恋愛経験ゼロの私が作る「恋に効く魔法」が何故か好評です
「私の魔法で恋が成就、ですか」
友人の言葉に、私は首を傾げました。
私が作る魔法が、恋に効く?
何で?
彼氏いない歴イコール年齢の私が作った魔法が、何故か多くの女性の恋を成就させているというのだから、世の中よくわからないものです。
何でしょう、私の恋愛運を生贄に、恋愛運を上げる成分が付加されているのでしょうか?
もちろんそんなことはないはずですが……。
今日も私のもとには、「恋に効く魔法」を求め、多くの人が訪れています。
◆ ◆ ◆
私は普段、「修正魔法」を仕事にしています。
今日も、同僚が魔法に失敗したところを、修正魔法で助けました。
修正魔法というのは、すでに展開された魔法陣を、上書きで修正する魔法です。
私たちは魔法を使う際、魔法陣と呪文を使います。
魔法陣を「気」で宙に描く際、少しでも間違うと、見当違いの魔法が展開され、一気に魔力を奪われ気絶、なんてこともざらです。
私は昔から、「何となく」危険な魔法陣がわかるというのもあり、展開した魔法陣のどこに原因があるのかを直すことができます。
一般的には、修正魔法を使うのは大変リスクを伴うことだとされ、使える人はほとんどいません。
そんな修正魔法の技術を見込まれ、私のもとには王宮騎士団や王子などの依頼が集まるようになっていました。
それがいけなかったのでしょう。
騎士団の団員や王子は、この国でも大人気のイケメンです。
今度は女性たちから「恋に効く魔法が作れるのでは?」と噂されるようになり、何故か「恋に効く魔法」の仕事を頼まれるようになってしまったのです。
私、ラヴェン・ミールンは、魔法を改良することを仕事にしていますが、「恋に効く魔法」は作ったことがありません。むしろこっちが聞きたいぐらいです。
そもそも私は現在23歳で、彼氏いない歴イコール年齢の、恋愛経験ゼロ人間。
自分の恋もままならないのに、人の恋なんて無理です。
それにも関わらず「恋に効く魔法」相談が来るようになったのは、友人のこんな話がきっかけでした。
◆ ◆ ◆
「相談があるんだけど」
友人のリリーヌはそう切り出してきました。
「私、春から勤め始めた職場で、ちょっと良いなと思っている人がいて。その人と今度、食事に行くことになったんだけど、自信が無くて」
リリーヌはそう言って、前髪に触れました。
ピンク色の髪に、同色の瞳。美人というより可愛らしいという表現が似合う、小動物のような彼女は、不安そうに私を見て言いました。
「ラヴェンにアドバイスをもらいたくて」
「アドバイスって、恋愛の話なら、もっと得意な人の方が良いのでは?」
「え? でもラヴェンの周りにはいつも素敵な男性がいるって話じゃない。騎士団の方とか王子様まで。私もこの前、ラヴェンと一緒に歩いているイケメンを見たよ?」
少し思い返してみましょう。確かリリーヌと会ったときにいたのは、騎士団のノルアートでしょうか……。
「魔法のことを話していただけで、何もないですよ」
その時も確か、回復魔法の改良について話したので覚えている。
「でも親しそうだったし、そんな風に気軽に話せることが羨ましい」
そういうものですか。
「何かこう、自信をもって話せるような、良い方法ないかな?」
そう言うと、リリーヌはまた前髪に触れました。
「あの、ちょっと聞いても良い?」
私は気になって尋ねました。
「前髪に触れると、落ち着きます?」
「ううん、そういうんじゃなくて、前髪が変じゃないか、いつも気になるの」
そう言うと、リリーヌは鏡を取り出して、前髪を直しました。
「少しでも変に思われていないか、気になっちゃうんだよね」
「それなら」
しばらく考えて、私はシンプルな魔法陣を作り、リリーヌに魔法をかけてみました。
「何の魔法?」
「前髪を気に入った状態で固定する魔法」
「何それ! そんなことできるの? あ、確かに動いてない!」
リリーヌは鏡で前髪を確認し、笑顔を浮かべました。
「まあ、おまじないみたいなものですが、『前髪が完璧』って思ったら、少しは自信が出るんじゃないかと思って」
「ありがとう!」
私は魔法陣を紙に書いて渡しました。これで自分でもこの魔法を使うことができるでしょう。
彼女のデートがうまくいくといいな。
そう願った、数週間後。
「彼とお付き合いすることになりました!」
彼女は嬉しそうに私にそう報告してくれました。
「良かったね」
「それでね。私の話を聞いた友人が、ラヴェンにぜひ恋愛相談に乗ってほしいって」
「何故?」
「何故って、私の恋がうまくいったからよ。あ、もちろんダメだったら断るけど……」
「ダメではないですが……」
恋愛相談する相手は、私じゃない方が良いのでは?
そう思いながら、私は後日、指定された高級なお店でリリーヌとその友人を待つことになりました。
現れたその友人というのは、私も知る有名貴族のご令嬢でした。
ウェーブがかった長い茶色の髪に、緑色の瞳。か弱そうで線の細い、上品な女性。
確か婚約者もいるはず。恋愛相談って何でしょう?
「実は、婚約者の方と距離があると言いますか、嫌われてしまっているみたいで」
「何か心当たりはあるんですか?」
私が空気を読まずそう尋ねると。
「大ありなんです!」
彼女、ミミエットは前のめりでそんなことを言いました。
あるんですね、心当たり。
「私、昔から病弱で。でも婚約者の方は、体力のある方で、スポーツや山歩きが大好きなんです。だから彼が行きたいところや、したいことに、私だと体力的についていけなくて……一緒に楽しめないんです」
「大変なんですね」
私がそう相槌を打つと、ミミエットは泣き始めてしまいました。
よほどため込んでいたのでしょう。
私はじっと彼女の話に耳を傾けました。
「私、彼のことが本当に本当に大好きなんです。彼と一緒にいたい。なのに、彼と一緒の世界を見ることができない……。病弱な自分の体が嫌いです。もっと体力があって、元気だったら、彼と一緒にどこにだって行けるのに……」
そんな彼女を見て、私の頭にいくつかの魔法が浮かびました。
もしかしたら、それで解決できるかもしれません。
「これなんてどうでしょう」
私はいくつか魔法を描き、説明することにしました。
「これは体力アップの魔法。これは体を宙に浮かせる魔法で、これを使えばちょっとした山なら一緒に行けると思います」
ミミエットはかなり魔力があるようだったので、私はいくつか魔法を提案しました。
すると……。
ミミエットはさらに泣き始めてしまいました。
「え、えっと……」
「ありがとうございます! これで、彼と一緒に出かけられます!!」
泣くほど嬉しかったようです。
彼と一緒に出かけたい。出かけられる。それは素晴らしいことだと思います。
でも。
「魔法を提案しておいて言うのもなんですが、本当の、等身大のあなたを、好きになってもらった方が良いと思いますよ」
私はそんなことを言っていました。
「でも……」
「あなたは、そんなにも彼と一緒にいたいと思っているじゃないですか。自分の体調に無理をしてまで、相手と一緒に頑張りたい、一緒の世界を見たいと思っている。その素直な気持ちを愛してくれないような相手なら、そんな奴、こちらから捨ててしまった方が良い。等身大の、体力のないあなたを好きになってくれなければ、ずっと一緒になんていられません。そのままのあなたで、ぶち当たることも必要です」
私ははっきりとそう言いました。
ミミエットは黙り込み、少しの間下を向いていたかと思うと。
「そうですね。私、何か間違っていたのかもしれません」
彼女はゆっくりとこちらを向きました。
「体力があれば、一緒にいられれば、彼は私の方を向いてくれるんじゃないか。ずっとそう思っていました。だけど、そこに逃げていただけなのかもしれません」
ミミエットは笑顔を浮かべました。
「ぶち当たってみます」
上品な彼女からのその言葉には、強い決意がこもっていました。
私は彼女の恋がうまくいくといいなと心から思いました。
それから数週間後。
ミミエットから手紙が届きました。
例の婚約者と、ハイキングに行ったそうです。初心者の誰もが装備なしで行けるような、丘のようなところ。それでも彼女にとっては少し無理をしなければ行けないところだったようです。彼女は彼に、自分が体力が無いこと、それでも魔法を使ってでも一緒に行きたいと思っていること、彼のことが大好きだということを、一生懸命伝えました。
するとそれまで距離があった彼と、少しずつ仲が深まってきているのだそう。彼も彼女に合わせたところに、お姫様抱っこまでしてエスコートしてくれるそうです。
そんなのろけ話にくらくらしつつ、彼女の恋がうまくいったことを、私は心から嬉しく思いました。
するとそんな彼女からの口コミで、私のもとに「恋に効く魔法」を作って欲しいと、依頼が殺到することになったのです。
いや、だから、それは無理ですって。
恋に効く魔法って、何?
そんなものを作った覚えはないんですけど。
けれど頼まれると断れない性分というのもあり、私は彼女たちの悩みに応えるちょっとした魔法を作り、それが何故かどの人からも好評でした。
たとえば、彼に会うと緊張して思いをうまく伝えられないという人の時には、言葉をあらかじめ録っておく「録音」の魔法を使い、本当の気持ちを聞いてもらった、なんてことがありました。
その魔法をきっかけに、彼とうまく話せるようになったという嬉しい報告があり、心がほかっとあたたかくなったものです。
ほとんどの恋は成就していたのですが、中にはうまくいかないケースもありました。
本人も最初から、うまくいかないとわかった上で、「前に進むために告白したい」と言い、そんな彼女が美しく見える魔法が作れないか考えました。彼女は肌がとても綺麗だったので、その肌が際立つ魔法を作ったのでした。
後日彼女から、「あなたの魔法のおかげで、自分に正直に告白できて良かった。今、新たに好きな人ができて、その人と良い感じです」と、お返事をいただきました。
そんな風に、結果的にどの人も後押しできていたみたいで、私は本業だけでなく「恋に効く魔法」でも忙しいくらいでした。
そんなある日。
「私、騎士団のノルアート様の大ファンで。彼とお付き合いしたいんだけど、何か良い魔法はない?」
そんな相談を受けました。
「ノルアートさん、ですか」
騎士団のノルアートは私の友人でもあります。
私の魔法技術を認め、周囲に紹介してくれた大切な友人でもあります。彼のおかげで仕事が安定したと言っても過言ではないほどお世話になりました。
私はこの女性、ルメークに尋ねました。
「ノルアートさんとは、どういったご関係なのでしょうか?」
「ファンよ。イベントで見て以来、その美しい容姿に一目惚れして、それから毎回参加しているの」
「そうですか」
どうやら知り合いではないようです。
困りましたね。どうしましょうか。
「申し訳ないのですが、お知り合いではない方では、なかなか難しいかと」
「恋に効く魔法を作ってくれるんじゃないの? 彼を私の方に振り向かせてよ」
私はしばし考えて。
「……物理的に振り向かせられるよう、あなたを目立たせる魔法ぐらいなら作れますが、それでいいですか?」
「早くそうして」
私は宙に魔法陣を描き、彼女の上に「↓」のマークが浮かぶようにしました。
頭上に現れた「↓」を見て彼女は怪訝な顔を浮かべると。
「何これ」
「目立って良くないですか?」
「馬鹿にしないでよ。あんたが自分で使えば?」
そう言って、彼女は怒って帰っていってしまいました。
自信作だったんだけどなあ。
それはそうと、帰ってもらって良かったのかもしれません。
知り合いでもないのであれば、恋仲になるのは難しかったでしょうし、ノルアートに迷惑をかける可能性もあります。
私はホッとしていました。
後日。
私はノルアートと会う機会があったので、ノリでその魔法を使って会うことにしました。
「何です? それ?」
私の頭上に浮かぶ「↓」が気になったようで、ノルアートは笑いながら尋ねました。
彼はいつもにこやかな笑みを浮かべていますが、何だか今日は少し違う、好奇心に満ちた笑みに見えます。
ノルアートは金髪碧眼、すらりとした鍛えられた体躯に、紺色の騎士団の制服を着ていて、女性から大変人気があるのですが、私が見てもかっこいい容姿をしています。
普段は修正魔法の話ばかりしているのですが、彼は珍しく矢印を指さして笑っていました。
「目立って面白いでしょう?」
「目立ちたいんですか?」
「自分の魔法が正しいかどうか、検証したかったんですよ」
私はそう言って胸を張りました。
ほら、ノルアートには効きましたよ。
そう自己満足に浸っていると。
「何の検証ですか?」
そう尋ねられ、
「あなたが注目するかどうかの確認です」
何故か素直に答えてしまいました。
しまった。
「僕が注目するかどうか、ですか?」
「いえ、これはその、目立つかどうかの確認で……」
守秘義務もあるので言えないものの、これでは私がノルアートに注目されたい人みたいになってしまっています。
すると彼は私の顔をじっと見て、
「僕はずっと、あなたに注目していますよ」
と、笑いました。
それは優秀な魔法使いという意味でしょうか。
私が返答に困っていると。
「あなたも僕に注目してくれるといいんですけど」
そんなことをさらりと言うので、
「『↓』つけます?」
「いいですね。その魔法を教えてください」
ノルアートは私が魔法陣を宙に描くと、それを楽しそうに見つめていました。
◆ ◆ ◆
それからしばらくの月日が過ぎて。
私たちの国に、巨大なドラゴンが何頭も襲来するという前代未聞の事件が起こりました。
ノルアートたち騎士団の面々も、王都を守るために戦いに行くことになり、私は彼らのリクエストもあっていくつかの魔法を作りに向かいました。
「ラヴェン」
各々のリクエストに答えて魔法を作っていると、ノルアートが話しかけてきました。
「防御魔法を作ってくれませんか?」
彼はそう言うと、普段使っている防御魔法を見せました。
「僕は攻撃魔法があまり得意ではありません。だからこそ、ここにいる誰も失わないための、強力な防御魔法をお願いします」
私は悩みました。防御魔法そのものは、以前作ったものが今考えられるベストのものです。だけど、それでは納得がいっていない。何か彼が納得のいく作りにして、自信をもって戦場に向かって欲しい。そう思った私は、こんな魔法を作ることにしました。
「防御と同時に攻撃する魔法、ですか」
「防御力としては、以前お伝えした防御魔法が強力です。それにプラスして、守りながら戦いたいときのための魔法です。これを使えば、攻撃してきた相手にカウンターを与えながら守ることができます」
もっと何か考えられないかと思ったのですが、その時はそれぐらいしか思いつきませんでした。
「この魔法で、必ずみんなを守ります。仲間を、この国を、そして、あなたを」
ノルアートはそう言って笑うと、
「戻って来たら、話したいことがあります。聞いてくれますか?」
彼のその真剣な瞳は、私をしっかりと見つめていました。
「わかりました。必ず戻って来てくださいね」
まるでフラグみたいなことを言った彼は。
新たな魔法を携えて、ドラゴンの群れへ向かって行きました。
それから私は、後方支援として、様々な魔法使いに改良した魔法を教え続けました。
戦いは日に日に激しくなり、怪我を負った者や魔力を使い果たした魔法使いたちを救護する仕事すら回ってくるようになりました。
このままでは。
そんな思いが頭をよぎりました。
彼は大丈夫でしょうか。
負傷者の中に、騎士団の団員の姿はありませんでした。
彼らは今も、前衛で戦い、彼らが倒しきれなかったドラゴンたちが、こちらまで来ている状況なのだと思います。
私の魔法が彼らを守ってくれることを、願うしかありませんでした。
いくら魔法を作れると言っても、圧倒的数を前に私は無力で、そのことが悔しくて、必死に考えました。
もし、今までで一番強力な魔法を作って、それを発動させることができたなら。
ずっと必死で考え、浮かんだ構想はありました。だけどそれはとても難しい魔法で、使う人にリスクが伴うだけでなく、たくさんの人の協力も必要になるものでした。
それが使えれば、この国を救うことができるかもしれません。
どうにかしたい。そう思っても、とにかく大勢の人の協力が必要な魔法です。私が呼びかけようにも、どうしたらいいかすらわかりません。
そう思っていた時。
「私にできることはないでしょうか?」
悩んでいた私に、貴族令嬢のミミエットが、そんなことを言ってきました。
病弱で、何かをするには不向きな彼女は言いました。
「彼が戦っている今、黙って見ているなんてできません!」
彼女の言葉が強く心に刺さりました。
私は思い切って話してみることにしました。
「魔法を考えたんです。ただ、それには魔法を使える多くの人の協力が必要で。だけど、そんな人たちはとっくに戦場に行っていますし、どうしたらいいか、悩んでいて」
「何故早くおっしゃってくれないのですか!」
「え?」
「私たちがいます。私たちは、魔法なら使えます。戦場には行けなくとも、魔力ならあります。私が呼びかけます。あなたの魔法だと言えば、力を貸してくれる魔法使いは、いくらでもいるはずです。あなたの魔法に後押しされ、救われた女性は大勢いるのですから!」
ミミエットはそう言うと、様々な人たちに私が提案した魔法を呼びかけてくれました。
私の魔法だと言った途端、多くの女性が力を貸すと約束してくれました。
一人一人は大した魔法は使えないけれど。
大勢が集まれば、思いを一つにすれば、大きな魔法を展開することだってできる。
国中の魔法使いが、それぞれの家から窓の外を見つめ、祈るように魔力を送ってくれました。
その巨大な魔力を受け、私は巨大な魔法陣を王都の上空に描きます。
使う者にリスクが伴う、強力な炎魔法。
そのリスクは、使う自分が一番よくわかっていました。
だけど今は。
何より彼女たちの思いに応えたい。
私が、私たちが、彼らを守るんだ。
「炎よ!」
私が呪文を唱えると、その巨大な魔法陣から溢れた炎は、王都を襲う数々のドラゴンをことごとく呑み込み、すべてを燃やし尽くしました。
ドラゴンの属性すら無視した強力な炎魔法は、この国を救ってくれたのです。
◆ ◆ ◆
それからしばらくの間、私は魔法を使った反動で眠りについていたみたいでした。
目を覚ますとそこにはミミエットやリリーヌなど複数の見知った女性がいました。
「目覚めたんですね!」
彼女たちは私をじっと見つめ、嬉しそうに微笑みました。
「ここは……」
「病院です。あなたの魔法で、この国は救われましたよ!」
「先生を呼んできます!」
数人が魔法医を呼びに行きました。
「あの、聞いても良いですか?」
私はミミエットたちに、騎士団がどうなったのかを尋ねました。
「皆さん無事戻って来られましたよ」
「あ、でも確か……」
「そうよ、彼だけは……」
彼だけは?
「何かあったんですか?」
私がそう不安になっていると。
「僕は無事ですけどね」
ノルアートが、扉の所からこちらを見て言いました。
「帰って来た時に、ファンと名乗る女性が攻撃して、ノルアート様が大怪我されたんですよ」
女性の一人がそんなことを言いました。
「えっ、大丈夫なんですか?」
私が心配そうに尋ねると。
「怪我はもう治っていますし、話をしたらわかってくれましたよ」
そう言うと、ノルアートは魔法で「↓」を頭上に浮かべました。
「僕は、こういうことを一緒に楽しめるような相手じゃないと、好きになれないと話したんです」
そう言うと彼は、私に恭しく跪きました。
「僕と、結婚を前提に、お付き合いしていただけないでしょうか」
「「きゃああああああ!!」」
周囲が私以上に盛り上がりをみせ、私は先ほど起きたばかりだというのに、ばしばしと背中を叩かれました。
私は恥ずかしくもありましたが、ずっと決めていた言葉を言うことにしました。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私が彼の手を取ると。
その意外と大きな手は、私の手をしっかりと握りしめたのでした。
◆ ◆ ◆
大変なこともあったけれど、王都は今日も平和です。
とは言え私の仕事は、今まで以上に忙しくなりました。
私の作る魔法は、どれも「恋に効く魔法」なんて呼ばれ、何故か好評です。
<終わり>
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