004
「あ、いらっしゃい、ませ……」
落ち着け!
アナザーワールドに勝手に行くんじゃない。
家まで我慢するんだ。
偶然、本当にただの偶然だから気にするな。
「ど、どうも……」
「袋はご利用なさいますか?」
「いえ、大丈夫です」
何もない、何も起こらない、ただの店員と客だ。
「536円になります」
「現金でお願いします」
期待することなんて何もない。
本当にただの偶然なんだ。
「ありがとうございました!」
「はい、ありがとうございます」
軽く会釈して帰る、これでいい。
少し話したことはあるが、無関係なんだから……
「やっぱりオープンキャンパスで道案内してくれた方ですよね?びっくりしちゃいました」
「あ、あはは、本当ですね」
やめてくれ、話さないでくれ。
「私、すごく心細くて……だから嬉しかったんです!」
そんな事言わないでくれ、妄想じゃないのに……
「本当に本当にありがとうございました!」
「いや、私もお仕事なので。助けになれて良かったです」
ほらみろ、俺はこんなことしか言えないんだ。
気の利いた、少女漫画の王子様のようなセリフなんて言えないんだ。
いつも妄想してるはずなのに、現実の俺はこんなもなんだ。
「良かったらまたいらしてくださいね!私結構シフト入ってるので!」
「はい、ぜひ寄らせてもらいますね、それじゃ」
社交辞令、また来てくださいなんて社交辞令なんだ。
何もない、何もないんだ。
「ただいま……」
誰もいない一人暮らしのワンルーム。
俺の声が闇に溶けていく。
虚しいな。
カップラーメン……食べようかな。
風呂も沸かしてみるか。
今日は何も考えたくないな。
湯船に浸かってボーッとしよう。
「またいらしてくださいね、か……」
湯船に浸かり声を出してしまう。
また、を期待している俺がいる。
何も考えたくなくて湯船に浸かっているのに思考が妄想が止まらない。
女子高生だぞ相手は。
やめろ、考えるな。
いつから俺はそんな趣味になったんだ。
消えない、やめようと思っても消えないあの子の笑顔。
何度も脳内で再生されるあの子の元気な声。
「はぁ、疲れてるんだろうな。発散して寝よう……」
風呂に浸かってもどっと疲れた俺は、風呂上がりに、そのまま発散もせずに寝落ちていた。




