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9章 残酷な仮説

フランチェスカ研究所ー


中央官制室を出た先で、肌色の巨体が横たわっていた。

風穴が空き、中からは透明な液体が垂れている。


そこへ白い吸引器が当てられ、減圧される。


傍らでは、リー大佐が警戒するように周囲を見回し、

グレルが回収ボックスを構えていた。


吸引器がしばらく唸るような音を立てた後、回収ボックスに、カランと音を立てて青い石が入った。


白いしなやかな手が、石を取りす。

中核を手にしたのはフランチェスカだった。


その背後から、足音がかけてきた。


「カリン・リーニャより報告。」

アンバーの声だった。


「特級クラスのМ体が南下し始めたようです!」


フランチェスカは、微動だにせず、こちらに背を向けたままだった。

アンバーは、声をおとした。


「中核弾のご準備を」

「無理です」


即答だった。上品に柔らかな声が、余韻のように残る。


フランチェスカは、やっと振り向いた。その手には青い石が握られている。

口元は歪み、不敵な笑みを浮かべている。


「...え?」

アンバーの口から、低い戸惑いの声が漏れた。


「無理です」

フランチェスカは硬い笑みを浮かべたまま、再び繰り返した。

「研究所を…守らねばなりませんからー」


「中核は戻します。中核弾は撃ちません」


フランチェスカはそう言うと、グレルに中核を手渡した。

「研究所の守備を最優先で進めてください」


「なるほど...」

アンバーは俯いた。

「研究長...この場合、科学倫理を逸脱したということで」

小さく呟きながら、腰のサイドアームに手をかける。

「有形力の行使は許可されています」


「そうですか」

フランチェスカの笑みが消えた。

「リー大佐!」


その声と同時に、待機していた大佐が動いた。

次の瞬間ー

サイドアームは彼の手中に奪われた。


アンバーは反動でよろけ、腕に走る痛みに苦悶する。


フランチェスカがゆっくりと近づいてきた。

腰をおろし、視線をおとし、優しく諭すように言う。


「いいですか?よく聞くのです。

特級クラスはー中核では倒せません」


腕をかばいながら、フランチェスカを見上げると、彼女はまっすぐ立った。


「サイズが違います。人間に小石を投げたのと、象に投げたのでは違います。」


「以前門前まで接近してきたМ体ー

今回施設を襲撃してきたМ体ー

サイズが違いました。」


フランチェスカは、アンバーを見下しながら、歩き出した。


「しかし、内部構造と膜の比率は同じ。

つまりサイズが増せば増すほど、中核弾が食い込む威力は減衰します。」

ぴたりと足が止まる。


「体積比を加味し減衰率を考えればー無理です」


アンバーは深く息を吐いた。

「他に...手段はありますか?」


フランチェスカは、大佐からサイドアームを受け取ると、アンバーの腰に戻した。

そして、その乱れた服の襟元をそっと直す。


「中核で倒せないなら、我々にはー倒せません」

フランチェスカは、優しく微笑んだ。


「なぜですか?」ー


◇◇◇


ゴンドラの上。


正面の窓から、М体が近づいてくる。ゆっくり、しかし確実に輪郭は大きく迫ってきていた。


ゴンドラはわずかに左右に揺れ、床に伝わる低い振動が手元にじんわり響く。


その時、無線機が鳴った。

『こちら、アンバー・クレバー』

 

すぐさま無線機に飛びつく。

「こちらカリン・リーニャ!」


無線機ごしに、アンバーは言う。

『カリンさん。特級クラスじゃおおきすぎて倒せません』


カリンはエリカと顔を見合わせた。

こめかみに指を当て、小さく呟く。


「何か...方法はあるはずだよ。

物体なら破壊できるはず」


『普通の物体じゃ...ないんです。』


「え?」


無線機に一瞬ノイズが入った。

アンバーが低い声で言う。 


『4次元立体なんです』


その瞬間、カリンの思考が停止した。

瞳は一点を見つめたまま止まり、世界から色が抜けたように感じる。


「4次元...立体?」


『可能性の話です。

加速度が合わないこと。

それから、原子がないこと。

それらを加味すると、可能性として浮上するそうで』

   

『あーもう』

無線機の向こうで、頭を抱えるアンバーが浮かんだ。


『よく分からないんですが、 

何とかならないんですか?』


カリンは小さく頭を振った。「ない...」

小さく消え入るような声だった。


「...ないかも」

頭をふりながら、目をつぶる。


「なりませんね」  

エリカが隣で頷いた。


『何か、何かないんですか?もっと考えましょうよ!』


エリカは話し始めた。

「3次元の立方体を考えてみてください。2次元平面に薄くスライスしていけば、立方体は消えます。ですがー」


「実際の2次元は厚みがありません。スライスしてきり刻むことはおろか、傷つけることもできません」


「立方体がМ体であるならば、2次元は私達。私達にはどうしようもありません」


カリンは黙って聞いていた。


脳裏で、体液の噴射する瞬間がかけめぐる。

あの時、確かに風穴が空いた。


「……待って」声が思わず漏れた。

「そのМ体を傷つけられたってことは――」


エリカは頷いた。

「中核も、4次元立体である可能性があります」

 

カリンは無意識に懐に触れていた。


じゃあ、ここにある青い石も、あの得体のしれぬ怪物ーМ体と同じ次元のものなのかー


しかし、今の状況で、それは無意味な気づきだった。特級クラスじゃ、中核でも威力が足りない。


『とにかく、救助に向かいますから待機しててください』

アンバーの無線が切れる。


「待ってられないよ、ここから出なきゃ」


カリンは立ち上がる。

視界には、窓の向こうから迫りくる巨体が映っていた。


「下手に出たら、捕食対象がいるとみなされます」


カリンは大きく首を振った。

「М体は、このゴンドラを狙っている」


エリカが眉をひそめる。


「正確には、この下のロープにある肉食花を...!」

カリンは指を透明床につきつけた。


「分かりました。ロープを切りましょう」

エリカが踵を返し、後方デッキに向かう。


いやー

何か、何かが違う。


カリンは思考を巡らした。前髪をこめかみに押し当てながら、必死に考える。


肉食花は、利用できるかもしれない。


「ま、待ってエリカちゃん!」


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