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1章 魔法の青い石

この惑星は、あと50年。

死領域が、すべてを呑み込もうとしていた。


◇◇◇


タイル張りの並木道の向こう、メゾン荘を背にして、アイリーが振り向いた。


「カリンちゃん、行くよ」


カリンはつないでいた手を振りほどき、足元の石ころを拾い上げた。

ポケットはもうぱんぱんで、歩くたびに小さく音がする。


「もう、そんなに拾って」

アイリーは小さく頬を膨らませ、すぐにくすりと笑う。


「行くぞー」

遠くから、父の声が飛んできた。


風が吹いた。

甘いアイリスの香りがふわりと香る。


アイリーは、カリンの隣にしゃがみこみ、

一緒に石を拾ってくれた。


「魔法の石、どれかなぁ?」

小さな声で、カリンが聞く。


「また一緒に見つけよう」

アイリーはそう言って、にこりと笑った。


それからほどなくして、魔法の石は見つかったー

のかもしれない。


その石の謎を知るため、カリンは科学者を目指したのだ。


◇◇◇


そして現在――カリン・リーニャ、17歳。


科学国アクアのエメラルド研究機構、その職員となった。

入職試験は最下位。電気工学が苦手だった。


配属先は、北極圏外縁。


死領域近傍――窓際研究者の墓場と噂される場所。

そしてなにより、命の危険があった。


カリンは今、ゴンドラに乗りそこへ向かっていた。


窓の外、街はいつの間にか消えて、放牧地帯に変わっていた。


日が暮れ空は群所色。

この辺りは街灯もなく、空には零れ落ちそうなほどの星々が瞬いていた。


「石だぁ」

カリンの丸い目が輝いた。


――お星様は、空に輝く石なんだよ


アイリーの柔らかな声がした気がして、カリンはそっと、懐に手を入れた。


取り出したのは、青い石。

星明かりを受けて、淡く光っている。


この石こそが、カリンの好奇心を掻き立て、研究員の道に進ませたのだ。


カリンは、石を上に投げてみた。


石は――止まった。

一瞬だけ、宙で。


そして、手のひらに落ちてくる。

なぜか、少し温かい。


もう一度投げる。

今度は何も起こらない。普通に落ちてくる。


「...なんでかな?」


もしこれが、この石の性質なのだとしたら、なぜこうも規則性がなくランダムなのだろう。


原因があるから結果が確定する。これが、人間の無意識にある当たり前の理論である。


人々はそれを利用し、科学を発展させ、世の中を便利にしてきた。


だが、秩序なく勝手にランダムに結果だけを生む。そんな存在が果たして、実在するのだろうか。

もしそうだとしたら、それを"魔法"と言わず、何と言うのだろう。


考えが頭を駆け巡るうち、いつの間に眠ってしまった。

目を覚ますと、辺りは薄っすらと明るかった。


低木が点在し、ところどころに白い部分が見える。氷河の名残だ。


ツンドラ地帯まで来たということは――

カリンは顔を上げた。


遠く、荒涼とした大地の真ん中に、巨大な建物が見えた。


配属先――フランチェスカ研究所だ。


しばらくして、ゴンドラは減速し、無機質なアナウンスが流れる。


「機密エリアのため、施設の手前で停留します」


停留所は、石垣が積み上げられただけの簡素な場所だった。高所なのに手すりも鎖もない。


カリンは外套を羽織り、外に出た。


瞬間――冷気が肌を刺した。


「さ...さっむーい」


息が白い。


南の方、アクアへと戻っていくゴンドラを一瞬見送った。地平線のずっと彼方に、あの華やかな街があるなんて信じられなかった。


風が、容赦なく吹き荒れ、栗色の長い髪がなびく。


カリンは長い階段を降り、むき出しの地面に足をつけた。


目の前には巨大な施設。地平線に浮かぶその姿は、圧倒的だった。


カリンは歩き出した。

ゴンドラの路線は、北へ北へと続いていた。使うことなんて、あるのかな。


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