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始まりの夢⑦

「いいかいホルフ。 城は岸壁の上に建っているから、侵入ルートは正面門からの道しかない。

 船で行く事はもちろん、波の高い崖を登ることも不可能だからね」


 準備の為に城の第一門まで来た二人は、城前の広場にある城の見える酒場に入り、今後の事を相談していた。

 城に辿り着くには、まずこの第一門の関所を悟られずに通過する必要がある。

 第一門の扉は常に解放されていて、門番が左右に二人づつ立ち、通行証の確認を行っている。

 通常の場合、出入り出来るのは貴族階級の要人か、城内で使う物資の運搬に限られる。

 次の第二門は岸壁に続く登り坂の上、城全体を囲む城壁の場所にあり、吊り上げ式の橋が備えられている。

 第一門を敵が突破した場合には、すぐに橋を上げ、城壁上から敵を迎え撃つ。

 第一門から第二門までの距離は長く、馬の足をもってしても、閉ざされる前の第二門に辿り着くことはできない。

 この第二門も常に解放されている。

 第二門をくぐれば、大概の用事は済ませられるようになっていて、物資等は担当の者が出向き受け取る。

 捕らえられた者も、第二門の中の収容施設にいる。

 そして、第三門として城内に入る為の固く閉ざされた門がある。

 ここを通るには厳しい検問が必要で、貴族であろうとすんなり通り抜ける事はできない。

 まして平民が通ることはなく、城内では全員が顔を周知しており、一人でも知らぬ者が居れば、すぐに拘束されてしまう。


「ゼルが収容されているとすれば、やはり第二門内の収容施設だろうね」

「けど鍵はどうするよ。 鍵の掛からない場所に、衛兵の見張りだけってことはないだろう?」


 ホルフの話に、ソルシャはニヤッと笑う。


「斧でぶっ壊す!」

「はぁ!? ちょちょちょ!」

「うろたえるんじゃないよ。 無策のまま叩き壊すわけじゃない。 これを使うのさ」


 そう言って家から持ってきた大きなカバンをホルフの方に移動させた。


「なんだよ、これ・・・!?」


 中を見て、サーっと血の気が引く。


「花火玉だよ。 それと音玉」


 花火は言わずと知れた夜空に咲く火の花。

 音玉とは、ハンターが敵の威嚇や獣を追い立てる時に使う小さな火薬玉で、音は凄いが爆風による殺傷能力はほぼ無い。

 花火には鉄の筒が必要になるので、このままでは打ち上げられないが、音玉は飛び出している導火線に火をつければ使える。

 それぞれ鞄の中に10個づつ入っていた。


「音玉はともかく、花火はどうしたんだよ!」

「大祭でくすねた」

「はぁ!?」


 驚きつかれたホルフは、額に手を当ててやっと声を出す。


「・・・何のためにだよ」

「なぁに、ゼルがめでたく医者になったら、故郷の村で盛大に夜空を飾ろうと思ってねぇ~」

「なぁ・・・これ、ちゃんと保管してあった?」

「保管?」

「湿気の多いこの王都で、そのまま置いといたら数ケ月で使えなくなるって、音玉の使い方に書いてあったぞ?

 それと花火が同じなら、数年後使った時に、良くて不発か、最悪玉に巻いてある物が劣化して大爆発だ」

「へぇ~」


 ソルシャは気にする様子はなく、「今使えればいい」という答えが顔に出ていた。


(・・・・・。 ゼル、お前のやらかしのおかげで、村は救われたぞ)


 ホルフは腕を組みしみじみ思う。

 だが、その後村は財政難となり、ゼルが卒業するまでに全村民が近くの町に移住する事になってしまう。


「それじゃ、そっちは頼んだよ。 景気よく花を咲かせておくれ」

「・・・え、・・・オレ?」

「あたりまえだろう? あたしは城に忍び込むんだから他に誰がいる?」


 昨日今日会ったばかりの他人と違い、その目を見れば本気かどうかはすぐわかる。

 ホルフは渋々首を縦に振った。


「・・・わかった。 だけど、どうやって打ち上げる? 花火なんて使ったこと無いし、鉄の筒だって無いぞ?」

「なぁに、音玉用の長い導火線は用意してあるから、流木でイカダを作って、そのまま乗せて導火線に火をつければいいさ。 あとは潮の流れが運んでくれる」

「上手くいくかなぁ~」

「一発でも火が付けば成功だよ。

 そうすれば衛兵の目がそちらに向くから、次はあたしが音玉を海に落として混乱させる」

「花火が上がらなかったら中止しろよ」

「ああ、わかっているよ」


 ホルフは鞄を持つと港の方へと歩いて行き、岸壁を見渡せる高台に立ち、流木の有無を確かめた。 直ぐに小さく頷くと、人目を避けながら岸壁に消えていった。


 それから暫くして五の鐘が王都に夕方を告げる頃、ソルシャは第一の門の近くでホルフが花火を打ち上げる瞬間を待っていた。

 鐘の音と同時に導火線に火をつけイカダを流す。 潮の流れに乗ってどの程度移動するかはわからないが、イカダの移動距離よりもホルフがその場を離れる為の時間が必要となる。

 その猶予は導火線の長さから、5分前後であると予想できる。

 第一門は五の鐘を合図に入城を終了し、中に入っていった荷馬車が出てくるのを待って門が閉じられる。

 広場に目を移すと、用事を終わらせた者達が方々に散り始め、城前広場はひと気が無くなっていく。

 ソルシャはこのタイミングで花火を鳴らし、広場に残った者や衛兵の視線を海へ逸らすつもりだった。


 だが、突然の強い気配に背筋が凍ってしまう。


「これはこれは、Aランクハンターのソルシャ殿ではありませんか。

 いかがされましたかな? この様な時刻に」

「!?」


 花火を今か今かと思っていた矢先、突然後ろから声を掛けられ心臓が飛び出そうになる。

 衛兵の気を海に向けるつもりが、自分が海に集中してしまい周りが見えなくなっていた。

 それでも直ぐ斧に手をかけ、間合いを取る様に振り返った。


「・・・アーチェス騎士団長」

「ええ、良く分かりましたね」

「有名人だからねぇ」

「あはは! 貴殿の活躍も騎士団で噂になっておりますよ。 ハンターギルドに頼りになる、Aランクの女大斧使いが居ると。

 達成できなかった依頼など無い猛者とね」

「過剰評価だよ。 たまたま、女のあたしに楽な仕事が回って来ただけさね」


 話し中もヒリヒリする程の威圧を投げかけてくるアーチェス。

 ホルフの話では国王と一緒に遠征に出ているはず。 一番会いたくない相手から声をかけられてしまった。


(どうする! これ程の剣士が花火で気を逸らせるとは思えない)


 ソルシャは動揺を隠しつつアーチェスと向かい合う。


「少し用事があったものでね。 騎士団長こそ、国王の護衛で遠征に出ていると、ギルドで耳にしたんだけどねぇ」

「ええ、ですが緊急の知らせが届きまして、国王共々少し前に戻ってきたのですよ。

 それで衛兵達に帰還した報告と、情報共有していたところで、ふと貴方を見かけたのでね」

「・・・・・」


(まずい・・・そろそろ時間・・・)


 焦りを押し殺そうとするも、頬を伝う汗がその動揺を物語っていた。

 次の瞬間、綺麗な夕焼けに染まっていた城壁の一角が、赤と黄色の閃光に一瞬包まれた。


<ドーーーン!>


 突然の轟音と小刻みの振動。

 その場にいる誰もが、地面にかがみながら音の方向に振り向いた。

 中にはその衝撃波で道に転び、腰を抜かしたものまでいる。


「な、何事だ!」


 門を守っていた衛兵が慌てて海側に駆け出す。

 最初の一発目でその後は打ちあがらず、それが返って状況を分からなくし益々混乱させる。 ソルシャの目論見は成功し、衛兵の視線を海に向ける事ができた。

 しかし・・・。


「静まれ!! 持ち場に戻れ!!」

「し、しかし騎士団長、未確認の砲撃が!」

「落ち着けっ! 今のは砲撃の音じゃない。 近くで花火を使っただけだ。

 本物の砲撃なら、空気を裂くような重低音と、胸に響く衝撃が伴うはずだ」


 アーチェスは冷静に音を分析し、すぐさま花火だと断定した。


「は・・・花火? ですがその様な報告は・・・」

「なぁに、たまにはいいものだ。 なぁ、ソルシャ殿」


 ソルシャの方に振り返りながら意味深な言葉を投げかけるアーチェス。

 続けて打ち上らなかったところをみると、初発で他が吹き飛ばされ海に落ちてしまったのだろう。

 アーチェスが居なければ完全勝利と言えたが、こうなってしまっては手の打ちようがない。

 しかも、全てお見通しという表情をしているアーチェスが目の前に居る。


「まいったね・・・」

「フフフ・・・」


 勝ち誇ったように含み笑いを浮かべるアーチェス。


「さて、それじゃあ一緒に来てもらいましょうか」

「何故だい? あたしは何もしていないよ?」

「私の用事はもう一つ有りましてね。 陛下から貴殿を城にご案内する命を承っているのですよ」

「!?」


 予想外の言葉に、ソルシャの思考は一瞬で凍りついた。

最後まで読んでいただきまして有難うございます。

挿絵の入ったバージョンもXにて紹介しております。

@Ocarina_Quartet

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