたら嬉しいです!」
社交辞令、社交辞令なんだ。
期待するな。
何もないんだ。
「お仕事帰りですか?」
「はい、仕事が終わったのですぐに帰ってきました」
「毎日お疲れ様ですっ」
職場で言われるお疲れ様と全然違う。
誰に向けられたか分からない、ただお疲れ様と言ってるだけのセリフと全く違う。
俺だけに向けられたそのセリフに、今まで感じたことがない感覚に包まれた。
これはなんだ……
落ち着け、何もない、なんでもないんだ。
「あ、ありがとうございます……」
「どうかされましたか?」
「い、いえ、なんでもないんです!あ、そ、そうそう、唐揚げ美味しそうだな~って思って。だから買おうかな、なんて考えたんですよ!」
何言ってんだ俺は。
上手く誤魔化すことも出来ないダメな男だな。
「私もここの唐揚げ好きなんです!とっても美味しいですよ!」
「ありがとうございます、じゃあ他のも見て、会計の時にお願いします」
「ごゆっくりどうぞ!」
元気だなぁ。
学生ってこんなに元気なんだろうか。
それともこの子が特別なのか?
まだ名前も知らないけどな。
「唐揚げひとつですね!ありがとうございます!」
「はい、ひとつお願いします」
「785円になります!」
「現金で」
「はい!215円のお返しになります!」
「はい、どうも」
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございます」
会釈して帰る、この前と何も変わらない。
それでいいんだ。
それで……
「あっ、そうだ、お名前聞きたかったんです!」
「え?」
「私、小泉桃香です!」
「あ、はい、私は川村圭です」
「えへへ、やっとお名前聞けました!」
────な、なんだ
雷が落ちたような、痺れたようなこの感覚はいったいなんなんだ。




