7話 帰路
全力疾走のおかげか、想像よりも早めにハニーベリーの木付近の岩場まで戻って来れた。
ふと、岩場の陰から顔を出しハニーベリーの木に視線を向けると、ロイはまだ木の上でハニーベリーの実を採取していた。
森を探索していたことは、おそらくロイにはバレていないので自身の胸をなで下ろした。
そういえば……急いで戻ることに集中していて、手に持っている『コレ』の存在を完全に忘れていた。コレとは森で拾ったボールのような球体である。
ロイに見つかったときになんて言おう………岩場で、偶然見つけたことにしようかな?
いや、無理がある……こんな、人の手が加わっているであろう物体について、ロイは間違いなく追求してくる。だが、せっかくの戦利品?なので捨てるのは躊躇ってしまう。
俺は何か良い案が無いか辺りを見渡すが、これと言った隠し場所はない。それに隠せたとしても、次に森に来るのはいつだ?数週間後に、再び森に来ても隠した『コレ』がそのまま隠し場所に残っているとは限らない。
ロイに気付かれずに持って帰ることができないなら、バレる前にそこら辺にぶん投げて捨てるか……。
ロイにバレずに持って帰る方法………諦めかけていた俺は再びハニーベリーを採るロイに視線を向けた。———もしかして…!?
俺の脳裏に一つだけ思い浮かんでしまった。リスクは高いが、最初さえ乗り切れば高確率でバレずに持って帰れる方法。それは———〃ロイの持っている、ハニーベリーの実が入った袋に紛れ込ませよう!〃という策だ。
それから少ししたら、ロイが実を採り終えて木から下りて、俺の居る岩場まで近づいてきた。
来た!!例のボールは現在、両指を隙間なく絡めて、臍の上辺りでお腹を抑えるようにして握っているから見えていないはず!格好は不自然かもしれないが、不審に思われる前に勝負に出る!!
「よし!そこそこ採れたし帰るか!」
ロイはぶっ通しで、ハニーベリーの実を採っていたにも関わらず、疲れた様子は微塵もなく生き生きとしていた。
「うん!ハニーベリーを採るので疲れただろうし、袋は俺が持つよ」
「そこそこ重いけど大丈夫か?それに、俺は疲れてないから気にしなくていいぞ」
「いいから、いいから」
俺はそう言いながら、ロイとハニーベリーの入った袋の間に立ち、ロイの方向に背中を向けてハニーベリーの袋と向かい合わせになる形でしゃがんだ。
「そこまで言うなら…持って貰おうかな」
ロイは仕方なくという感じだが、納得してくれた様子だった。
俺はすかさず、ロイの死角になっている内にハニーベリーの実が入った袋にボールを入れて、その場から90度反転して袋を背負うように持ち上げた。
うっ…確かに、これは重い………。でも、なんとかバレずに?紛れ込ませる事に成功した!
「無理はするなよ。厳しくなったらいつでも変わるからな」
「うん!わかった!」
ハニーベリーの実は十分に採取できたので、森から家に帰ることにした。
***
「何かあったのか?」
森から家への帰路についていると、歩きながらロイが問いかけてきた。
「どうしたの…?何でも無いと思うけど……」
「俺が木に登って、ハニベを採って降りてきてから様子がおかしいから…」
木に登る前と後で、俺の印象がかなり違って見えたのだろうか?
それとも———森で出会った女に妙な術をかけられた影響か?あの時は間違いなく、俺の身体に異変が起こっていた。その時かけられた術の余韻を、ロイが感じ取ったか?
いや、根本的な何か違う理由———心情の変化とか?
今思えば、自分で取りに行こうと言い出したにもかかわらず、やったことと言えばただついて行き、ロイが採取している間に、自分だけ森の中を探索していた………そんな自分に呆れていたのかもしれない。
「全然!それよりさ2人はもう王都から家に帰っているかな」
様々な感情による、ロイへの後ろめたさから自分が恥ずかしくなり、俺は話題を変えた。
「たぶんもう帰ってると思う。書き置きには林に行ってるって書いたから、たぶん大丈夫だ!」
森まで行っていたことが親に知られたら、十中八九怒られるので、ハニーベリーの実は林にいた鹿が咥えていたことにしよう。という、かなり無理のある内容の口裏合わせもしているが…………これだけの量を鹿が咥えているのは現実味がなさ過ぎる………。
「ラプト、ここから林まではなるべく早く戻ろう」
林に着くまでは休憩は無しで、移動するペースを速めることにした。