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脈打つ心臓は規則的に動き、心電図はそれを記録し続ける。
琴里は百八十センチほどの液体が浸かったボトルを眺めた。
中に入った男はXという人間。言い換えれば、人工人間とも言える。
百年前に宇宙組織に奪われた勝利と禁書を取り返すため、琴里は働いている。
琴里は千年に一人の逸材と言われるほど腕のある博士である。上層部から「Xを目覚めさせろ」と命令された時、執事から差し出された札束を見て、琴里はこの仕事に就いた。
聞くには、Xは生きる兵器になる予定で八十年前から造られているらしいが、どうも目覚めず育つだけ育ってしまったらしい。
この仕事に就いて十二年、琴里はXが目覚めたのを見たことがない。
ただ進化した科学と医学の力で生かしているが、それは形の上で、実際に活かせた試しがない。
ごろごろと沢山の戦士が死んでいく中、Xだけはのうのうとスヤスヤ眠っている。
琴里は口に入れた飴を転がしながら胸ポケットに入ったペンをノックし続けていると、突然ボトルの中のXは目を開けた。
「…え?」
琴里が驚愕呆然としていると、Xはゆっくりと瞬きをして沢山の管や糸が引かれた腕をボトルに当てて琴里を見つめた。
肺に水が溜まっているせいで喋るにも喋れないが、弱い力で叩かれるボトルはまるで琴里の心のように揺れている。
「Xボトル緊急解除!」
感心したような、なんとも形容し難い感情でXを眺めていた琴里だったが、ハと我に返り、そう叫ぶ。
探知機がその声に反応してボトルの蓋を開けると、浸かっていた液体の匂いが部屋に充満した。
Xは引かれる糸や管を千切り、ボトルの蓋に足をかけた。
琴里は溢れて床に落ちる液体に目もくれず、ただXを凝視していた。それはXも同じである。
「初めまして」
目の前の状況に半信半疑になりながら琴里は呟いた。
乾いて上擦った声が部屋に響き、Xはその声にゆっくりと瞬きをして聞いたあと、ぼんやりと呟いた。
「…よう、琴里さんよ」




