8話 追憶、そして
休み無く長時間移動していると、日課の鍛錬をしている林が見えてきたが、もうすでに日が沈み始めていた。
「やっとここまで戻ってこれたね。少し休憩しようよ」
走り続けていたので、俺の足は疲労感でいっぱいだった。
「鍛錬場まで行けば、家まであと10分くらいだけど歩くのも無理か?」
俺は何度も首を縦に振った。
「そうだよな。ずっと走ってたもんな」
これだけの距離を走ったにもかかわらずロイは全く疲れを見せていない。俺はその体力をうらやましく思った。14歳はみんなこんなものなのだろうか?
「休憩したいところなんだが……二人が帰っていた場合、心配になってわざわざ林まで迎えに来るかもしれないから、俺だけでも先に帰ってラプトは少し遅れて帰ってくるって伝えようと思うけど、それでもいいか?」
「うん。少し休憩してから帰るね」
「お前は今日の主役だし、遅れて登場するくらいが格好いいだろ!」
ロイはお決まりのニッコリ顔でそう言った。
「そうだね!ハニーベリーはどうする?ロイが持って帰る?」
「ハニベの袋はそこそこ重いから、俺が持って帰るわ。———じゃあ俺は先に行っとくから」
「うん。俺もすぐ行くから」
ロイはハニーベリーの実が入った袋を背負い、駆け足で家の方角へ走っていった。1分も立たない間にロイの姿は見えなくなっていた。
「すごい体力……」
俺はロイの無尽蔵とも言える、この体力をうらやましく思う。
以前、父に将来について相談したことがあるが、父は「子供のうちは先のことは考えなくていい、なりたいものが無いなら、成長していく過程で自然と見つかるものだ」なんて言っていたけど、大人になるまでに見つからなかったら、どうすればいいんだろう?
ロイのように突出した才能があれば、その道に進めばいいけど、俺にはそんな才能がないからな………剣術に関しては素人では無いが超一流では無い。
座学に関しても記憶力はいい方だが、ものすごく頭の回転が速い訳では無い。ただ、考えることは好きだ。
魔力操作はそこそこできるがロイよりも少しだけ上手いレベル。
現状はどれも中途半端だ………一人になると後ろ向きな考えが頭の中を支配する。
こんな思考になるのはもうやめよう。俺は今日で10歳になるんだから。
自分の弱さを減らしていかないと、父や兄のように強くはなれない。
剣の腕を上げたいけど、これ以上鍛錬をしたところで今以上に上達するとは思えない。俺もロイみたいに、幼少期から王都で暮らしていれば何かが変わったのかな。
兄が王都で暮らしているのには理由がある。それは剣術の鍛錬のためだ。そりゃあ、こんな何も無い殺風景な場所に籠もって修行したところで、剣の腕が上達するとも思えないし。
それは別にいいのだが、俺が去年の冬に「王都に住んで剣術を学びたい」と言った時、父と母はなんとも言えない微妙な表情をしていて、すごく気まずい空気が流れた。
父の返答は兄の時は弟である俺が生まれていなかったから、剣術の相手が月に数回しか帰ってこられない父しか居ないため、その状況を解決するために幼少期から王都で暮らしているのであって弟の俺が剣術を習う頃には兄が俺の剣術の相手になれたから問題ないだろう。ということで話は終わったが、納得していなかった俺は不満そうな表情で部屋に戻った。
すると、その日の夜にロイが俺の部屋を訪ねてきた。
「なにかよう?」
扉を少し開けて、その隙間から俺は不機嫌そうに聞いた。
「さっきの王都の件で少し話がある」
ロイは小声で返答した。
部屋に入れるとロイは話し始めた。
「父は王都勤めにもかかわらず、家が王都の外れにあるのはなんでだと思う?」という質問をしてきた。
「俺の剣術が下手過ぎて、王都で暮らすと家族が馬鹿にされるから?」
俺がそう答えるとロイは顔を天井に向け、頬がこれでもかというほど膨れていた。
完全に笑いを堪えてやがる………馬鹿にされた気分だったが、ロイが笑いを堪えている顔が可笑しくてこっちが笑ってしまった。
「くっ……あはははっ!」
「ぎゃはははは!なんでお前が笑うんだよ」
どうやら俺が笑ったことに誘われて、兄も笑ってしまったようだ。
「ロイが笑うのを我慢してるのを見ると、おかしくって」
「なんだよそれ!」
夜中に大声で笑ってしまったのでこの後、父と母が部屋に来て、俺とロイに「早く寝なさい!!」と酷く怒っていた。
次の日にロイに昨日の質問の答えを聞くと、答えは騎士にもなると、王都内の勢力争いに巻き込まれることがあるそうだ。その際に家族を人質にして脅してくるやつも居るらしい、なので家族はできるだけ安全な場所に居てほしいんだと思う………という答えだった。
確かにロイは強いから自分の身は自分で守れるけど、俺はそうじゃない。いざと言うとき足手まといになる可能性は高い。
だが、兄は俺が生まれる前から王都で暮らしていることを考えると、王都はそこまで危険じゃない気もするが………ロイは幼少期から自分の身を守れるくらい強かったのだろうか?
まあ、当時はいろいろと疑問はあったが、この件はひとまず納得したということにした。
今思えば、あれは兄なりの父と母へのフォローだったのかもしれない。
昔のことを思い出していると、周囲は暗くなっていて、いつの間にか体力がある程度まで回復していた。
「ぼちぼち帰るとするか……」
そうつぶやき、帰宅しようと家の方向に歩み出したとき、ちょうど真正面に小さな影が見えた。
遠目ではあるが、すぐさま人影だとわかった為、少し後方の茂みの影に隠れて息を殺し身を潜めた。
なぜそのような行動を取ったのかというと、その人影は異様な気配を放っていた。
俺が鍛錬をするようになってから、俺、ロイ、父、母以外の人物が林に来ているところを見たことがない。